索引
李栄薫  ( 李承晩  学堂校長) 反日種族主義 講義(2)
 「韓国の礎を正しく築き建国した」筈の 李承晩  氏が為した史実歪曲の動機
1つ目は,「政権の正当性」の確保.本来,日本から独立するなら,日本と併合条約を締結した大韓帝国が復活すべきだが,戦後最高権力を握った李承晩氏は,李王朝の復活を許さず共和国化した.そのままでは「朝廷への謀反」となるため,辻褄を合わせるべく歴史を改竄する必要があったとされる
2つ目は,国民の「日本時代への郷愁」を断ち切ることだ
 戦後,日本と分断された韓国は,世界の最貧国へ没落し,日本時代を懐かしむ雰囲気が国中にあふれていた.日本時代が「地獄」だったことにしなければ,新政権の存在意義が薄らいでしまう
3つ目は,朝鮮戦争前後の李政権による自国民虐殺事件の糊塗
 政府軍は,1948年,済州島住民3万人を共産ゲリラ幇助者として虐殺した(四三事件).朝鮮戦争が始まると,元左翼の保導連盟員十万人以上を「敵性分子」として虐殺した.更に,北朝鮮ゲリラ討伐の過程で,全羅道や慶尚道の山村で,女子供を含む民間人を「共産ゲリラ協力者」と見なして虐殺した
 虐殺に対する恨みを日本に向けさせる手段が歴史の塗替えだった
 ・日本は李朝を亡ぼし,朝鮮を植民地化して残虐な支配を行った
 ・上海に亡命した独立運動家が「大韓民国臨時政府」を立ち上げ,「光復軍」を組織して朝鮮解放に貢献した
 ・その臨政を引き継いだのが李承晩政権
 そして,強烈な反日教育で国民に日本への憎悪を植え付け,「朝鮮戦争で同族同士が殺し合うことになったのも,南北分断を齎した日本統治に原因がある」と教えた
 日本時代の真実を語る者は「政治犯」として徹底的に弾圧された
 後の歴代政権も,国民の反日感情を利用してきた.今や統治時代の真実を知る者はごく少数となり,反日感情が自家中毒して,日本の立場を考慮するだけで「売国奴」となる国になってしまった
松木國俊 2017年12月著
〖平壌2019年9月13日発朝鮮中央通信〗
 「李承晩学堂」李栄薫校長外4人の学者が共同執筆した「反日種族主義」は,日帝の罪(強制徴用,性奴隷蛮行,三千里領土各所への鉄棒打込み等)を全否定し,日本の「植民地近代化論」を正当化する詭弁で満ちている
 日帝による朝鮮侵略・植民地統治(40年余)は,比類なき蛮行として歴史に記録されており,朝鮮人民は絶対に忘れない
840万人の朝鮮青壮年を戦場と苦役場に強制連行して酷使・虐殺し,20万人の朝鮮人女性を戦場性奴隷として連行した反人倫的犯罪は,癒えない傷として朝鮮人民の胸中に刻まれている
 南朝鮮各階層が,日帝庇護本を出版した親日逆賊を糾弾し親日積弊清算の声を高めるのはあまりにも当然だ
『反日種族主義』主著者が初めて語る…韓国の「絶対不変の敵対感情」
 韓国独立は韓国人によるものではなく日本とアメリカが衝突した歴史的事件の結果
 韓国人は日本に対して絶対不変の敵対的感情を持っている
 日本は朝鮮半島統治でドイツのようなジェノサイドは行っていない
 韓国で異例のベストセラーとなった『反日種族主義』.その主著者であるソウル大学のイ・ヨンフン元教授が,ソウルの外信記者クラブで会見した.著書の発売以降,イ元教授がメディアの質問を受けるのは初めての事だ.会見には我々日本メディアを含む外信記者クラブ所属の海外メディアのみが参加した.『反日種族主義』は,日本による統治や慰安婦問題,いわゆる徴用工問題について,当時の法令解釈や統計データを元に,韓国での定説をことごとく覆す本だ.近く日本語版も出版される予定で,日本での関心も高い.ここでは本の詳細は割愛し,会見でイ元教授が何を語ったのか,日本以外の海外メディアが何を聞きたがったのか,可能な限り詳細にレポートする.なお教授の発言には下線を付す
1945年の解放は韓国人が主体的に成し遂げた業績ではない
 ソウル外信記者クラブで会見するイ・ヨンフン元教授
 イ元教授が会見冒頭で語ったのは,意外にも日本統治時代の話ではなかった
 「 19世紀以来中華帝国の解体とともに朝鮮王朝も深刻な解体,崩壊危機に入ったと考える.その結果が1910年大韓帝国の日本併合だった.1945年の日本統治からの解放と1948年の大韓民国独立は韓国人が主体的に成し遂げた政治的業績ではない.それは日本帝国主義がアメリカと衝突して広がった世界史的事件だった 」「 私が言おうとしている事は,この言葉の中に十分含まれている
