索引
1 カジノ法案(IR整備法)とは?
2 カジノ法案(IR整備法)の目的
3 カジノ法案のメリット 4 カジノ法案(IR整備法)のデメリット・問題点
5 カジノ事業への規制 6 今後の流れ
7 小括
8 まとめ
 2016年12月から約1年半の期間を経て、2018年7月20日に「 IR整備法」 が成立しました。
 カジノ法案は、IR推進法とIR整備法とに分かれ、IR整備法はIR推進法を具体的に進めていくために必要な法律として位置付けられます。
 日本では古くから、賭博としてカジノは禁止されていました。このように従来から禁止されてきたカジノなどを解禁するカジノ法案について、そこにどのようなメリット・デメリットがあるのか、また、カジノ法案が規制する内容がどういったものなのかという点について解説します。
1 カジノ法案(IR整備法)とは?
 「 カジノ法案(IR整備法) 」とは、海外では一般的なカジノを含む統合型リゾートを日本でも合法的に導入しようとする法案です。「 IR 」とは Integrated Resort の略であり、「統合型リゾート」という意味です。つまり、カジノ法案(IR整備法)は、「 カジノを含む統合型リゾート(特定複合施設)を設置するための法律 」です。
 「 特定複合施設 」とは、 といった施設が一体となったものであり、「観光の振興に役立つもの」とされています。
 カジノ法案にはいくつかのポイントがありますが、これを簡単に示したものが以下の図になります。
 IR(統合型リゾート)を設置するためには、誘致を望む都道府県などが事業者と整備計画を作り、国から認定を受ける必要があります。設置できる箇所数は、現時点では 3箇所 に限られていますが、 最初のIRの認定から7年 が経過した時点でその数を増やすかどうかを見直すことになっています。
 また、事業者がカジノにより得た収入の 30% はカジノ税として国などの収入になり、地域経済の振興などに充てられます。
 それでは、そもそもカジノ法案は何を目的としているのでしょうか。
 次の項目で、詳しく見ていきましょう。
2 カジノ法案(IR整備法)の目的
 カジノ法案が目的(ねらい)としているのは、主に以下の3点です。  これらのことをまとめると、カジノ法案の目的は次のように言い換えられます。  カジノ法案は、これまで禁止されていたカジノを解禁するための法律ではありますが、目的はカジノの解禁ではなく、あくまで 統合型リゾートを作ることにより観光客を集めること にあります。
 カジノ法案は、観光客の増加による財政難の改善のほか、雇用促進などさまざまなメリットを生むことが期待されていますが、同時に治安の悪化やギャンブル依存症の増加など懸念される問題も孕んでいます。
 このようなカジノ法案のメリット・デメリットについて、次の項目からもう少し掘り下げて見ていきたいと思います。
3 カジノ法案のメリット
 カジノ法案のメリットは、主に以下の点にあると考えられます。
 
  1. 経済効果
  2. 雇用の創出
  3. 観光業の活性化

 それぞれのメリットについて、以下で具体的に見ていきましょう。
(1)経済効果
 アメリカのシティグループが、東京・大阪・沖縄にカジノを作った場合の市場規模を試算したところ、その額は 約1兆5000億円 とされています。また、CLSA(証券会社)は全国12箇所でカジノを作った場合の売上について、 約4兆円 と予測しています。
 このような試算からも、カジノが合法化されることにより、日本は世界でも有数のカジノ大国になり、カジノを作ることに向けられた投資が増えるのではないか、と期待されています。
 なお、1兆5000億円の市場規模は、マカオに次ぐ世界第2位の市場規模にあたります。
(2)雇用の創出
 カジノ施設を含む統合型リゾート(IR)は、複数の機能をもった大規模な複合施設です。そのため、その施設における大量の雇用が見込めます。こちらも試算レベルではありますが、統合型リゾート(IR)では、 1万5000人程度の数の雇用が見込めるのではないか 、と言われています。
(3)観光業の活性化
 実際に、法案可決(2005年)→カジノ創設(2010年)という経過を踏んでカジノを作ったシンガポールを例に見てみましょう。シンガポールでは、実際にカジノが創設された2010年の観光客数は1100万人程度でしたが、2012年には1440万人に増えています。
 このように、カジノなどを含むリゾート施設を作ることで観光客が増えることが見込まれ、観光業の活性化にも繋がるわけです。
  
 以上からもわかるように、カジノ法案によるメリットはカジノ法案が目的としているところと大部分において整合しています。それでは反対に、デメリットはどのような点にあるのでしょうか。次の項目で見ていきましょう。
4 カジノ法案(IR整備法)のデメリット・問題点
 カジノはこれまで禁止されていたため、カジノの合法化に反対する人は多いです。カジノ法案のデメリット・問題点は、主に以下の点にあると考えられます。
 
  1. 治安の悪化
  2. マネロン(マネーロンダリング)対策
  3. ギャンブル依存症の増加
  4. カジノに対するイメージ

 それぞれのデメリットについて、以下で具体的に見ていきましょう。
(1)治安の悪化
 カジノなどを含むリゾートが作られた場合、カジノやリゾートを目的として多くの外国人が日本に入ってくることが想定されます。外国人観光客が増えることによって、施設周辺の治安が悪化することが懸念されます。
 また、賭博については古くから反社会的勢力が関与する傾向が高いといえます。そのような意味において、カジノにも反社会的勢力が関与するのではないかという点が懸念されます。
(2)マネロン(マネーロンダリング)対策
 「 マネロン(マネーロンダリング) 」とは、犯罪などによって不正に得たお金や反社会的勢力がその活動により得たお金を、架空口座などを使って転々とさせ、その出所をわからなくすることをいいます。マネロンは、カジノにおいても使われる可能性があります。カジノの運営側にいったんお金を預けてしまうと、その出所はたちまちわからなくなります。
 日本はまだまだマネロン対策が甘いということが言われており、このような状態でカジノを作ってしまうと、マネロンの温床になってしまうおそれがあります。
(3)ギャンブル依存症の増加
 日本には、パチンコや競馬などに代表されるように多くのギャンブルが存在しますが、過大にギャンブルにはまってしまうと ギャンブル依存症 になるおそれがあります。同様のことはカジノについてもいえ、ギャンブル依存症が増加するのではないかということが懸念されます。
 厚生労働省が発表したところによれば、日本国内でギャンブル依存症の疑いがある人は500万人を超えています。他の国と比較してもその数は多く、日本人がギャンブル依存症に陥りやすい傾向にあることを示しています。
(4)カジノに対するイメージ
 現在の日本において、パチンコや競馬などのように法律上禁止されていないギャンブルは複数存在します。ですが、違法カジノや違法賭博といったことがニュースになることも少なくないため、賭博に対するイメージがいいとまでは言えません。
 このようなことからも、カジノに対してマイナスのイメージを持っている人は少なくないと考えられるため、カジノを受け入れないのでは?といったことが懸念されます。日本人にとってカジノは未知の世界であり、このようなイメージが払拭されるにはそれなりの時間を要するものと考えられます。
  
 以上からもわかるように、カジノ法案のデメリット・問題点は、それ自体が犯罪や社会問題にもなりかねない危険性をもっています。ここに挙げたようなデメリット・問題点が顕在化すると、カジノ法案自体が誤りであったという評価を国民から受けることにもなりかねません。
 このようなことにならないためにも、カジノ事業に対して適切な規制をかけていくことが極めて重要になってきます。
 それでは、カジノ法案はカジノ事業に対してどのような規制を設けているのでしょうか。
 次の項目で、具体的に見ていきましょう。
5 カジノ事業への規制
 カジノ事業への規制は、大きく分けて以下の3つです。
 
  1. 入場規制と入場料
  2. 業務規制
  3. カジノ関連機器等の製造業者等の規制・型式検定等

 各規制について、以下で詳しく見ていきましょう。
(1)入場規制と入場料
 カジノによるギャンブル依存症増加の防止やマネロン対策などのために、カジノ事業者は以下の者をカジノ施設へ入場させたり滞在させたりしてはいけません。  これらの入場規制を徹底するために、利用者がカジノ施設に入退場する際にはマイナンバーカードなどを提示させるなどして 本人確認 が実施されます。
 また、カジノ施設に出入りする頻度が高いと考えられる日本人と居住者外国人は、カジノ施設への適度な入場を確保する観点から、入場料として 1回あたり6,000円 が徴収されます。
(2)業務規制
 カジノ事業者はその業務に関して次の5つの規制を守らなければなりません。
 
  1. カジノ業務に対する規制
  2. カジノ行為区画内関連業務に対する規制
  3. 業務委託および契約締結の制限
  4. 国庫納付金および認定都道府県等納付金
  5. その他の業務規制

