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 香港の林鄭月娥行政長官は12日、地元テレビ局のインタビューで、共産党独裁の中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「『逃亡犯条例』改正案を撤回しない」ことを明らかにし、「自由」と「民主」「法の支配」を死守しようとする学生らによるデモを「組織的な暴動行為」と非難した。しかし、15日午後には、「審議を無期限延期する」と述べるなど二転三転している。
 「行政長官に選択肢はない。悪法の実施を表立ってやる『切り込み隊長』として中国共産党に使われている。従わなければ彼女の家族も危険にさらされる」
 反中国共産党の活動家らがこう語るように、ラム長官は操り人形なのだろう。香港大規模デモの背景には、中国共産党内部の死闘がある。お飾りのラム長官は、2017年3月に任命された(7月就任)。結論から言えば、彼女は第1次習近平政権で香港を主管する中国政府の最高機関「中央香港マカオ工作協調小組」の当時トップ、張徳江氏(中国共産党序列第3位)が推した人物である。
 ただ、張氏の上にはさらに大物の黒幕がいる。香港マカオ工作は長年、江沢民元国家主席派の超大物、曽慶紅元国家副主席(元序列5位)が担ってきた。彼は別名「江派二号人物」と呼ばれる。
 香港マカオの工作は、曽氏から習氏に渡り、その後、張氏が引き継ぎ、現在の第2次習政権では、江派の韓正・筆頭副首相(序列7位)が、その地位にある。習氏が現在の地位へのぼり詰める過程では、絶大なる権力を有した江氏と、事実上ナンバー2だった曽氏の力が大きかった。
 ところが、習氏は総書記と国家主席の座を射止めて、突如、牙を剥いた。「トラもハエも」の掛け声で、江一派の利権や資産を奪取し、汚職で次々と幹部を捕まえ、監獄や鬼籍に追いやってきたのだ。
 このため、習氏にとって香港とマカオは危険地域になってしまった。
 習氏と夫人らが2年前の6月下旬から7月1日、香港を訪問した。国家主席として初めて、9年ぶりの訪港だったが、保安当局や警察当局は、安全保障レベルを最高級の「反テロ厳戒態勢」に引き上げた。中国本土からも、事前に人民解放軍や武装警察などが大量投入され、「暗殺に怯える」習氏の周囲に、よそ者が近づかない態勢を整えた。
 さらに、習氏が昨年10月にマカオ入りする直前には、マカオのトップ、中国政府の出先機関である「マカオ連絡弁公室」主任の転落死も報じられた。江派だった主任の死因も謎だが、「香港・珠海・マカオ大橋」の開通式に、習氏は異様な警備体制のなか、30分以上も遅れて登場し、スピーチらしいスピーチもせず、逃げるようにその場を後にしたという。
 「長老たちはもう、習主席をかばわない。サジを投げている」
 元最高指導者、トウ小平一族に「近い」筋からは、このような話も伝え漏れる。
 ただ、長年、中国共産党でその香港を支配してきたのは習一派の敵、江沢民派である。「江派二号人物」の曽慶紅元国家副主席(二千二年十一月の第十六回党大会で序列五位)の流れを引き継いできたのは、前政権でチャイナセブン(中央政治局常務委員七人)の序列三位だった張徳江・全国人民代表大会常務委員会委員長だ。
 “北朝鮮エキスパート”で“吉林幇”の彼は、香港を主管する中国政府の最高機関「中央香港マカオ工作協調小組」の組長である。「香港・中国経済貿易緊密化協定」CEPAが施行された二千四年、広東省書記として香港を初めて訪れた彼は汎珠江デルタ区域フォーラムの呼びかけ人となり、香港の中国化工作の先陣を切った。
 香港が江沢民派に掌握されているジレンマなのか、習主席は返還二十年の行事に合わせて、昨年六月二十九日から七月一日まで、九年ぶりに同地を訪問したが、複数のメディアは、「江沢民派と表裏一体で張徳江と近い」行政長官の梁振英との握手を、習主席が二度、拒んだことを報じた。新たに行政長官に就任した林鄭月娥も、「張徳江が推した人物」とされる。
 ただ、その張徳江も今年三月に開催予定の全国人民代表大会(全人代)で、年齢により全人代常務委員会委員長を退職するはずで、中央香港マカオ工作協調小組の組長には、習主席の側近中の側近で、プーチン大統領とのホットラインを構築してきた栗戦書(現序列三位)が就任すると専門家らは見ている。
 とすれば、香港は徐々に江一派から習一派の牙城になる? いずれにせよ、国際社会が香港を「自由と民主と健全な資本主義が栄えた地域」と勘違いしていないことを祈りたい。同地は所詮、中国など権力者が牛耳る“闇利権のホットスポット”なのだ。
北朝鮮をダシに体制転換
 この五年ほどの間、金王朝との関係が密接だった石油閥の周永康(元序列九位で終身刑)や軍人元2トップ、郭伯雄と徐才厚らを次々と獄中や鬼籍に送り、習独裁への布石を着々と打ってきた習政権にとって、国際社会からの北朝鮮への制裁の動きは“渡りに船”でもあった。
 米財務省が北朝鮮との商取引に関与した中国人や遼寧省丹東市などの中国企業、船舶などに対する制裁を発表したが、「敵陣=江沢民派の制裁」になるためだ。米国内の資産の凍結、米国人との取引が禁止となれば、江沢民派の弱体化と無力化に拍車をかける。とすれば習一派としては、我慢と忍耐でこの機会をフル活用したいはずだ。