 イ教授が指摘したのは,日本人から見れば教科書通りの当たり前の事だが,韓国人にとって最もつらい歴史的事実だ.韓国憲法は韓国について,1919年の3・1独立運動の後に発足した「大韓民国臨時政府」の法統を継承する国家だと規定している.文在寅政権は,3・1運動から100年となる今年を重要視し,1919年を建国の日にしたいとの思惑を隠さない.だがイ元教授は,日本がアメリカに敗戦したという,いわば「棚ボタ」で独立した事を直視しなければならないと強調した.これは重要なポイントだ.冒頭発言には続きがある
 「 韓国人は自分のアイデンティティで今深刻な混乱を経験している 」「 深刻な歴史的アイデンティティの混乱と,望ましい歴史的アイデンティティの摸索で,韓国社会と政治が深刻な葛藤を体験している
 韓国人が抱えるアイデンティティの混乱とは何なのか?それは質疑応答で明らかになっていく
反日種族主義とは無条件かつ絶対不変の敵対感情
 欧米の記者からは,なぜこの本を書いたのかという基本的な質問が飛んだ
 「 韓国人は日本に対して強烈な敵対感情を持っている.それは歴史的に受け継いだのだ.多くの韓国人は朝鮮王朝を非常に美しい高尚な人の国だと考えている. そして非常に不道徳で暴力的な日本帝国主義が入ってきて朝鮮王朝を滅亡させたと考えている 」「 これが歴史の本を通じて私たちの幼い世代に教育されている. そういう歴史教育,歴史意識を持っていては,決して大韓民国は先進社会,先進国として発展することが出来ないだろう. なぜなら先進社会・先進政治になるということは隣国との友好的協力関係を前提にするためだ.そういう私たちの未来を遮る反日感情が限界に到達したという危機感でこの本を書くことになった
 またニューヨークタイムズの記者は,前出の韓国人のアイデンティティの混乱とはどのようなものかと質問した
 「 本に対して肯定的な反応を見せる人は,韓国の自由市民だと考える 」「 ところが自由市民を代弁するという自由韓国党(※最大野党・保守系)はこの本に対していかなるコメントもしていない. 換言すれば韓国の自由市民を代表する歴史意識はまだ確立されていないし,政治化されていない 」「 この本は韓国の歴史教育と日本との外交政策に対して多くの問題点を指摘する.しかし国会では全く問題になっていない.それを問題化するほどの知性と器量がある政治勢力が存在しないのだ.この事実が韓国の歴史的アイデンティティがどれくらい深刻に混乱の渦中にあるのかを反証している 」「 反日種族主義を簡単に定義すれば,それは無条件に絶対不変の敵対感情を指す 」「 韓国人はまだ中世的な善と悪の観念で,日本との関係を認識して評価している. 私の孫娘が幼稚園に行ってきたある日,私に話した.『おじいさん,日本は私たちの敵だよ』と. 今韓国の小学校で全教組(※韓国の教職員の組合)の教師を通じて日本に対してどんな教育がなされているのか,皆さんには現場をチェックしてみることを望む 」「 悪の,敵の教育が行われている. 洗脳を通じて伝えられる不変の敵対感情,それが種族主義の核心だ
 イ教授の回答はやや難解なので解説が必要だろう
 北朝鮮には事実かどうかはともかく「金日成主席が抗日パルチザンとして戦った」という「建国神話」が存在する.しかし韓国には日本と全面的に戦った史実は無い.自らの力で独立を勝ち取った歴史が無いから,アイデンティティは揺らぐ.だからこそ「日本と戦った独立の英雄達がいた」という物語に縋らなければならないし,そのためには日本は「悪」でなければならない.しかし『反日種族主義』で主張される日本統治を認めてしまえば「日本=悪」が揺らぐ.一方「日本=悪」をドグマにして,「絶対不変の敵対感情」を抱いたままでは,先進的な社会の基本である「隣国との友好協力関係」が途絶える.このジレンマを乗り越えられる政治家・リーダーが,保守にも革新にもいない事が,韓国のアイデンティティを混乱させているという事なのだろう
 また,韓国の教育の問題を厳しく指摘しているのが印象的だ
日本統治時代ジェノサイドに値する犯罪は無かった