 以下で詳しく見ていきましょう。
①カジノ業務
 「 カジノ業務 」は、さらに  に分かれます。以下で順番に見てみましょう。
Ⅰ カジノ行為業務
 「 カジノ行為 」とは、「偶然の事情により金銭の得喪を争う行為」と定義されており、その中でも、「同一施設において、その場所に設置された機器または用具を用いる行為」に限られています。たとえば、ポーカーなどのようにトランプを使ったゲームやルーレットを使ったゲームは、すべて偶然によるもので結果が最初から約束されているわけではありません。このように偶然性に支配されているゲームは カジノ行為 にあたることになります。
 以上のようなカジノ行為ですが、実際にカジノ行為を行う場所についてもルールがあります。カジノ施設内であれば、場所を問わずどこでやってもいいというわけではありません。カジノ行為は、カジノ行為区画のうち、 専らカジノ行為の用に供されるものとしてカジノ管理委員会規則において定められている部分 で行わなければなりません。
 また、カジノ事業者が利用者とカジノ行為を行う場合、カジノ事業者はお金の代わりに チップ を使わなければなりません。もっとも、チップをクレジットカードなどで買うことができるようになっていると、歯止めがきかなくなりギャンブル依存症になるリスクも高まります。そのため、ギャンブル依存症防止の観点から、チップは非居住者外国人を除いて現金でしか買うことができません。
 さらに、マネロン対策やギャンブル依存症防止の観点から、利用者はチップを第三者に譲渡したりカジノ行為区画外に持ち出すことはできません。
Ⅱ 特定金融業務
 カジノで使う資金を自由に移動できることとすると、マネロンに利用される危険性が高まります。そのため、カジノ事業者が利用者の預り金を移動する際には、 カジノ事業者が管理し、もしくは利用者が指定する利用者名義の口座 を介さなければなりません。
 また、カジノ事業者が利用者に対してカジノに供する資金を自由に貸し付けることができることとすると、ギャンブル依存症が増加する危険性が高まります。そのため、一定の資力がある利用者に対してしか金銭を貸付けることはできず、さらに、利用者の支払能力を調査して、個別に貸付限度額を決めなければなりません。
②カジノ行為区画内関連業務
 カジノ事業者は、カジノ行為業務や特定金融業務のほか、 カジノ行為区画内関連業務 を行うことができます。もっとも、入場管理の徹底や健全な運営を確保するために、一定の制約を受けることになります。カジノ行為区画内関連業務に関しては、 カジノ管理委員会から承認を得た業務 のみを行うことができます。具体的には、風営法上禁止されている接待を伴わない飲食物の提供、興業や物品の提供などといったように、善良な風俗の保持などの観点から業務内容も限定されています。
③業務委託および契約締結の制限
 カジノを運営するためには、厳正な審査をクリアして 免許 を受けなければなりません。このように、カジノの運営は限られた者にしか許されていないため、原則としてカジノ事業を第三者に委託することはできません。
 もっとも、たとえば、カジノに供する機器の修理や利用者への貸付による債権の取立てといったように専門性の高い行為に関しては、効率性の観点からも業務を委託する必要性があります。このような場合に委託することを許してもカジノ事業に与える影響が少ないため、例外的に一定の条件を満たした第三者に業務を委託することができます。
 また、カジノ事業者が契約を締結する場合、その相手方に社会的信用性があることが求められるなど一定の要件が備わっていることが必要です。さらに、カジノ業務やカジノ行為区画内関連業務に関する契約などのようにカジノの運営に必要不可欠とされる契約を締結する場合は、 カジノ管理委員会の認可 を受けなければならず、このような認可を受けずに締結した契約は 無効 なものとして扱われます。
④国庫納付金および認定都道府県等納付金
 カジノ事業者は、  により算出された金額の 15% に相当する金額をそれぞれ 国庫納付金・認定都道府県等納付金 として納付しなければなりません。
 たとえば、カジノ事業者が1日で売り上げた金額(賭金総額+利用者相互間のカジノ行為による利益)が1億円だったとしましょう。これに対し、事業者が利用者に払い戻した金額が2,000万円だった場合、事業者が納付しなければならない税金は、
 (1億円-2,000万円)×15%×2(国庫納付金および認定都道府県等納付金)=2,400万円
 ということになります。
 つまり、カジノ事業者は国庫納付金として1,200万円、認定都道府県等納付金として1,200万円、合計で2,400万円(利益の 30% )にも上る税金を納付しなければならないのです。
⑤その他の業務規制
 その他の業務規制としては、以下の2つの規制があります。  それぞれの規制について、簡単に見ていきましょう。
Ⅰ.広告および勧誘の規制
 カジノ法案は、ギャンブル依存症増加の防止や善良の風俗などの保持などを規制目的としています。そのため、虚偽(ウソ)や誇大(大げさ)な広告・勧誘は禁止されています。また、IRの区域外で広告・勧誘をすることも許されず、カジノ施設への入場を禁止されている20歳未満の者に対しては、ビラなどの配布や勧誘行為が全面的に禁止されています。さらに、カジノ施設を利用しない旨の意思を表示している者に対して再勧誘することも禁止されています。
Ⅱ.コンプ(景品)等の規制
 「 コンプ 」とは、ざっくりいうと、無料割引サービスのことをいいます。たとえば、IR区域内にあるホテルを利用した場合に、カジノの入場料に相当する金額のポイントがもらえるといったサービスがコンプにあたります。このポイントにより、利用者は入場料を支払うことなく、カジノ施設を利用できることになります。
 もっとも、コンプを無制限に提供できるとすると、善良な風俗を害するおそれなど一定の弊害が生じる可能性があります。そのため、カジノ事業者などは、サービスの内容・経済的価値などが善良の風俗を害するおそれがあるコンプを提供することはできません。
 また、カジノ事業者はコンプを提供したり、チップと交換した場合は、 その記録を作成して保存 しなければなりません。さらに、マネロン防止の観点から、カジノ事業者は、カジノ業務に関する取引で一定の額を超える現金の受払いをした場合には、カジノ管理委員会に報告しなければなりません。
(3)カジノ関連機器等の製造業者等の規制・型式検定等
 カジノ関連機器等の製造業者などは、カジノ事業における公正性や運営の健全性を大きく左右する立場にあります。そのため、カジノ事業者が製造業者を自由に選べるとすることは適切ではなく、製造業者について、 カジノ管理委員会の許可 を受けなければなりません。
 また、カジノ関連機器の品質・性能なども同様にカジノ事業における公正性や運営の健全性に影響を与える可能性があります。もっとも、プログラム化されている機器などは、簡単にその品質・性能などを確認することができません。
 そのため、指定された試験機関が品目ごとに型式の検定を実施することにより機器の基準適合性を確認します。
 プログラム化されていない機器については、製造業者がその品質・性能を確認して、その結果を カジノ管理委員会に届け出る ことになっています。
  
 以上のように、カジノ事業に係る規制は業務規制を始めとして細かく定められています。もっとも、内容自体はそれほど難しくはありません。カジノ事業を検討する際には、以上の規制をきちんと理解したうえで、自社の事業が問題なくこれらの規制をクリアできるかといった点などを中心に検討することが重要になってきます。
6 今後の流れ
 カジノ法案は、 2018年7月27日 公布 されました。もっとも、これでカジノがすぐにできるようになるわけではありません。そこで最後に、実際にカジノがオープンするまでの流れを簡単に見ておきましょう。下の図をご覧ください。
 カジノ法案(IR整備法)が実際に施行されるのは、 公布日から3年を超えない範囲内 とされています。カジノ法案は2018年7月27日に公布されていますので、遅くとも2021年7月までには施行される見通しです。
 IR整備法に先立ち、 IR推進法案 が2016年12月に成立していますが、IR推進法案は統合型リゾート施設の創設を推進していくための、いわばプログラム(目次)のようなものを定めた法律です。プログラムの具体的な内容(実際にどのような施設を作るのかなど)は、別の法律で定めなければなりません。このような具体的な内容を定めたのが、 IR整備法 ということになります。
 カジノ法案(IR整備法)は成立しましたが、カジノ法案施行に基づく「 基本方針 」の策定・公表、実際に施設を誘致する場所の決定や建設業者の選定など( IR認定申請・認定 )、課題は山積みの状態です。カジノ施設の建設期間なども考慮すると、日本でカジノがオープンするのは 2025年前後 になるものと考えられています。
7 小括
 カジノ法案(IR整備法)が成立し、ようやく具体的にIR設置に向けて動き出すことになりますが、実際にカジノがオープンするまでにはまだ時間がかかる見込みです。
 他方で、カジノ法案の内容に目を向けると、そこには一定のメリット・デメリットが存在します。中でも特に重要なのは、デメリットやその問題点です。こういったデメリットやその問題点を回避するための規制がIR整備法には盛り込まれています。
 カジノ事業を検討している事業者はカジノ法案を十分に理解するとともに、今後の流れを正確に理解して、事業を展開していくようにしましょう。
8 まとめ
 これまでの解説をまとめると、以下のようになります。 カジノ・IR推進法案 1999年~2014年の流れ
1999年 石原慎太郎東京都知事が都内でのカジノ開設に意欲を示し、報道等で話題となる
2002年12月 自由民主党の国会議員有志による「カジノと国際観光産業を考える議員連盟」(野田聖子会長)が議論を開始(3年・全27回)(後に「国際観光産業としてのカジノを考える議員連盟」へ名称変更)
2003年02月 「ギャンブリング*ゲーミング学会」が発足(2014年末までに学術大会11回、シンポジウム9回開催(それぞれ年1回)。後に「IR*ゲーミング学会」へ名称変更)
2003年02月 5都府県による「地方自治体カジノ研究会」が発足(2年・全8回)(発足時は東京都、静岡県、大阪府、和歌山県、宮崎県。後に神奈川県も加わり、14道府県がオブザーバーとして参加)5都府県知事が連名で鴻池祥肇防災・構造改革特区担当大臣に対し「カジノ実現のための法整備に関する要望書」を提出
2003年08月 「第1回日本カジノ創設サミット」が石川県珠洲市で開催(毎年、各地の誘致団体が持ち回りで2014年末までに熱海市・秋田市2回・那覇市・徳島市・常滑市・釧路市・小樽市の計9回開催。後に「日本IR創設サミット」へ名称変更)
2004年03月 地方自治体カジノ研究会が「地方自治体カジノ研究会研究報告書」を発表
2004年03月 議連が各省庁担当者との協議を開始
2004年06月 議連が「ゲーミング(カジノ)法 基本構想」を発表
2005年 郵政民営化問題により政局が悪化。議論が中断
2006年01月 自民党政務調査会・観光特別委員会に「カジノ・エンターテインメント検討小委員会」(岩屋毅委員長)が発足。自民党内で正式に議論を開始(1年半・全17回)
2006年06月 検討小委員会が「我が国におけるカジノ・エンターテインメント導入に向けての基本方針」を発表
2007年07月 参議院通常選挙で与党が過半数割れ。以後、政局が混迷

2009年08月 衆議院総選挙で自民党・公明党から民主党へ政権交代
2010年04月 超党派の国会議員による「国際観光産業振興議員連盟」(IR議連・古賀一成会長)が議論を開始(2014年末までに総会23回、ほか随時幹部会を開催)
2010年08月 IR議連が法案の基本的なスキームとして「国際競争力のある滞在型観光と地域経済の振興を実現するための特定複合観光施設区域整備法案」(略称「特定複合観光施設区域整備法案」もしくは「古賀会長私案」)を発表
2011年01月 政府の行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会の中間案で、民間事業者のカジノ運営解禁が盛り込まれる
2011年03月 東日本大震災により議論が中断
2011年08月 IR議連が「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(IR推進法案)を発表。参加議員に党内調整着手を要請
2011年11月 民主党政策調査会・内閣部会に「統合型リゾート(IR)・カジノ検討ワーキンググループ」が発足。民主党内で正式にIR推進法案の議論を開始(全5回)
2012年02月 自民党政務調査会の内閣部会・国土交通部会合同部会が統合型リゾートをテーマに議論を開始(全9回)
2012年03月 「民主党統合型リゾート(IR)・カジノ検討に係る内閣・法務・国土交通合同部門会議」にてIR推進法案の議論を開始(全9回)

2012年12月 衆議院総選挙で民主党から自民党・公明党へ政権交代
2013年02月 「日本維新の会IR議員連盟」(会長・小沢鋭仁元環境相)が発足
2013年04月 政権交代を受けてIR議連を改組。細田博之元内閣官房長官が会長に就任
2013年06月 日本維新の会が単独でIR推進法案を衆議院に提出
2013年11月 自民党総務会がIR推進法案を了承。自民党が党議決定
2013年12月 自民党・日本維新の会・生活の党の3党が共同でIR推進法案を衆議院に提出
2014年02月 公明党政務調査会の観光立国推進委員会がIR推進法案の議論を開始(後に、内閣部会と共同で議論。2014年末までに8回)
2014年02月 IR推進協議会設立準備委員会(委員長・寺島実郎日本総合研究所理事長)が発足(2014年末までに4回)
2014年05月 安倍晋三首相がシンガポールでIRを視察
2014年05月 民主党政策調査会の内閣・法務・国土交通合同部門会議がIR推進法案について議論を再開(2014年末までに6回)
2014年06月 衆議院内閣委員会においてIR推進法案の審議が始まる
2014年06月 政府の新成長戦略にIRの推進が盛り込まれる
2014年07月 内閣官房にIRの検討チームが発足
2014年10月 「維新の党IR議員連盟」(会長・小沢鋭仁元環境相)が発足
2014年11月 衆議院総選挙に向けた自民党・維新の党の選挙公約にIRの推進が盛り込まれる
2014年11月 衆議院解散に伴いIR推進法案が廃案
2014年12月 衆議院総選挙で与党が勝利。第3次安倍政権が発足