 北朝鮮貿易で長年、主役の地位にあった丹東港集団だが、昨年十一月に中期債券債務不履行(デフォルト)が報じられた。東北アジア経済圏の中心、北朝鮮との国境に位置する丹東港の管轄権を持つ同集団の王文良会長は、クリントン財団の元幹部で選対幹部も務めた「クリントン夫妻の側近中の側近」バージニア州のテリー・マコーリフ知事への違法な選挙資金提供の疑いで、二〇一六年六月、米連邦捜査局FBIと米司法省によって調べられていることが報じられた人物である。
 北朝鮮との合弁による服飾工場の経営、鉱山、石炭、鉄、非鉄金属の採掘、重油の販売など、北朝鮮とのビジネスを幅広く手掛けてきた四十代の馬暁紅董事長兼総経理は、「中共中央対外連絡部所属の工作員」と噂され、一説には北朝鮮取引の二割を牛耳っていたらしいが、彼女と王会長は密接な関係にあった。親北朝鮮の江沢民派、旧瀋陽軍区の中核企業を担ってきた彼らも、すでに“虫の息”である。
 トランプ陣営にとっても、不透明なチャイナマネーで、表裏で繋がる米中関係を斬る上で好都合な流れにある。トランプ大統領が訪中した十一月、習主席は「中米関係の新たな歴史の起点に立っている」と述べ、環球時報の論説は「中国は北朝鮮との関係を犠牲にして、最大限の努力をした」などと記したが、北朝鮮問題をダシに体制転換と武器売買などの利益追求に走っているのだろう。
 ただ、北朝鮮情勢の今後について、「平昌五輪閉幕後に、米国が斬首作戦を実行」などの説も飛び交う一方で、「奇襲攻撃は非現実的」との論調も目立つ。とすれば、袋小路に迷い込まれた感があるのは米中なのかもしれない。
 金委員長は、国営メディアを通じて「新年の辞」を発表。「核のボタンが私の事務室の机上に常に置かれている」「米国はわが国を相手に戦争を起こせない」と牽制し、「核弾頭と弾道ミサイルを量産し、実戦配備に拍車を掛けるよう指示した」という。国際社会の厳しい制裁を受けながらも、金委員長が強気の姿勢を崩さないのは、様々な錬金術を会得したことも背景にありそうだ。「北朝鮮のハッキング能力は、世界七位内に入る」と、昨年十月、米インターネットメディア vox が報じた。七カ国とは北朝鮮、米国、ロシア、中国、英国、イラン、フランスだ。かつては、偽札や武器・覚醒剤の密売などが主な資金源だった北朝鮮は、今や最先端技術の悪用による「錬金」も可能となっているのだ。 また、北朝鮮から四十カ国前後に派遣される出稼ぎ労働者の賃金の九割も、北朝鮮政府に送られる。昨年は年間二十三億ドルの“奴隷輸出売上”があったと見積もられ、中国による締め出しは痛手だが、国連が決めた制裁決議を履行しなくても罰則はなく、派遣先がマレーシアやベトナムにシフトしていくだけ、との話もある。
 さらに金王朝には、いざという時の奥の手…亡命という道も残されている。核シェルターのみならず、中露の国境につながる複数の「秘密の地下通路」の存在が、以前から噂されている。これに対し、北京の中南海にも核シェルターがあることは周知の事実だが、大国の中国では、一党独裁とはいえ習主席とその一族だけが亡命する選択肢はないに等しい。
 その上、真偽は別としても習主席の暗殺未遂事件は、この五年で九回ほど報じられている。二〇一二年三月には、周永康らが胡錦濤国家主席、習副主席らに対し、武装警察を使い暗殺計画を実行したことが報じられた。さらに同年九月上旬、ヒラリー・クリントン米国務長官が訪中した際に、国家主席への昇格が決まっていた習副主席はヒラリー長官との会談をドタキャンした。
 雲隠れした謎の十数日…。習副主席はプールで泳いでいて背中を痛め、中国人民解放軍総医院301病院に入院したとされるが、「周永康らによる暗殺未遂」との説が依然、飛び交っている。「入院先で毒入り注射による殺害未遂もあった」という情報のおまけ付きだ。
 前述の香港滞在時は、保安当局や警察当局が安全保障レベルを最高級の反テロ厳戒態勢に引き上げ、機動部隊や特別警務部隊など、八千人から一万人規模の精鋭部隊が投入された。香港も習主席にとって危険極まりない地域といえる。
 昨年六月には武装警察の幹部らの大幅入れ替えが行われたが、元旦からは武装警察の指揮権を習主席がトップを務める中央軍事委員会に一本化する体制に変わった。周永康に近い武装警察が多数を占めていたことから、組織を信用できないのだろう。
 十二月二十四日には、腹痛を訴えた習主席が、物々しい厳戒態勢の中で検査のため301病院に緊急入院したことも報じられた。「度重なる暗殺未遂への心労」「中南海に専門医を呼ばず入院したのは腹部の負傷など、シリアスな理由があるのでは?」など、様々な憶測を呼んでいる。事情通は、「この度は、中南海の車寄せで習主席の近くに止まっていた別の車が爆発した」という。つまり、習主席は、中南海にも暗殺を試みる敵が入り込んでいることに怯え、301病院への入院を決めたというのだ。
 反腐敗運動の名目で親北朝鮮の江沢民派の大物を次々と粛清し、「兄弟関係」だった金王朝とは史上最悪の関係になった習主席。隣国の核ミサイルや生物・化学兵器の脅威にも震えているはずだ。暗殺を最も恐れているのは、外遊もせずモグラ生活を送る金委員長ではなく、大国で独裁が機能せず国内外に「敵」だらけの習主席ではないのか。

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