 会見では,長年韓国で取材を続ける著名なイギリス人ジャーナリストから「ドイツは戦争犯罪に対して十分に謝罪したが,日本はそうではないと考えられる.ドイツはユダヤ人虐殺と第二次世界大戦を勃発させ,日本は台湾と韓国を植民支配して東アジアで戦争を起こした.両国は似ていると考えるのか?日本の謝罪は充分で補償もしたと考えるのか?」という質問が飛んだ
 「 日本が韓国を支配した35年または40年の間,ジェノサイドに値する犯罪は無かったと考える 」「 三一運動当時,日本の警察が暴力的に制圧を行い日本軍が住民を殺害したが,それは意図的に計画されたジェノサイドではない 」「 第2次世界大戦の時,韓国は日本と戦争していない.サンフランシスコ条約締結の際も韓国は連合国としての地位を認められることは無かった.国際的に韓国は合法的に日本帝国に編入された領土と認められた.韓国人は連合国の一員として日本と戦ったという意識から自由になる必要がある
 韓国で頻繁に語られる「ドイツは何度も謝罪したのに日本はまともに謝罪もしない.ドイツを見習え」との批判を,真っ向から否定したのだ
日韓関係はどうあるべきか
 日本メディアからは,日韓関係の今後についても質問が出た
 「 韓日関係は非常に難しい状況に置かれていて,その原因は韓国政府が提供したと考える. 文在寅政府は否認するだろうが,政府は1965年度に締結した両国関係の基本協約に違反したと考える. その違反を正当化しており,今の危機的な状況を韓国政府が,または韓国国民が,韓国政治が今後賢明に解いていかなければなければならない.また,日本政府も時間を設けて待ち,協力する態勢になっているように見える.難しい問題は韓国内部にある.私たちは私たちの問題を自ら解決していくべきだと考える
 イ元教授の話はどうしても日本政府寄りに聞こえる.だが専門は経済史学であり,イデオロギーというよりも数十年に及ぶ法令や統計資料,当事者の証言などの学術的な検証を踏まえた主張とも言える
『反日種族主義』主著者が語る慰安婦問題…韓国の「シャーマニズム的非科学性」
 「慰安婦20万人説に根拠は無い.奴隷・拉致・監禁・暴力・無給は韓国人の偏見だ」
 「賛同する政治勢力がすぐに現れるかは悲観的だが30年後には変わるだろう」
 ソウル外信記者クラブで会見するイ・ヨンフン元教授
 韓国で異例のベストセラーとなった『反日種族主義』.その主著者であるソウル大学のイ・ヨンフン元教授が,ソウルの外信記者クラブで会見した
 韓国社会では完全な異端であるイ元教授の主張はこれまでほとんど顧みられることは無かった.その著書がベストセラーになった事実は,韓国社会が変化した事を意味するのだろうか.なお教授の発言には下線を付す
 イギリス・BBCの記者は,「『反日種族主義』では慰安婦には自由と選択意志があったと書いてある.しかし河野談話では強制的で凄惨な生活を送った事を日本が認めている.どういうことか説明してほしい」と問いかけた
 「 学術的な質問というよりは政治的質問だ 」「 河野談話や両国間協議は研究者の研究を制約する絶対的なものではない.研究者はそれを越えていくらでも新しい研究をし,新しい資料や新しい学説を出す事が出来る.研究者の権利だ
 イ元教授は河野談話を政治的なものと規定し,学術的な研究とは一線を画した.その上で,韓国では「慰安婦の事実」となっている様々な事柄に異議を唱えた
 「 私は伝統的な説と違い慰安婦の人数が概略3500~3600人ぐらいと考える.特定の時点で切ればこの数字だが,慰安婦としての 経験をした人数をすべて合わせれば7000人程度と考える 」「 1942年の朝鮮半島と,満州,日本,中国,そして東南アジアにかけて,当時の表現で言うところの酌婦や遊女が合わせて1万9000人存在した.売春産業に従事する女性たちだ. そのうちの一部,1万9000人中3500人程度が日本軍慰安婦であった.日本ではある程度知られた事実だ.19000人の母集団と3500人の日本軍慰安婦とは,質的に差がないと考える
 (イギリス人ジャーナリスト)一般的な認識では慰安婦は20万人いてほとんどが朝鮮半島出身であり,性奴隷化したとされる.移動の自由は無く,補償も無かった.そして彼女達はみんな強制動員されたと知られているが?