カジノ誘致を巡る2つの「利権争い」
 カジノ誘致については、現在水面下の利権争いがだんだん激しさを増している。今回は、あまり表に出ていない「とんでもない話」も含めて解説する。
 現状は カジノを含むIR(統合型リゾート)をどこに誘致するのか と、それぞれにおいて どのカジノ運営会社に運営を委託するのか の2つの大きな「 利権争い 」がある。どちらにも桁違いの利権が想定されており、各自治体を含めた各社各様の思惑が複雑に絡み合い、だんだんその激しさを増している様子がはっきりと見える。
 カジノを含むIRの誘致は、とりあえず2020年夏の東京オリンピック後に3か所に絞るようで、現状では 大阪府・市と横浜市が先行 している。 残る1枠を長崎県、和歌山県 が追っている。さらにその前段階の 「検討中」には北海道、東京都、千葉市、名古屋市 あたりが続く。
 IRの誘致は2025年の万博も招致した 大阪府・市(どちらも会場は大阪湾の人工島である夢洲)が日本維新の会主導で先行 していた。ここにきて 官邸主導で横浜市 (横浜港の荷揚げドッグを撤去して会場とする)と、検討中であるはずの 北海道(苫小牧市) が「当確」かのように報じられているが、 まだまだ流動的 なところがある。
 振り返ると、日本において「カジノ」が最初に話題となったのは、1999年に東京都知事となった 石原慎太郎 氏が都知事選挙中から「お台場カジノ構想」を提唱したあたりからである。しかし今から考えてみると、この発言は「カジノ」よりも「お台場」のほうに力点が置かれており、バブル真っ盛りの1989年に着工した臨海副都心計画(お台場)、2001年に決定されたとされる 築地魚市場の豊洲移転計画とまったく同じ構造 であり、最初から 東京湾岸にすべての利権を集中させる方策 の1つだったはずである。「お台場カジノ構想」も「築地魚市場の豊洲移転計画」も 石原都知事 や2000年に就任した 浜渦武生副知事 の影響力ばかりが大きく伝えられているが、臨海副都心計画も含めて一貫して「目立たないように」取り仕切っていたのが 東京都港湾局 であり、そこに 膨大な利権 が隠されていたことはあまり知られていない。
 バブルが弾けて臨海副都心計画の見直しが議論されたとき、強行継続させたプロジェクトリーダーの 高橋俊龍 ・副知事や、後にお台場の魚市場用地を東京都に売却する東京ガスに天下っていた 今沢時雄 ・取締役らは 東京都港湾局の出身 である(今沢氏は港湾局長だった)。
 つまり当時も現在も、カジノ=(東京に限らず各自治体の)港湾局が深く関わっていることは覚えておかなければならない。
 しかし、石原都知事のカジノ構想で、カジノ=利権と安直に結びつける国会議員が続出し、2002年12月には早くも「 カジノと国際観光産業を考える議員連盟(野田聖子会長) 」が超党派で発足している。この議員連盟には「我も我も」と多数の議員の参加希望があり、その後も同じような議連には参加者が2百人近くひしめく状態が続く。
 そして2006年1月には自民党政務調査会・観光特別委員会に「 カジノ・エンターテインメント検討小委員会(岩屋毅委員長) 」が発足し、自民党内で正式に議論が始まる。またこの頃から、海外のカジノ運営会社がいろんなツテを頼って委員会に接近し、勉強会だけでなく 海外カジノ視察と称してアゴアシ付きの海外旅行に委員会メンバーを頻繁に「ご招待」 するようになった。当時よく名前を聞いたカジノ運営会社は MGMとWynn(ウィン) である。 MGMはセガサミー と、 Wynnはアルゼ(現ユニバーサルエンターテインメント) と、親密だったからである。
 2009年8月に民主党に政権が移ってもこの流れは止まらない。2010年4月にはこれも超党派で「 国際観光産業振興議員連盟(IR連盟=古賀一成会長) 」が発足し、この頃から カジノ法制化(合法化) の動きが出始める。当時の与党・民主党のほうが積極的で、複数のワーキンググループを立ち上げてIR推進法案の準備を進めるも、2012年12月の総選挙で下野して頓挫してしまう。
 政権交代を受けて 自民党 IR議連 を改組し、 細田博之 ・元内閣官房長官が会長に就任。2013年6月に 日本維新の会 が単独で IR推進法案を衆議院に提出 すると、 自民党と生活の党が相乗 りするかたちで「 カジノを中心とした統合型リゾート(IR)を推進する法案 」として同年12月に衆議院に議員立法で提出する。しかし、ろくに議論されないうちに、 2014年12月の衆議院解散で廃案 となる。
 2015年4月に再び「 統合型リゾート(IR)整備推進法案 」として 自民党、日本維新の会 などが衆議院に議員立法で提出するも、自民党の連立相手である 公明党 が積極的でないなどの理由で審議されることはなかった。
 法案はあくまでも統合型リゾートの一環としてカジノを全国に何か所か解禁するという建て付けであるが、 日本の各議員や主要企業などはすべて「とにかく何でも大掛かりなハコモノ(統合型リゾート施設)を建てて、そこでカジノを開設させしてしまえば明日からでも外国人を含む観光客が押し寄せてカネを落としてくれる」と非常に楽観的に考えていた
 そしてこの認識は現在でもほとんど変わっていない。だから、 カジノを含む統合型リゾート(IR)を誘致すること自体が「利権」だと考えられている わけである。確かに公共事業と同じで一度は工事需要があるため、「利権」ではある。だが、 その後の損益計算などは誰も考えていない
 さて統合型リゾートに含まれるカジノであるが、日本人には当然にその運営ノウハウがないため 海外のカジノ運営会社に「丸投げ」するしかない 。そしてこの統合型リゾートで 唯一大儲けできるところが、このカジノ運営 である。まず統合型リゾート(IR)の運営主体は各自治体であるが、 本来はテナントであり家賃を徴収しなければならないカジノ運営会社から家賃も取らず、逆に高額の成功報酬などを支払う契約となるはず である。また カジノ運営会社がこれらハコモノ建設のための資金を出すことなど絶対にない
 確かにカジノ運営とは簡単ではない。世界中から大手客(大金を賭けても平気な大金持ち)を呼び寄せて適度に巻き上げ、同時に世界中から集まってくるイカサマ師を排除しなければならない。 日本人には絶対に無理 である。
 もし日本人がカジノを運営するなら、あっという間に世界中から腕利きのイカサマ師が押し寄せ、たぶん1日で数百億円くらいは持って帰られてしまう。消えた仮想通貨のような問題が毎日起こるわけである。
 余談であるが、イカサマ師でなくてもたまたま大勝ちしてしまう大手客もいる。その 大手客をあの手この手で帰さずカジノに留め、すっかり取り戻すのも運営会社のノウハウ である。実際にラスベガスでは自家用機で来た大手客が大勝ちすると、空港の管制官を買収して離陸許可を出させず、ホテル代も食事もサービスするからと誘われて帰ってきた大手客からすっかり取り戻してしまうことなどお手の物。いくらでも裏技がある。
 また 大負けした大手客には賭け金を信用貸し することもある。こうなるともっと負けてしまうもので、その 回収もカジノ運営会社の重要な仕事 となる。
 さらに余談を加えると、こんな大手客の1人に日本人の 柏木昭男 氏がいた。世界のカジノで大勝ちを続け、映画のモデル(1995年公開の映画「カジノ」にK.K.イチカワとして登場)にもなっていたが、1992年に自宅で何者かに暗殺されており、事件は迷宮入りしている。この柏木氏が訪れたカジノの中にはトランプ大統領が経営していたアトランティック・シティのトランプ・プラザ(2014年に倒産)も含まれる。実際に2人は面識があり、トランプが自分のカジノに誘ったようで、結果は1勝1敗だったはずである。
 話を戻すと、カジノはパチンコと同じで 運営会社の儲け=客の損失 であり、運営会社は顧客の損益(すなわち自分の損益)を自由に調節することができる。つまり、 客が日本人なら、日本人トータルの損益がプラスになることは「絶対に」ない
 トランプが大統領選に当選した2016年11月8日からわずか9日後の11月17日、安倍晋三首相は当選したばかりのトランプをNYの自宅(トランプタワー)に訪問している。しかし、安倍首相は(官邸も外務省も)次期大統領はヒラリーと「決め打ち」していたため、トランプとのルートがまったくなかった。両者を繋いだのは、トランプの大スポンサーである カジノ王のシェルドン・アゼルソン 。このとき、安倍首相は「日本も間もなくカジノを法制化(合法化)する」と口をすべらせてしまったはずである。
 帰国した安倍首相は早速3年以上もホコリをかぶったままになっていた「統合型リゾート(IR)整備推進法案」を引っ張り出し、会期末の12月14日までに衆参両院で決議するように厳命。衆参両院ともわずか数時間の審議で強引に成立させてしまった。かくして日本でもカジノが法制化(合法化)されてしまったわけである。
 当初のIR推進の目的は、「外国人観光客の誘致」だったに違いない。カジノ構想が出てきた2000年代の訪日外国人観光客は年間5~600万人であり、カジノは外国人観光客誘致の1つの目玉となっていたかもしれない。
 ところが日本を訪れる外国人観光客は2013年に1000万人を超え、2018年には3100万人にもなり、今後さらに増えそうな勢いである。その日本を訪れる目的は多様化。日本は「親切で安全で文化的な国」との評価が固まりつつある。そこで「カジノができましたよ」と言ったところで、どれだけの効果があるのか?
 次回は、日本のカジノ運営をどこが握るのかについて考えたい。
 12月25日、 自民党(離党済み)の衆議院議員、秋元司議員 が東京地検特捜部に逮捕された。容疑は 贈収賄 中国の「500ドットコム」 の日本法人役員から不正なお金を受け取った疑惑が取り沙汰されている。秋元議員本人は潔白を主張しているが、特捜部の捜査は、当初のIR関連企業のみならず、秋元議員の元政策秘書が設立した会社にコンサルティング料を支払っていたという、大手パチンコチェーン企業にまで及んでいる。
 12月26日に配信された「JIJI.com」配信の記事、” 東京地検、パチンコ会社を捜索。元秘書会社に「コンサル料」―秋元議員事件 ”では、「秋元容疑者は一時、同社の顧問となり、顧問料を受け取っていた。元秘書2人の自宅が捜索を受けた後の今月9日、記者団に「経営に口出しもしていないが、仕事はやるべきことはやっていると聞いている」などと説明。顧問に就いたのは落選中で、「私に対し、やましいお金の移動もない」と語っていた。
 捜索を受けたパチンコ会社は今年秋まで約2年にわたり、芸能関連会社に毎月20万円を支払っていたという。特捜部もこうした支払いを把握しており、秋元容疑者をめぐる不透明な資金の流れの解明を急いでいるもようだ」(同記事より)と報じている。
 筆者としては、秋元議員が落選中に同社の顧問になり、顧問料を正規に受け取っていたのであれば、「仕事」の実態はどうであれ大きな問題はないと思うのであるが、やはり世間の耳目を集めているのは「 パチンコ 」というワードであろう。 秋元議員とパチンコ業界とは縁が深い 。特に 自民党内に設置されている「時代に適した風営法を求める議員連盟」(以下、風営法議連)では事務局長 を務めており、その事務局長を務めている秋元議員が逮捕され、自民党を離党(*25日に自民党に離党届を提出し、スピード受理されている)したことで、パチンコ業界関係者の間には衝撃と落胆が広がっている。
 「 風営法議連 」は、主に パチンコの諸問題について考える議員連盟 である。開催は不定期であるが、活動内容は他の議員連盟と同じく、多くの場合はパチンコ業界関係者が現状の報告や陳情を行い、業界外の有識者や行政とも連携を図りながら議員連盟としての解決策を模索し、必要に応じては政策として国会の審議事項にまで引き上げる役割を担う。過去には「パチンコ税」についての議論等も同議員連盟でなされていた。
 最近の「風営法議連」の活動は活発であった。
 IR法案の成立と時を同じくして、ギャンブル依存症問題がクローズアップされ、パチンコを含める、ギャンブル等依存症対策が国策として積極的に推進されるなか、パチンコ業界は、遊技機の射幸性の大幅な抑制や、ホール内における依存対策実施等のため、かなりの苦境に立たされており、特に新しい遊技機規則に則った新基準機の速やかな導入に際しては、射幸性と依存症の因果関係が不明瞭であるという問題も含め、依存症対策を推進したい警察行政側と議論の対立軸が多く生まれていた。
 この問題について対応していたのが、「風営法議連」であり、その窓口が秋元議員であったのだ。ちなみに「風営法議連」では2019年4月に、同問題に対する提言を採択している。
 設置されているすべての遊技機を2021年1月末までに新規則機に入れ替えなくてはならないパチンコ業界は、いまだ数多の問題を抱えており、政治の力に期待するところも小さくなかった。しかし今回の秋元議員の逮捕・離党によって、パチンコ業界にとっての「政治力」は限りなく制限されてしまった。議員連盟には、秋元議員の他にもパチンコ業界に詳しい議員もいるが、IRやパチンコに対するアンチテーゼが吹き荒れる報道や世論の動向を見る限り、その腰は重いだろう。
 或るパチンコホール経営者は言う。「秋元先生の逮捕は業界にとって大きなマイナス。報道などでは、秋元先生に対する献金問題などが取り上げられるかも知れないが、それは合法的なものであり、特に問題はないと思っているが、報道のされ方によっては世論のパチンコバッシングに繋がるかも知れない。何よりも、今回の件によって、また政治家との距離が生まれてしまった。議連の活動には多少ならず期待していたのに残念だ」
 秋元議員の逮捕がもたらした衝撃の余波は、IR事業者たちよりも、パチンコ業界関係者たちを更なる苦境に追い込んでいるのかも知れない。
 林文子・横浜市長がカジノ誘致を表明した翌8月23日、“横浜のドン”の異名を持つ藤木幸夫・横浜港運協会会長が記者会見を行った。カジノ推進の急先鋒の菅義偉官房長官(神奈川2区=横浜市西区・南区・港南区)を「安倍首相の腰巾着」と一刀両断、「俺は命を張ってでも反対する」「私はハードパワーと闘うつもりでいるよ」と、誘致阻止に向けて徹底抗戦することを宣言したのだ。
 89歳とは思えない迫力ある藤木氏の会見映像がテレビで流れると、カジノ反対が大多数(各種世論調査による)の横浜市民からは、「久しぶりに本当に感動した」といった声が相次いだ。
 8月31日の市内での講演「横浜港の未来に向けて」(主催・自由民権会議@神奈川)では、満員で会場に入れない人が続出。その講演の最後にも藤木氏は「(カジノ誘致阻止を)私は命がけで、一人でやります。死ぬ時は一人で死にます」「いつ死んでもいい覚悟。本当は嫌だけど、覚悟しないと何もできない!」と啖呵を切り、大きな拍手が会場に響き渡った。
 23日の記者会見で藤木氏は「顔に泥を塗られた。泥を塗ったのは林さんだけど、塗らせた人がいる」と切り出し、その背後にいる有利推進勢力を「ハードパワー」と称した。そこで、筆者は次のように聞いてみた。
…(そのハードパワーは)地元選出で“影の横浜市長”とも呼ばれている、林市長にも大きな影響力を持っている菅義偉官房長官とだというふうに聞こえたのですが。
藤木会長:
それはあなたの自由。
…菅官房長官は秋田から出てきて、横浜が第二の故郷。若いときからよくご存知かと思います。横浜にお世話になった菅官房長官が、横浜を米国カジノ業者に売り渡すような行為を推進する側に回っている。このことについてどう思われますか。
藤木会長:
いま菅さんという名前をあなたが言うから申し上げるけど、とても親しいですよ。いろいろなこと、昔から知っているし、彼もオレを大事にしてくれるし。ただ今、立場がね。(菅氏は)安倍さんの腰巾着でしょう。安倍さんはトランプさんの“腰巾着”でしょう。
 そこで、国家安全保障という大きな問題があるでしょう。日本の国は徴兵制がない。徴兵制がない国は世界でいちばん舐められている、国家の中で。この違いが(外国と日本の)国の中核の人たちの(違い)。今の安倍さんも菅さんも、トランプさんの鼻息をうかがって…。寂しいよ。寂しいけれども現実はそうでしょう。いずれにしても個人的な名前は省いて、いまハードパワーが横行している。
 「菅氏=ハードパワー」という断定は避けたものの、「菅官房長官は安倍首相の腰巾着。安倍首相はトランプ大統領の“腰巾着”」と指摘することで、米国に「NO!」と言えない安倍政権が横浜へのカジノ誘致を引き起こしたということを匂わせたのだ。
 菅氏官房長官は、藤木氏の盟友(“兄弟分”)である小此木彦三郎・元建設大臣の秘書を10年以上務めた。その後、横浜市議を経て、国会議員から官房長官にまで登り詰めた。藤木氏は菅氏の「後見人(育ての親)」に等しい存在で、両者は「師匠と弟子」のような関係を続けてきたともいえる。
 しかし今や菅氏は、藤木氏が命がけで阻止しようとするカジノ誘致を推進する側に回り、第二の故郷・横浜を米国カジノ業者に“献上”する役割を演じようとしているのだ。「寂しいよ」と漏らす藤木氏に、米国の鼻息をうかがってばかりの安倍政権についての質問を続けていたところ、冒頭の「徹底抗戦宣言」が飛び出したのだ。
…名前は省いて、構造的なところだけ教えていただきたいのですが。トランプ大統領は(米国カジノ業者の)「ラスベガス・サンズ」のアデルソン会長(※)から莫大な献金をもらっている。そのラスベガス・サンズが「横浜に進出する」と表明した。そういうアメリカの意向を受けて日本政府がなかなか反論できず、これを「ハードパワー」として推し進めているのではないか。こういう構図と理解していいのでしょうか。
藤木会長:
「うん」と言ったら、オレが言ったことになってしまうからね。オレは命を張ってでも反対するから。自分でできるのはそれだけだ。後は、市民の皆さまがどうするかはまた一人一人違う。私は港湾人として、ハードパワーと闘うつもりでいるよ。
 藤木氏は、23日の講演でこう振り返った。「カジノの問題が出始めた頃、私は官房長官の菅さんに電話しました。『議員会館の自分の部屋に20分、時間を作って来ていてくれ。俺が行くから』と言って2人きりで話して、カジノに対する私の態度表明をしました。
 私は『カジノ反対だよ。博打だから』と言った。私の友達が(博打で)おけらになったのがいっぱいいるから。だけれども最後に『(カジノを)やるならオレがやるよ』と言ったら、彼は『はい』と言いました。さらっとした会話で、意思の疎通をはかっておいた」
 当初は菅氏と同じカジノ誘致賛成派であったという。その理由についても語った。「我々の足元に、依存症で苦しんでいる人がいっぱいいる。子供が苦しんでいる。私自身が社会福祉法人を(経営)している。だから、そういう人たちの生々しい話、お母さんがパチンコ屋に入り浸りで、お父さんは酒を飲んで何かあったら機嫌が悪くて引っぱたかれる。家にいられないから逃げて(施設で)暮らしている。そういう家庭の方が足元にあることを知らなかった」(藤木氏)
 依存症学会の会長を呼んで勉強会を開いた藤木氏は、「旦那が(ギャンブル)依存症でダメになり、自分自身も依存症になって惨めになる。こんなひどいものはないのだ」といった生々しい話を聞いていくうちに、「えらいものが横浜に来てしまうぞ」と思って、カジノ反対へと考えを変えたという。
 藤木氏は「気が変わるのは得意だけれども、これ(カジノ)だけは二度と(やると)言いませんから」と断言した。
 そして藤木氏は「カジノは『秒殺』、『秒で殺す』。楽しんでいる暇はないそうです。何億円というお金をかけても、一瞬・一秒でオケラになってしまう」とカジノの恐ろしさを伝える側に回った。
 集会の最後に藤木氏は、世界中の情報が集まっていることを参加者に明かした。「世界の反応をちゃんと取っています。この横浜の反対運動に、各国の関係者が拍手しています。私は毎日毎日、張り合いがある。皆さん、よろしくお願いします」
 藤木氏の講演を聞いていた地元選出(神奈川8区)の江田憲次衆院議員は、直後の挨拶でこう切り出した。「『死んでも阻止する』とテレビで報道されて、感動を呼んでいます。主婦の皆さんが見て『久しぶりに本当に感動した』という声が多く寄せられている。われわれ政治家も、それだけの覚悟を持ってやらないといけないと思いました」
 続いて江田氏は、カジノ阻止に向けた横浜市民との連携も呼び掛けた。「これは普天間飛行場の辺野古移設と同じです。(安倍政権は)何を言っても強行してきます。『これをどうやって止めていくのか』という意味で今日、『あらゆる手段を駆使して阻止しよう』とい緊急アピールを出しました。
 そのあらゆる手段は皆さんがお決めになる。我々が出しゃばって決めることではありません。まさに横浜市民が決めていただく。幸い、あちらこちらで今日みたいな会議があり、声が上がっています。
 口先や空理空論ではない、本当に地に足をついて反対をされている藤木会長。(集会参加の)皆様もそうだと思います。とにかく我々の横浜の将来、我々の子や孫の将来を真剣に考えれば、『横浜カジノ誘致』という選択は絶対にありえないと思います。皆さんとともに頑張りたいと思います」(江田氏)
 藤木氏の訴えが、国会議員を触発しながら横浜市民の間に広がり、カジノ反対の気運が急速に盛り上がっている。林市長のカジノ誘致表明で「このままでは横浜にカジノができてしまう」と危機感を持った人々と、「ハードパワー」として推進しようとする安倍政権とのバトルが熱を帯びてきている。
 2019年8月22日、林文子市長が突如として誘致を表明した横浜カジノの問題。 前回記事 では林市長の答弁に着目したが、今回は林市長に対する市議会議員の質問に着目したい。
 今年6月4日、横浜市議会では カジノ反対決議を求める請願が出され、不採択 となった。横浜市議会は定数86に対して、自民党と公明党だけで過半数を占めており、 議長(自民)を除く自民・公明の51人全員(自民36人 + 公明16人 – 自民議長1人)が反対 したためだ。
 この事実だけを聞けば、カジノ反対決議に反対したのだから、自民・公明の横浜市議全員はカジノ賛成だと解釈できる。しかし、彼らの当日の主張は違った。
 明確に「カジノ賛成」とは言わず、「 市長は白紙と言ってるのに、ここで反対決議をあげるのは時期尚早である 」という主張に終始した。つまり、 カジノに賛成なのか反対なのか隠したまま、カジノ反対決議を潰した
 そこで本記事では、カジノ・IRが議題に初めてあがった2012年までさかのぼって 横浜市議会の議事録 を確認し、カジノ賛成を明言した横浜市議は誰で、どのような発言だったのかを明らかにする。その中でも、議会で最も注目を浴びる林市長に対する質問中の発言に限定して見ていく。
 まず、結論から言えば、市議会での林市長への質問中、カジノおよびIRに賛成と判断できる内容を発言したのは、 ほぼ全員が自民党の横浜市議 *である。<*自民党以外で賛成したのはみんなの党・平野和之 市議1名のみ>
 そして、自民党の市議たちの質問は、その時期にも大きな特徴がある。
グラフ1・林市長にカジノ・IRについて質問をした横浜市議の質問件数推移
*質問当時は自民党ではないが、現在は自民党に所属する市議も「自民党」に含めてカウント
*カウントは人数ではなく件数。例えば、1人の議員が同じ年に2回質問した場合は、2件とする
 グラフ1は、林市長にカジノ・IRの質問をした人数を自民(赤線)と自民以外(青線)に分けて、年ごとの推移を折れ線グラフで表している。 自民は全員がカジノに賛成 の立場、 自民以外は1人(みんなの党・平野和之 市議)の例外を除いて全員がカジノに反対 の立場で質問している。