 「 日本軍慰安婦になった韓国人女性が20万人というのは全く根拠がない加工された数字だ.韓国人慰安婦が20万人ならば,日本人などを含めた慰安婦全体の人数は70~80万人になってしまう.日本軍の軍人は250~280万人程度なのに,そのような規模の軍隊が70~80万人の慰安婦を率いるというのは話にならない.誰もそれを証明したことがない 」「 性奴隷説は政治的な主張だ.奴隷は自由意志により仕事を止める事が出来ない.しかし慰安婦だった女性たちの契約期間が満了した時,または慰安婦なる前に両親や保護者が受け取った資金を返した後に,移動の自由があった 」「 慰安所に関する運営規則が残っている.慰安所を訪問する日本軍はその利用時間と階級により,所定の料金を必ず先払いし,かつ現金で支払うようになっていた.色々な慰安婦が残した回顧録によれば,その規定は概して正確に厳守されたと考えられる 」「 韓国人だけでなく日本人慰安婦も同じように,大変な境遇にもかかわらず,明るい未来のために貯蓄して家に送金した記録がある.何も補償を受けなかった,奴隷的,性的に略取される人生の連続であったということは,一つの神話だと考える
 イ元教授は強制連行説について,慰安所制度が出来た1937年より以前に公娼制度が合法的に施行されおり,女性が公娼になるには本人の意志だけではなく,保護者が遊郭への就職に同意する就職承諾書必要だったと指摘する.遊郭に女性を送る斡旋業者が貧しい家庭を訪問し,相当額の前借金を提示して両親たちが印鑑を押すという事実があるという.親に売られた子供が泣いて抵抗し,引きずられていく事もあれば,貧しさから抜け出せると決意して出ていった女性もおり,それが人間社会の複雑な側面であり,リアルな実態だと主張する.決して女性たちみんなが自らの意思で遊郭に行ったわけではないというのだ
生存する元慰安婦の証言との矛盾
AP通信の記者は生存する慰安婦の証言よりも統計データを重視していると指摘し,統計資料を仮説立証のために恣意的に使うという批判が研究者から出ているがどう答えるのかとの質問が出た
 「 慰安婦問題と関連して私たちが利用できる統計は無い
 「 慰安所というものが,いかなる制度的・法的根拠の上で作られたのかを研究しなければならない
 「 120~170人余りの元慰安婦が証言したが,問題がないとは言えない.生存している慰安婦が果たしてどの程度母集団全体を代表するのか,サンプルの代表性の問題もある.50年前のことに対する個人証言が持つ信憑性,一貫性の問題.歴史学者ならば議論しなければならない問題だ.証言が繰り返されるたびに証言内容が変わっている 」「 証言の中には,親に売られたとするものや,遊郭の建物を見て立派だと思ったり,着物を着た女性が綺麗だと見えたとする内容 も入っている. 友達にそそのかされて出て行ったり,両親の暴力を避けるために家出して人身売買業者の養女になったりしたとするものも.証言を詳しく見れば歴史の真実が出ている.しかし人々は詳しく証言を読まない
 ソウルの日本大使館前に設置された慰安婦像 日本に責任は無いのか?