 つまり、赤線はカジノに賛成の立場の質問、青線はカジノに反対の立場の質問と捉えることもできる。なお、質問当時は自民党ではないが、現在は自民党に所属する市議も「自民党」に含めてカウントしている。また、カウントは人数ではなく件数。例えば、1人の議員が同じ年に2回質問した場合は、2件としている。
 この折れ線グラフで注目したい時期が2箇所ある。
 1箇所目は 2012年~2013年 。自民以外はまだ質問すらしてない中、 最初にカジノ・IRについて質問し始めたのは自民党 である。(2012年:1件、2013年:1件)
 2箇所目は 2017年~2018年 。カジノに反対する市民の声が高まり、 自民党以外の市議はカジノ反対の立場で積極的に質問 する(2017年:9件、2018年:11件)中、 自民党市議はカジノ・IRについてほとんど質問しなくなる (2017年:1件、2018年:1件)
 グラフ1のエビデンスとして、質問の年月日、会議名、質問者、所属政党を表1に示す。(赤字は自民党)
表1:林市長にカジノ・IRについて質問をした横浜市議リスト
 余談ではあるが、自民党以外(黒字)の市議に着目すると、 立憲・太田正孝市議(8件)、無所属・井上さくら市議(7件)、共産・古谷靖彦市議(5件) らが2014年という早い段階から何度も カジノ反対の立場で林市長に質問を重ねていた ことが読み取れる。
 そして、表1にあげた全ての質問の議事録を確認し、 カジノ賛成を明言した横浜市議8名 を絞り込み、その発言内容を整理したのが表2だ。 みんなの党・平野和之市議(2015年の選挙で落選)を除く全員が自民党 だ。
表2:林市長への質問中、カジノ・IR誘致に賛成した横浜市議全員の発言
 以下、時系列で表2にあげた発言を列挙していく。誘致に賛成と明確に判断できる発言は赤字で記載する。
「私は今回の質問のために、先月末マカオに行き、カジノを含むIR、いわゆる統合型リゾートを視察し、そしてその規模の巨大さと華やかさに衝撃を受けて帰国をいたしました。(中略)将来の横浜のため、さまざまな可能性を検討していかなければなりませんが、特にカジノを含む統合型リゾートについて、海外の事例を見ても莫大な経済効果が見込めるわけで、積極的に検討すべきと考えております」(2013/12/6 第4回定例会 自民党 渋谷健)
「カジノを含むIRについては、カジノの持つインパクトが非常に大きく、多くの方に間違った印象を抱かせているように感じます。シンガポールのマリーナベイ・サンズでも、全体の床面積57万平方メートルに占めるカジノ面積は1万5000平方メートル、わずか2.6%にすぎません。約4000億円以上の設備投資の多くは、残りの面積のホテル、商業のほかに、劇場、イベントプラザ、博物館など、年齢を問わず誰もが楽しめる施設建設に使われております。さらに、多くの雇用、経済波及効果も見込まれております。将来の魅力的な横浜を実現するために、IRの可能性を追求していかなければなりません。」(2014/2/21 第1回定例会 自民党 梶村充)
「現段階においては、我々みんなの党横浜市会議員団は4名しかおりませんけれども、非常に肯定的な立場で捉えております。(中略)IRも横浜のさらなる魅力づくりにとっては非常に有効なツールだと思うのです。それで私も、実はロサンゼルスに長いこと滞在していたのです。ラスベガスが車で数時間ということで10回以上気軽に行っていたのです。それがカジノをしていたというよりは、そこのわくわくする雰囲気がすごく好きだったのです。」(2014/3/20 予算第一特別委員会 みんなの党(現・自民)横山勇太朗)
「我が党はかねてより、IRについては、経済の活性化のみならず、本市が推進しているMICE機能強化の面からも重要なものであり、横浜市としても検討すべき事項であると言ってきました。(中略)開港から200年を描く思い切ったまちづくり、都心臨海部再生のかなめとして、IRの推進は欠かせませんし、横浜ならオールジャパンでIRを進めることができると考えています。他都市におくれることがないよう、IRの実現に向けた検討を進めていただくことを要望し、次の質問に移ります。」(2014/9/9 第3回定例会 自民党 草間剛)
「その大規模公共事業の中で唯一財源が明確に得られ、負担を軽減させることができる事業にIRがあるのだろうとは思います。(中略)IR、統合型リゾートの議論が最近活発になっておりますが、まず、そのうちのコンテンツの一つにカジノがあると。そのカジノについての適正な理解を得ることは必要だと考えます。」(2014/9/9 第3回定例会 みんなの党 平野和之)
「こういったIRのマリーナベイサンズのように、MICE施設が一体となっている市庁舎の間にIR施設がないと、むしろ無意味なのではないかと思うわけですが、この点についての見解を伺います。(中略)これは中がMICEの施設です。それから上が緑と、そして中のショッピングモールがあって、そしてカジノがあると、いろいろなこういう、雰囲気的には別に町の景観を崩すとも到底思えないわけですけれども、改めてカジノがない先進国というのはあるのかどうか確認します。」(2014/9/26 決算第一特別委員会 みんなの党 平野和之)
「我が党では、かねてより観光戦略やMICE誘致に取り組んできており、IRについては、経済活性化や財政健全化が期待できる施策として、積極的に取り組むよう要望してきたところです。(中略)統合型リゾート、IRは、ホテルやショッピングモール、飲食店のほか、エンターテインメント施設や劇場など、多くの魅力的な施設の集合体で、その一部にカジノ施設があるわけですが、まだまだ市民に理解されていない部分が多いと感じています。より多くの方々に正しく理解していただけるよう、積極的に情報を発信していただくことを要望します。」(2014/12/3 第4回定例会 自民党 鈴木太郎)
「このようにIRはMICE施設などを含む大規模な施設の整備、運営に民間の資金やノウハウなどを呼び込むことができ、民間の投資により魅力的な施設が生み出されるだけでなく、地域経済への波及効果も期待されます。一方、IRは、地方自治体の申請に基づき、国が指定した区域でのみ実現が可能とされており、当面全国で一、二カ所とも言われている中で、現在多くの自治体が検討を進めている状況であり、引き続き積極的に取り組んでいく必要があると考えます。」(2015/2/24 第1回定例会 自民党 古川直季)
 「我が国は、間もなく国会に上程もされると聞いておりますけれども、問題を生じさせないための制度上の措置をしっかりした上でIRを導入する。その上で、導入されるIRはまさに観光の振興、地域の振興、産業振興にとって大変大きなプラス面があるということが期待をされ、さらに先ほど各地区で取り組みなどを質問してまいりましたけれども、都心臨海部の再生の起爆剤になるというふうに確信をいたしております。(中略)ぜひ、先ほど言った都心臨港地区の制限を外して、このコットンハーバーでみなとみらい、あるいは山下公園、新たに完成をするであろうIR、これらの世界に誇る横浜の夜景を見ながら、2020年のある日においしいビールで乾杯できることを心から夢見まして、質問を終わります。」(2015/3/18 予算第一特別委員会 自民党 渋谷健)
「横浜は、開港以来、進取の精神で我が国の発展を牽引してきましたが、横浜にIRが設置されれば、横浜のみならず、首都圏、ひいては日本全体を引っ張っていけるはずです。観光MICEの分野は横浜がリーダーシップを持って引っ張る、そんな気概を持って取り組んでいただくことを要望して、次の質問に移ります。」(2016/12/9 第4回定例会 自民党 伏見幸枝)
「私は、カジノを含むIR誘致については大賛成でございます。(中略)IRの誘致に限って言うと、訪日外国人の到着点となる羽田や成田と横浜の中間にIRを置かれた場合、非常に困ると私は考えております。夜の横浜を楽しんでいただけるよう、少しでも魅力を創出して武装していかなければなりません。そのためには、水面下であっても、水面上であろうが、少なくとも東京都や川崎市にカジノを取られないように交渉を進める策を講じていかなければならない。私はこれぐらい強い思いで賛成するところでございます。」(2017/3/22 予算第一特別委員会 無所属(現・自民)横山勇太朗)
 これら11個の発言からは、 マカオやラスベガスのカジノに実際に行った体験、経済効果 などを交えて、 カジノ誘致に対する強い賛成の意思が感じられる 。2015/3/18の渋谷健市議に至っては「 新たに完成するIRで夜景を見ながら、おいしいビールで乾杯できることを心から夢見まして 」と生々しい青写真を語っている。
 ちなみにカジノ誘致賛成と最後に発言したのは、2017/3/22に 「カジノを含むIR誘致に大賛成」と明言した横山勇太朗市議 。当時は無所属だが、 統一地方選挙の翌月にあたる2019年5月、自民党に入党 している。その1つ前にカジノ誘致に賛成と発言したのは、2016/12/9の伏見幸枝市議。前年の選挙で初当選を果たしたばかりの新人だ。
 ここからの一文は想像になるが、カジノ反対の市民の声が高まり、カジノ賛成とは発言しにくい時期、自民党入党への踏み絵あるいは新人議員の汚れ仕事として、この2人が利用されたのではないか。
 ここでもう1つ新たな視点を本記事に加えたい。横浜市議の出身であり、次期総理との声が日増しに高まる菅義偉官房長官だ。8月22日に林市長がIR誘致を表明した同じ日、カジノ企業のラスベガス・サンズ(米国トランプ大統領の支援者)は大阪から撤退して首都圏に注力すると文書を公表しているが、ここまで手際よく対応するには、予め情報が入っていたとしか考えられない。
 ここからの1文は想像になるが、現在の官邸で横浜市とのパイプが最も太い菅長官が横浜カジノ誘致に深く関わっていると見るのが自然ではないか。
 そこで、カジノ賛成を明言した市議たちの経歴から菅官房長官との繋がりを確認した結果が表3だ。
 結果、密接な繋がりを確認できたのは2名にとどまった。
表3:カジノ・IR誘致に賛成した横浜市議と菅官房長官との繋がり
 1人目は、 梶村充市議 すが義偉事務所の所長 であることが ホームページ のプロフィールに明記されている。リンク先に飛べば分かる通り、トップページには菅長官とのツーショット写真が大きく掲載されている。
 2人目は、渋谷健市議。同じく、すが義偉事務所で秘書を務めていたことが ホームページ に明記されている。
 さらに、今年4月の統一地方選挙では、 選挙公報 菅長官からの応援メッセージ が大きく掲載されている。
 その他の市議は菅官房長官との明確な繋がりは確認できなかった。だが、平野和之氏を除く7名は全員自民党である。横浜市議出身の菅官房長官とは日頃から接点を持つ機会はあると想像できる。
 最後に、本記事の要点を改めて整理する。
 林市長への質問を通して、カジノ・IRへの賛成の意思を確認できた自民党の横浜市議は以下7名。 梶村充(泉区)草間剛(都筑区)渋谷健(南区)鈴木太郎(戸塚区)伏見幸枝(戸塚区)古川直季(旭区)横山勇太朗(泉区) *五十音順。敬称略。()内は選挙区
 この7名のうち 2名(梶村充、渋谷健)は菅官房長官と密接な繋がり(すが義偉事務所の所長もしくは秘書)がある ことを確認できた。 世界における2大カジノの収益性
 2大カジノといえば、ラスベガスとマカオである。
 ラスベガスを含むネバダ州では、カジノの売上高に課税して税収を確保するために1931年にカジノが合法化された。ネバダ州に限らないが、先住民族(インディアン)に対する恩恵としてカジノの営業を認めているケースもある。
 ラスベガスを含むネバダ州には2017年時点で272のカジノ施設があり、総売り上げは2.9兆円となっている。その総売り上げの42%がカジノそのものの売上である。
 一方で1999年に中国に返還されたマカオではポルトガル統治下の1847年にカジノが合法化されていたが、戦後のカジノ利権は スタンレー・ホー 率いる澳門旅游娯楽有限公司が独占していた。
 スタンレー・ホーは香港の裕福な家庭に生まれたが後に没落し、若い頃は苦労したようである。苦学して香港大学に入り、広東語のほか英語、日本語、ポルトガル語を流暢にしゃべるようになる。第二次世界大戦中は単独で中立地だった(カトリックの借用地だったから)マカオに渡り、日本人が経営する貿易会社に勤務する。その会社の危機を救って得たボーナスで香港に建設会社を設立し、戦後の建設ブームで会社は大盛況となる。
 スタンレー・ホーはその利益でマカオのカジノの権利を取得し、リスボアなど主要ホテルや香港との間の高速船なども独占して巨万の富を得る。ただ、その富を決して独り占めせず、多額の納税を続けた。その結果、30万人のマカオ市民は今も教育費や医療費の大半が免除されている。
 1999年にマカオが中国に返還されたあとには、中国政府がカジノの収益性に目をつけライセンスを6つだけ発行して直接管理に乗り出す。現在98歳のスタンレー・ホーはさすがに第一線を退いているがライセンスの1つを今も確保してカジノビジネスを続けている。中国政府との関係は良好のようである。中国政府が発行した6つのライセンスとは、 米国のサンズ、Wynn、MGM、香港のギャラクシーとメルコリゾーツ、それにスタンレー・ホーのSJM(現社名) である。
 マカオのカジノは2017年時点で40施設あり、総売上高はラスベガスを上回る3.7兆円である。またラスベガスとは大きく違い、総売り上げの92%がカジノそのものの売上である。マカオが発展した大きな理由は、中国共産党幹部への賄賂の支払いや中国人のマネーロンダリングに利用されていたからであるが、最近の綱紀粛正と米中貿易戦争による中国経済の減速に伴い、その成長は鈍化するものと思われる。
 現在、全世界では130か国以上でカジノが合法化され、4000以上のカジノ施設があり、その総売上高は10兆円を超える。しかし、日本におけるパチンコ産業の売り上げは、合法化されているとは言えない中で1892社(2018年時点)。総売り上げは減少し続けているが、いまだ15.8兆円もある。
 つまり、 日本1国のパチンコ産業の総売り上げが、世界中のカジノの総売り上げの1.5倍以上 もある。カジノカジノと騒ぐ前に、この問題を直視しなければならない。
 Jason Goh via Pixabay
 そんな世界のカジノ情勢であるが、主要なカジノ運営会社のなかから日本のカジノ運営会社に名前が挙がっている会社だけご紹介しておきたい。
 まずは ラスベガス・サンズ 。シェルドン・アゼルソン(85歳)のカジノ運営会社である。アゼルソンはウクライナ出身のユダヤ人であり、トランプというより米政界の(共和党も民主党も)大スポンサーである。その目的はカジノではなく、シオニストとして世界のユダヤ人を支援しているため、当然、ユダヤ人が影響力を持つ米国経済にも大きな発言力を持つ。
 アゼルソンがカジノ業界に進出した時期は意外に遅く、 1995年に保有するコンピューター関連展示場のコムデックスを8.6億ドルという法外な値段でソフトバンクに売却してから である。アゼルソンはその資金で、ラスベガスで老朽化していたサンズ・ホテルを会社ごと格安で入手し、爆破解体して1999年にベネティアン・ホテルとして開業している。
 サンズはラスベガスでは後発だったため海外進出に注力し、2004年には サンズ・マカオ 、2007年には ベネティアン・マカオ 、2010年には シンガポールでマリーナ・ベイ・サンズ を開業し、世界の最大手カジノ運営会社となる。
 つまり、アゼルソンはコムデックスを売りカジノホテルと入れ替えて成功したわけであるが、その理由は同じラスベガスにあるコムデックスの巨大展示場に来るコンピューター関係者はカジノなどに興味がなく、ホテルが儲からないため宿泊を断られるケースが多発していた。そこで、コンピューターではなくカジノに興味を持つ人々を対象にしたホテルの建設を思いついたそうである。片や ソフトバンクが高値で買ったコムデックスはその後間もなく倒産 している。アゼルソンはその恩返しとでも思ったのか、(たぶん)孫社長を通じて安倍首相をトランプに引き合わせたはずである。こうして、 アゼルソンは安倍首相に恩を売り、日本におけるカジノ運営の1つ(しかも最大のもの)を確保したと考えられる
 アデルソンはつい最近まで大阪でのカジノ運営に興味を示していたが、ここにきて横浜あるいは東京(ともに港湾局が関係していることを忘れないでほしい)のカジノが具体化しそうになると、さっさと乗り換えてしまった。乗り換えるということは、 アゼルソンの日本における政治力からして横浜港か東京湾のどちらかにカジノが設置されることが「確定」となる
 それでは横浜港と東京湾のどちらなのか?であるが、双方の港湾利権をどう振り分けるのかという話である。現時点ではどちらとも言えないが、どちらかがカジノ利権を取り、どちらかが双方の港湾利権を取ることになるはずである。あえて予想すると、空港(羽田)が近い東京湾がカジノ、港湾設備を拡充して場所も広い(米陸軍の借用地まである)横浜港が港湾利権だと思う。
 横浜港のカジノについては、これまで何の発言もしなかった 林文子市長が、横浜を地盤とする菅義偉官房長官の意向を忖度して突然に公表 してしまったため、横浜港のドンである 藤木幸夫会長が激怒 している。スジを通せばよかっただけである。
 このサンズと並んで、日本のカジノ利権に食い込んでいるのが MGMリゾーツ・インターナショナル である。サンズに去られた 大阪 も、次の候補だったMGMリゾーツに乗り換えたようである。GMの大株主としても知られ、世界の自動車業界の再編にも大きな影響力のあった カーク・カーコリアン を総師に、ミラージュやベラッジオなど経営不振となったカジノホテル(どちらもスティーブ・ウィンのコーディネート)を傘下に収めて大きくなったカジノ運営会社である。
 この MGMとサンズは日本のカジノ運営に「当確」していると考えていい だろう。問題は残りの有象無象である。
官邸(菅官房長官)に近いハードロック・インターナショナル 官邸(菅官房長官)主導 である 北海道(苫小牧) のカジノ運営会社として名前が挙がっているは、 ハードロック・インターナショナル 。名前の通りあのハードロックカフェを運営している会社だ。カジノホテルも運営しているが、規模は小さく実力は未知数である。つまり北海道(苫小牧)もハードロックもまだまだ「当確」ではない。
 ちなみにその苫小牧のカジノ予定地の隣には、 森トラストが広大な土地を保有 している。その政治力が、いまだカジノ誘致を検討しているにすぎない北海道・苫小牧を有力候補に押し上げたと考えられる。
 一部の週刊誌が、東京オリンピックのマラソンと競歩が突然に北海道に移されたのは、このIR誘致と関係があるように書いているが、 カジノは米国資本、オリンピックは欧州貴族の利権で何の関係もない
 今春、こんな告知が岡田和生オフィシャルサイトに掲載された(現在は削除済み)。岡田氏は、パチスロ機製造やカジノ事業で知られるJASDAQ(ジャスダック)上場のユニバーサルエンターテインメント(旧社名、アルゼ。以下、ユニバ)の創業者。『フォーブスジャパン』の「日本長者番付2019」では、資産額2270億円で第21位となっている。成功報酬金1億円を支払う資産的な裏づけは十分だ。岡田氏の「お願い」について、オフィシャルサイトの記載(現在は削除済み)を引用する。
<小生、岡田和生と、長男「岡田知裕」は現在、連絡さえ取れない状況下にあります。家族の絆を信じて、世に言われる「上場企業お家騒動」から約1年9ヶ月、いつかは息子は戻ってくるものと待ち続けて参りました。親子が(推測するに)第三者からの関与で、離散するような状況にあり、このまま生き続けても、お互いに幸せな訳がないと信じます>
<私、岡田和生と長男、岡田知裕が家族の絆を取り戻す為の前向きで、友好的な二人だけの和解の話し合いの場を設ける事を現実化できる事、その場を最初に現実化してくださる事ができた方、1名に成功報酬として総額1億円お支払い致します>
 成功報酬を獲得するためには事前に登録が必要で、誓約書(「違法行為を行いません」などとするもの)と個人情報記入用紙をオフィシャルサイトからダウンロード、プリントアウトし、記入・署名・捺印して、身分証明書のコピーと一緒に岡田氏へ郵送しなければならない。
 ユニバ取締役会長だった岡田和生氏が同社から追放されたのは2017年6月。株主総会で取締役に再任されなかったのだ。ユニバの株式の約70%を保有する香港の親会社、オカダ・ホールディングス・リミテッド(以下、オカダ)の意向である。
 それに先立ち、オカダで和生氏が取締役から解任された。オカダの株式は、和生氏が約46%、長男の知裕氏(元ユニバ取締役)が約43%、長女の裕実氏が約9%を保有しており、知裕氏が裕実氏にはたらきかけて、過半数の株式で和生氏の追放を実現させた。
 お家騒動に関連し、和生氏、知裕氏、裕実氏、ユニバを当事者とする損害賠償などの裁判がいくつか起こされている。そのうちの1つに知裕氏が提出した陳述書には、以下の記載がある。
<和生は、仕事の面でも、また家族に対しても、非常に気性が荒く、ワンマンかつ頑固で自己中心的な振る舞いをする人です。UE(筆者注・ユニバ)グループにおいては、創業者として絶大な権力を持ち、他人の反対意見を聞き入れることはありませんでした>
<2002年に私がいったんUEから離れたのも、私が、和生が自分の愛人である元ホステスの女性をUEの要職に就けるようなことは公私混同であり不適切であると考え、UEの取締役として、和生に対し、これを指摘してやめさせようとしたところ、逆に和生が激高し、私を辞めさせたという経緯でした>
<2015年6月に私がUEの取締役を退任したのも、和生が再婚した岡田幸子をUEの取締役に就けようとしたところ、取引先の金融機関から、UEの役員に岡田一族の人間をこれ以上増やすのは良くないという指摘があったため、岡田幸子を入れる代わりに私を外した、というのが実態です>
 そもそも和生氏と知裕氏との間に「家族の絆」などあったのかと疑わせる内容だ。
 成功報酬1億円の告知がされてから半年が経った2019年9月上旬、筆者は岡田和生氏にインタビューを行った。
…知裕氏と最後に会ったのは、いつごろか。
和生氏:
4年余り会っていない。正月なども来ないから。
…成功報酬1億円の趣旨を改めて聞きたい。
和生氏:
知裕を連れてきてくれれば、警察官でも弁護士でも誰でもいいから報酬を支払うということ。私と知裕が2人だけで話し合えば、和解できると思う。知裕がユニバの取締役になりたくて、私を追放したのではない。知裕はユニバの取締役らに利用されている。
…成功報酬による和解工作は効果があったのか。
和生氏:
事前登録者は何人かいたが、うまくいかなかった。
…今後、どのような手段で自分自身の復権を目指すのか。
和生氏:
すでに、2019年8月、知裕名義のオカダの株式は私に帰属するものだという確認の裁判を千葉地裁に起こしている。知裕が話し合いに応じないのだから、裁判で解決するしかない。
 筆者は知裕氏にもインタビューするべく、自宅を2回訪ねた。しかし、インターホンを鳴らしても応答はなく、取材申し込みの置き手紙2通を残しても返事はなかった。