 ニューヨークタイムズの記者からは,日本の責任に対する言及が無い点について見解を問う質問も出た
 「 私はこの本で慰安婦に関する韓国人の偏見,つまり奴隷,拉致,監禁,暴力,無給,奴隷的に性を搾取されたという,初等教育からなされる教育内容が誤った事だと批判するのに重点を置いている
 「 両親が娘を斡旋業者に売るのは今日の基準では有り得ないことだが,公娼制度は当時の基準では合法だった.このような時代的状況を理解する必要がある
 さらに日本メディアからは,慰安婦問題や徴用工問題を踏まえた,日韓の歴史問題解決への処方箋について質問が飛んだ
 「 日本軍慰安婦問題または徴用制度が導入される前の時期についての韓国人の歴史認識,その種族主義的特質,そのシャーマニズム的非科学性をそのままにしていては,この国の将来に大きな希望は無い
 「 反日種族主義 」で韓国社会は変わるのか?
 以上見てきたように,イ元教授の発言は韓国社会の中では異端であり過激なものだ.しかしその著書が10万部のベストセラーになった事実は,韓国社会の変化を意味するのだろうか
 イ元教授は,その変化の兆しを小さいながらも感じているという
 「 1948年に大韓民国が建国され,以後70年間韓国人は自由民主主義と市場経済体制の恩恵を受けて暮らしてきた.この自由民主主義と豊かさにより,思想と生活における不自由を感じなくなった,少なくない数の自由な市民階層が成熟したと考えている.彼らは新しい歴史観,歴史解釈を渇望していたのだ.この本が彼らの精神的な欲求を満たす役割を果たしたと考えている 」「 この本の内容を理解する政治勢力が近い将来に現れるかといえば悲観的だが,30年以内に登場することになるでしょう.その時まで大韓民国が存続するならば,私たちは新しい希望の道をひらけるはずだ
 韓国でベストセラーとなった『反日種族主義』の編著者、李栄薫元ソウル大教授は、2019年11月21日、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見し、同書について「韓国現代文明に沈潜している『原始』や『野蛮』を批判した」「韓国人の自己批判書だ」などと説明した。慰安婦問題やいわゆる徴用工問題についても見解を述べた。冒頭発言の全文は次の通り。
 私と同僚研究者5人が書き、さる7月に出版した本『反日種族主義』は、韓国現代文明に沈潜している「原始」や「野蛮」を批判したものです。こんにち、韓国はその歴史に原因がある重い病を患っています。
 個人、自由、競争、開放という先進的な文明要素を抑圧し、駆逐しようとする集団的、閉鎖的、共同体主義が病気の原因です。一言で言えば、文明と野蛮の対決です。私は世界のどの国もこのような対決構図から自由な国はないと思います。
 世界中のどの国も、その近代化の歴史において、このような対決構図による危機を経験していない国はありません。日本も1868年に明治維新を遂行して以来1930年代に至って、国家体制の大きな危機に瀕したことがあります。1948年に成立した大韓民国も、やはり建国70余年で大きい危機を迎えています。
 危機の兆候は非常に深刻です。下手すると、この国の自由民主主義体制は解体されるかもしれません。本『反日種族主義』は、そのような危機感から書かれました。韓国人たちに危機の根源がどこにあるのかを叫びました。それは、ほかでもない、われわれの中に沈潜している野蛮な種族主義であると告発しました。
 1965年に韓国と日本の間で国交正常化がなされたのも、このような理念に基づいてのことでした。国交正常化を推進した朴正煕大統領は、わが国民に歴史の旧怨にとらわれないで、アジアの模範的な反共産主義、自由民主の国家として自信感と主体意識を持ち、日本と対等な位置で新しい未来を開いていこうと訴えました。
 それ以降の日本との緊密な協力関係は、韓国経済の高度成長を可能にさせました。1990年、盧泰愚委大統領は、日本の国会で次のように演説しました。