 年末の政界に激震が走っている。 カジノ を含む統合型リゾート(IR)事業をめぐり、不正な現金の授受があった疑いが強まったとして、 東京地検特捜部 は25日、自民党衆議院議員の 秋元司 容疑者(48)=東京15区=を収賄容疑で逮捕した。地検特捜部による現職議員の逮捕は2010年、当時 民主党 (現: 国民民主党 )の 小沢一郎 氏の資金管理団体「陸山会」の 土地 購入をめぐる事件で、政治資金規正法違反の疑いで当時衆議院議員だった石川知裕氏が逮捕されて以来となる。
 秋元氏はIR整備推進法をめぐり、法案を審議する衆院内閣委員会の委員長として、16年12月の委員会採決を取り仕切った。17年8月から去年10月までは 国土交通省 内閣府 の副大臣を務め、IRなどを担当した。著書『日本の極みプロジェクト 世界から大富豪が訪れる国へ』(CCCメディアハウス)では、 中国人 など 訪日 外国人 爆買い を促した日本の産業振興策などを語っている。
 全国紙政治部記者は話す。
「そもそも秋元氏の動向に関しては、公安の外事部門も関心を持っていたという情報が流れています。秋元氏に 賄賂 を渡したとされる中国企業には、 中国 共産党 との関わりが指摘されています。特捜の捜査の端緒がなんだったのかは現時点でも明確になっていませんが、中国の 習近平 国家主席の来日を控えている時期なので、 政府 は気が気でないでしょうね」
 別の社会部記者は今回の逮捕を次のように解説する。
「特捜としては秋元氏を逮捕して終わりにするつもりはないようです。陸山会事件の際、小沢一郎氏を狙ったように背後にいる大物がターゲットです。中国に端を発する金がどのように流れたのかを解明するのが捜査の焦点です。金の流れの終着点が副大臣級の秋元氏だとは思えません。今回の収賄容疑では、18年6月施行の改正刑事訴訟法で導入された司法取引が使用できます。それで関係者全員に揺さぶりをかけるでしょうね。
 秋元氏は国際観光産業振興議員連盟(通称:IR議連)の副幹事長でした。そこの議連自体が与野党を超えて、きな臭い噂のある大物議員の巣窟です。秋元氏が所属する自民党二階派も含めて“次に特捜にお呼びがかかるのは誰なのか”について、いくつか話が出ていますが、そのなかの誰であっても政界はひっくり返るでしょうね」
 IR議連は旧民主党政権時代の2010年4月、社民党と共産党を除く超党派で結成された。カジノの合法化による観光産業の振興を行うと同時に、 パチンコ の換金合法化を目的として発足した。カジノ導入の議論が本格化したのは12年。以降、現職元職を含め多くの大物議員が同議連の幹部になってきた。
 過去から現在まで、 IR議連 の議員名簿に記載があった主だった議員の名前を挙げてみると、例えば最高 顧問 には 小沢一郎 氏や 石原慎太郎 氏、顧問では下村博文氏、鳩山邦夫氏、会長の細田博之氏、副会長に 前原誠司 氏、河村建夫氏、幹事長に岩屋毅氏、牧義夫氏、事務局長には萩生田光一氏、事務局次長に桜田義孝氏など現閣僚や閣僚経験者の名前が並んでいる。
  二階俊博 自民党幹事長が率いる二階派の所属議員も数多い。 カジノ 誘致レースで有力候補とされている 横浜 市の元市長で元衆議院議員の中田宏氏の名前もあった。
 前出の社会部記者は語る。
「政治家と反社会勢力とのかかわりも取りざたされている時期です。特捜は当然、その筋のとの関係も洗うでしょう。“本丸の 攻略 が成功するか否か”は検察の捜査力次第ですが、2020年の年明けの国会は、おとそ気分で始まるわけにはいかないかもしれません」
 「数百万円なんてメシ代にもならない。日本に持ち込んだ資金は数億円単位だろう」…日中間のカネの流れに詳しい東京在住の華僑A氏は、こう言い切った。
 日本で進む統合型リゾート(IR)開発計画への参入をもくろみ、中国企業の顧問だった日本人男性が、中国から多額の現金を不正に持ち込んだ。現在、東京地検特捜部が外為法違反の疑いで詳しい経緯を調べている。
 報道では、日本に持ち込んだ金額は「数百万円」とされている。だがA氏は、「捜査が入ったのは、相当の金額だからだろう」と話す。

 日本人が顧問を務めていた中国企業というのは、オンラインゲームやスポーツくじを手掛ける「500.COM」(500ドットコム)だ。現在は深センに本社を構えるが、もともとは「太子党(中国共産党の高級幹部の師弟グループ)を後ろ盾にして、2001年に北京で設立された会社だ」(A氏)という。
 2017年8月に500ドットコムは日本法人を設立した。同社CEOの潘正明氏は、同じ月に沖縄県那覇市で開催されたIR計画に関するシンポジウムで、「中国の富裕層を呼び込みたい」と沖縄でのIR参入に意欲を示した。
 このシンポジウムで基調講演を行ったのが、IR担当の内閣府副大臣だった秋元司衆院議員である。報道によれば、500ドットコムの顧問が持ち込んだ現金は秋元議員に渡った疑いがあるという。カジノ産業に詳しい日本人実業家B氏は、「秋元氏は、国際観光産業振興議員連盟(IR議連)のメンバーで、カジノ誘致にきわめて積極的でした。今回の捜査報道は、やはり…という感じです」と語る。
 ちょうど3年前の2016年末、IR推進法「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」が成立した。その後の2018年7月には、IR実施法「特定複合観光施設区域整備法」が成立し、日本のIR開発への道筋ができた。
 カジノ誘致は、7割近い国民の反対の声(共同通信世論調査)を振り切り十分な議論と検証を行わないまま国策に据えられた。だが、今回の事件を機に、「政治家と中国企業が結託し一攫千金を画策している」という実態が暴かれるかもしれない。
 日本ではカジノ候補地として9つの自治体が名乗りをあげ、海外のカジノ大手が参入の意欲を示している。「多くの外国人観光客が集まり、日本経済が活性化する」としてIR開発に期待する専門家も少なくない。
 しかし、IR開発は本当に日本の国民のためになるのだろうか。
 前出の日本人実業家B氏は、「カジノの世界は、おしぼりひとつですら大きな利権になっていて、それらの利権はカジノを支配する一部の企業グループに握られています。そういう世界的企業が、日本でのカジノ利権を狙っています。日本政府は、カジノを誘致すれば日本が潤うと思っているのでしょうが、あてが外れるおそれが大いにあります」と警鐘を鳴らす。日本がカジノ誘致、IR開発のために大きな国家予算を組んだとしても、利益を手にするのは外資だけで日本にお金が落ちない可能性は大いにあり得る、というのだ。
 また、アメリカ在住の日本人ジャーナリストは、「もしもアメリカ資本の企業が日本のカジノを運営したら、トランプ政権の言うがままになるだろう」と指摘する。さらに、中国資本も“鵜の目鷹の目”で利権を狙っている。経済再生のため、地域活性化のため…政府や首長はこう述べるが、このままでは「日本企業は出る幕なし」ともなりかねない。
 今月、マカオは中国返還20周年を迎えたが、その歴史はカジノ発展の歴史だったといっても過言ではない。
 マカオでカジノ市場が開放されたのは2002年のこと。翌2003年に大陸客の自由旅行が解禁されると、カジノ産業が飛躍的な成長を遂げる。2018年にはマカオの財政収入は1342億パタカ(約1.9兆円)となり、返還当時(1999年)の195億パタカからおよそ7倍に増えた。財政収入の79.6%を占めているのがカジノ産業だ。
マカオのIR。一歩足を踏み込めばそこは「この世の別天地」
 そしてカジノの経営を支えるのが、富裕層によるバカラ賭博だ。マカオのカジノは、1回の滞在で5000万円~1億円を賭ける“ハイローラー”と呼ばれる富裕層の存在が大きい。
 だが、日本のカジノは「平場(ひらば)」と呼ばれる“一般向けモデル”で運営しようとしている。「どの道やるのなら“ハイローラー”に特化してやった方がいい。ギャンブル依存症を含め、国民に及ぶ被害が少なくて済むからだ」(カジノ経営に詳しい地方公務員)という意見は、検証の余地があるだろう。
 また、マカオでは、カジノの売り上げを基に、減税や教育費の15年間の無償化、高齢者の年金補助などの施策を実施している。さらに売り上げの一部を文化、社会、教育、科学などの発展に投入するなど、さまざま形で市民に還元している。ディーラーにマカオ市民を起用するというのも、地元の雇用創出と経済活性化のためだ。
 日本はそうしたマカオモデルを十分に研究して取り入れようとしているだろうか。マカオ在住の日本人からは、「日本のIR議連の政治家は視察に来てもマカオモデルに関心を向けず、飲み食いだけして帰る」との声も聞かれる。
 一方で、マカオにはカジノがもたらす問題も数多くある。地元民の就職先がカジノ産業に限定されてしまうこともその一つだ。
 中国メディア『南方周末』は「マカオの若者は、生活がもはやカジノと切り離せない」(2019年12月8日)と論じ、マカオの一般家庭の働き先が両親も子どももカジノしかないという現実を伝えている。また、「青少年の価値観に大きな影響を与える」(BBCニュース、2014年)ことも問題視されている。
 筆者は2018年春にマカオを訪れ、カジノと街が一体化している様子を目の当たりにした。カジノホテルの周辺には、高級時計、モバイルやパソコン、高級乾物の「燕の巣」などを売る店が軒を連ねている。質屋や宝飾品店、さらには不動産屋まである。中国人の観光客はこうした店舗を利用し、ギャンブル資金を調達する。
マカオのカジノホテル周辺には金貸し業や宝飾業、中国人客好みの飲食業などが集中する
 2018年にマカオを訪れた観光客は3580万人。うち7割は大陸客が占め、その大半がカジノ目当てである。筆者が訪れたIR「ギャラクシーマカオ」は「8割近くが中国人客だ」という。
 一方で、中国政府は中国からの外貨持ち出し制限を強化しており、「大金を儲けたい」と望む中国人の間で、不正を助長させることになっている。また、中国での不正蓄財を海外に逃避させるマネーロンダリングにもマカオのカジノが利用されている。いずれ日本にカジノが誘致されたら、中国人を中心とした地下経済が生まれ、中国化した独特な産業チェーンが構築されていくに違いない。
 現在、日本でカジノ誘致に名乗りを挙げている都市は、横浜、東京、幕張、名古屋、大阪、和歌山、長崎などである。有力地の一つとなっているのが、大阪だ。関西の経済活性化を狙い、人工島の『夢洲』にIRを誘致しようとしている。
 大阪で自動車部品工場を経営する証言者によると、夢洲は、大阪の大手電機メーカーが元気だった1980年代には製造業の一大拠点としての利用が計画されていたという。ところが、「電機メーカーの経営悪化や、工場の海外進出の加速とともにその話は立ち消えになり、IR開発にシフトしていくようになりました」。
 大阪の製造業は衰退の一途をたどり、今や「工場で働く若者は、あまりに薄給で結婚もできないのが現実。土日もアルバイトをして生活をしのいでいる工員が少なくありません」という。もしも大阪にカジノができれば、そうした若者も将来に夢を描けるようになるのだろうか。だが、証言者は「地元民には還元されないでしょう。国民の税金が投入されて終わるだけではないでしょうか」と悲観的だ。
 IRは本当に日本の未来を明るくする産業といえるのだろうか。中国企業や外資が群がり、一部の連中だけが暴利をむさぼる…。日本のIRにはこんな未来しか見えてこない。
 マカオのカジノホテルの裏にはけっして明るいとはいえない庶民の生活がある。
 カジノを含む統合型リゾート施設IRへの日本参入を目指していた中国企業「500ドットコム」側から現金300万円を受け取るなどしたとして、東京地検特捜部は25日、収賄容疑で、IR担当の内閣府副大臣だった衆院議員、秋元司容疑者=東京15区=を逮捕した。関係者によると、「一切身に覚えがない」と容疑を否認している。秋元容疑者は同日、自民党を離党した。IR参入をめぐる外為法違反事件は、政界の汚職事件へと発展した。
 現職国会議員の逮捕は、平成22年1月に小沢一郎衆院議員の資金管理団体「陸山会」をめぐる政治資金規正法違反事件で逮捕された石川知裕衆院議員以来、約10年ぶり。
 特捜部はこの日、事件の関係先として千葉県印西市にある自民党の白須賀貴樹衆院議員の事務所や宮城県石巻市にある自民党の勝沼栄明前衆院議員の事務所を家宅捜索した。白須賀氏は29年12月、秋元容疑者とともに広東省深センにある500社本社を訪問していた。
 特捜部は贈賄容疑で500社元副社長、鄭希ことジェン・シー=東京都港区▽同社元顧問、紺野昌彦=那覇市▽同社元顧問、仲里勝憲=沖縄県浦添市-の3容疑者も逮捕した。関係者によると、一部容疑者は調べに対し、利益供与を認めている。
 秋元容疑者の逮捕容疑は、IR担当の内閣府副大臣だった平成29年9月下旬、同社のIR事業で便宜を受けたいとの趣旨だと知りながら、東京都内で現金300万円を受領。30年2月中旬には、妻子と北海道旅行への招待を受け、旅費など約70万円相当の利益供与を受けたとしている。
 秋元容疑者は29年8月に500社が那覇市で開いたIRに関するシンポジウムで基調講演を行ったほか、12月には本社を訪れ、経営トップと面会していた。
 秋元容疑者は25日、産経新聞の取材に「500社側から金銭はもらっていない」と容疑を否定した。
 特捜部は今月19日、無届けで国内へ現金数百万円を持ち込んだとされる外為法違反事件の関係先として、秋元容疑者の事務所を家宅捜索し、秋元容疑者の関与を調べていた。
 秋元容疑者は東京都出身で、国会議員秘書を経て16年7月に参院比例代表で初当選。22年の参院選で落選したが、くら替えして24年に衆院議員となり、現在3期目。29年8月から今年9月まで内閣府副大臣を務め、昨年10月まではIRを担当していた。
菅氏側近の相次ぐ醜聞 報道の仕掛け人は誰か
  年の瀬に、またしても国民の政治不信を加速させるような醜聞が盛り上がっている。
 IR(カジノを含む統合リゾート)の担当副大臣を務めていた秋元司衆議院議員が、IRへの参入を目指していた中国企業から数百万のカネを受け取って便宜を図った疑いで、東京地検特捜部に逮捕されたのだ。
 IRと聞くと一般的には、自治体の誘致レースが盛り上がっている印象だろうが、実は水面下ではIR企業による”政界工作”もかなりヒートアップしている。大阪や横浜を見れば一目瞭然だが、日本のIR誘致で最後にものを言うのは政治力だということを、海外のIRプレイヤーたちもよくわかっているからだ。
 秋元議員は、IR担当副大臣に就任する以前からIR議連のメンバーという筋金入りの「カジノ推進派」。そこに加えて、「カジノ利権」という文脈で頻繁に名が出る二階俊博自民党幹事長率いる志師会に属している。IR参入企業のアプローチリストの上位に名を連ねていることは間違いない。
 という話を聞くと、「ぜひそのあたりを徹底的に捜査して、カジノ利権を白日のもとにさらすべきだ!」と鼻息荒く特捜部にエールを贈る方も多いだろうが、魑魅魍魎が巣食う永田町では、そういう素直な見方とかなり異なる、耳を疑うような仰天情報も流れている。
 今回のカジノ疑獄は、実は安倍首相側近が仕掛けたもので秋元議員はハメられた、というのだ。
 「は?バカも休み休み言え!年明けの国会で任命責任だなんだと野党からやいのやいのとたたかれるのは首相本人なのに、そんな自殺行為をする側近などいるわけないだろ」と呆れる方も多いことだろうが、この「風説」の中身を詳細に聞いてみると、それなりに納得できる理由がある。
 20人近い無派閥議員からなる「隠れ菅派」と二階派が合流したら、党内のパワーバランスは一気に塗り替わる。その動きを最大派閥・清和会の安倍氏と、志公会の領袖である麻生氏が警戒して、水面下で菅・二階の足を引っ張るような情報戦を仕掛けているという情報がある。今回のカジノ疑獄もそのひとつだというのだ。
 秋元氏にダーティなイメージをつければ、派閥トップである二階氏と、IRの旗振り役である菅氏にダメージを与えられる。もちろん、内閣府の副大臣だった人物なので安倍首相も無傷では済まないが、大騒ぎなればなるほど、首相と昭恵夫人が当事者とたたかれる「桜を見る会」を巡る疑惑が吹っ飛ぶというメリットもある。
 つまり、安倍首相の立場から見れば、秋元議員逮捕は「任命責任を追及される問題」ではあるのだが、党内勢力を脅かす政敵にダメージを与えつつ、長期化しつつある“政権の私物化疑惑”から国民の目をそらすことができる「一粒で二度美味しい他人のスキャンダル」という側面もあるのだ。
 「首相を貶めるようなデマを流すな!」というお叱りもあるだろうが、筆者が今回のカジノ疑獄にまつわる怪情報を「デマ」だと笑い飛ばせないのには、もうひとつ理由がある。
 「文春砲」をきっかけに、就任してまたたく間にクビを取られた河井克行前法相、菅原一秀前経産相というのは、菅氏の側近として知られ、今回の内閣改造でも菅氏がねじ込んだといわれていた。
 ただ、これだけならば「そういうこともあるよね」と笑っていられるが、筆者が戦慄を覚えたのは、和泉洋人首相補佐官の不倫スキャンダル報道である。
 やはり「文春砲」によって厚労省大臣審議官と京都出張中に楽しく町歩きをするツーショット写真が撮影されて、「京都不倫出張」だと報じられた和泉補佐官も起用したのは菅氏で、米軍基地問題などの官房長官案件を任せるほど信頼の厚い腹心なのだ。
 秋元司衆議院議員の逮捕劇を巡って、永田町では、最近の菅官房長官人脈への相次ぐ醜聞報道の一環として、「安倍・麻生」ラインが仕掛けたリークが発端だと噂されている。
 秋元司議員は二階派所属。一方、「文春砲」がきっかけで辞任した河井克行前法相、菅原一秀前経産相、不倫スキャンダルの和泉洋人首相補佐官の3人は菅官房長官の側近である
 メディアの仕事をしていない方でも、最近のネット情報などでなんとなくわかると思うが、「スクープ」と「リーク」は同じ意味である。世の中に溢れるスクープや特ダネなるものは、ジャーナリストや記者が地をはうように突き止めたという側面があるのは確かだが、一方でそのような人たちに明確な目的意識をもって内部情報を流した人たちがいて、はじめて成立する。
 つまり、これらの菅側近の相次ぐスキャンダルというのも、何者かが何かしらの意図を持って、週刊誌に「リーク」をしたものなのだ。
 実際、筆者は少し前に某週刊誌でスキャンダルが報じられた言論人に関する「告発文書」を目にした。それはさながら興信所の調査報告書のような体裁で、隠し撮りされた写真や、行動が綿密に記載されていた。このような「告発文書」が週刊誌の編集部に寄せられ、取材がスタートして「スクープ」になるのだ。
 では、この「告発文書」を作ってメディアにリークをしたのは誰なのかという問題がある。その言論人は政権に批判的な発言を繰り返すことで知られている。何をか言わんやである。
 話が逸れたが、菅側近のスキャンダルがたて続けに発覚しているということは、裏を返せば、それだけ「リーク攻撃」を受けているということでもある。
 そこに加えて、今回のIR疑獄である。動いた検察庁というのは、菅氏がやはり腹心の黒川弘務・東京高検検事長を、次の検事総長にしようと根回ししていたが、河井前法相の失脚でそれがパアになったなどと囁かれている。つまり、権力闘争で菅氏の影響力が薄れた検察が、菅氏が肝いりで進めるIRへ切り込んでいるという構図なのだ。
 ゴーン事件でもわかるように、特捜部のお家芸もまた、「リーク」である。関係からの告発を元にして動き、それを元にしてストーリーを作ってマスコミに「検察関係者」として「リーク」をおこない、司法の判断の前に「人民裁判」で「推定有罪」にしてしまうという手法を得意としている。
 その力が凄まじいのは、マスコミによるダーティイメージが定着して、政治家としてのパワーを失った小沢一郎氏の例を見ればよくわかる。
 菅氏と二階氏も、小沢氏と同じような道をたどる恐れがあるのではないか。
 なぜそう思うのかというと、特捜部が今回のIR疑獄を広げていけば、年明けに設置されるカジノ管理委員会への悪影響も考えられるからだ。
 参入を目指す企業が政治家や官僚を賄賂や接待漬けにする、なんて腐敗が横行しないように、世界各国では、カジノは独立した機関がライセンスを付与して、検査や免許剥奪などの強い権限を持たせている。日本のIRもこの世界ルールにならう。
 そこで「世界最高水準のカジノ規制」「クリーンなカジノを実現する」を合言葉に年明けの1月に設置されるのが、内閣府の外局であるカジノ管理委員会である。
 しかし、内閣府の前副大臣がクロならば当然、この外局も本当に大丈夫かという話になっていく。「独立しています」なんて言っているが、実はズブズブじゃないの、と。
 もしこういう流れが盛り上がると、再び「菅おろし」の風が吹いてくるのではないかと個人的には思う。カジノ管理委員会の委員の中には、菅氏と近しいのではと囁かれる人物がいるからだ。元警視総監の樋口建史氏である。
 その詳細は、立憲民主党の阿部知子衆議院議員がおこなった、「五人のカジノ管理委員会の候補の見直しに関する質問主意書」という質問のなかにあるので引用させていただく。
 《樋口建史氏は二〇一三年一月まで警視総監を務めた後、二〇一四年にはミャンマー大使に就任したが、その就任には菅義偉官房長官が大きく関わったとされる》(令和元年十一月二十二日提出)
 もちろん、事実はわからない。しかし、これまで見てきたように菅人脈がことごとく調査をされて、その内容が週刊誌に「リーク」されているのは事実だ。
 特捜部によって秋元議員が「推定有罪」にされていく中で、もしカジノ管理委員会の中の「菅派」に文春砲などでカジノ企業との不適切な関係が発覚したらーー。そうなれば、IRの管理体制は腐敗しているというイメージが定着して、この国策は頓挫する。スケジュールを延期され、旗振り役の菅氏のメンツは丸つぶれで、政治的求心力も失っていくだろう。
 もし筆者が「菅おろし」を仕掛ける側ならば間違いなく、このあたりを攻めていくだろう。今年、若者にもチヤホヤされた「令和おじさん」に、来年は大きな試練が待ち構えているかもしれない。
ご批判、ご指摘を歓迎します。 掲示板  新規投稿  してくだされば幸いです。言論封殺勢力に抗する決意新たに!
inserted by FC2 system