 「こんにち、われわれは、自国を守れなかった自らを自省するだけで、過ぎ去ったことを思い返して誰かを責めたり、恨んだりしません。次の世紀に東京を出発した日本の若者たちが玄界灘の海底トンネルを通り抜けてソウルの友達と一緒に北京やモスクワへ、パリとロンドンへと大陸をつないで世界を一つにする友情の旅行ができるような時代を共に作っていきましょう」
 韓国人がこのような認識と国際協力にもっと専心していたら、今頃より自由で豊かな先進社会を作れたはずです。
 しかし、その後に展開された歴史は、それとは違う方向に進みました。歴史は、大きい費用を払ってこそ、ほんの少しの進歩を許すのかもしれません。
 1993年に成立した金泳三政権以来、「民主化」と「自律化」の名の下で、韓国社会に深く沈潜してきた野蛮な種族主義が頭をもたげました。日本との関係は、協力から対立に転換しました。北朝鮮との統一政策では、「自由」の理念に代わって「わが民族同士」という民族主義が優位を占めるようになりました。
 韓国の「自由民主主義体制」と北朝鮮の「全体主義体制」が連邦の形態で結合した後、統一国家へ前進できるという幻想が国民的期待として成立しました。
 1992年に提起されてから今までの27年間、韓日両国の信頼と協力を妨げてきた最も深刻な障害は、いわゆる慰安婦問題です。
 朝鮮総督府と日本軍の官憲が日本軍の性的慰安のために、純潔な朝鮮のおとめを連行・拉致・監禁したという主張ほど、韓国人の種族主義的な反日感情を刺激したものはありません。
 度重なる日本政府の謝罪と賠償にも関わらず、この問題が韓国で鎮定されることなく、むしろ増幅してきたのは、それが当代韓国人の精神的動向、すなわち「反日種族主義の強化」という傾向に応えたからです。
 私は、本『反日種族主義』の中で、さる27年間この問題に従事してきた韓国と日本の研究者たちと運動団体を批判しました。彼らは元慰安婦たちの定かでない証言に基づいて、慰安婦の存在形態とその全体像を過度に一般化する誤りを犯しました。
 彼らは朝鮮王朝以来、こんにちまで、長期存続した性売買の歴史において、日本軍慰安婦が成立した1937年から1945年の8年間だけを切り取る間違いを犯しました。日本軍慰安婦制は、近代日本で成立し、植民地朝鮮に移植された公娼制の一部でした。慰安婦制は、公娼制の軍事的編成に他なりません。女性たちが軍慰安所に募集された方式や経路も、女性たちが都市の遊郭に行ったそれと変わらないものでした。就業、廃業、労働形態、報酬の面でもそうでした。
 韓国における慰安婦制は1945年以後、都市の私娼、韓国軍特殊慰安部隊、米国軍慰安婦の形へと、さらに繁盛しました。1950年代、60年代において、韓国政府によって慰安婦と規定され、性病検診の対象となった女性の数は、1930年代、40年代の娼妓と慰安婦に比べてなんと10倍以上でした。彼女たちの労働の強さ、所得水準、健康状態、業主との関係は、1930年代、40年代に比べてはるかに劣悪なものでした。
 既存の研究は、このように韓国現代社会に深く浸透した慰安婦制の歴史には目をつぶっています。この点は、既存の研究者と運動団体が犯した最も深刻な誤りといえます。
 募集と斡旋は、当時の政治情勢からみて、まったく圧力がなかったとはいえませんが、あくまでも日本の会社との契約関係でした。彼らに加えて、韓国政府は連鎖移民の形で日本に自由渡航した人々まで徴用の被害者と見なしてしまう、笑ってはすまされない寸劇を演じました。
 以降、何人かの韓国人がより多くの補償を求めて国境を越えて日本でも裁判を起こしました。彼らは皆、徴用ではなく募集と斡旋の経路で日本に渡った人たちです。自国の国際的威信などには見向きもしない彼らの「僭越」は、彼らだけの責任ではありません。
 韓国の反日種族主義は、彼らの国際的裁判を支持しました。彼らは日本でも心細くありませんでした。慰安婦問題のときと同様、いわば「良心的」日本人が彼らを物心両面で支援しましたが、結果的には両国の信頼・協力関係を阻害するのに寄与しただけです。
 歴史の進歩は、遅い速度でしか進まないようです。
 韓国は人口が5000 万以上でありながら一人当たりの所得水準が3万ドル以上の世界で10カ国もない先進グループに属しています。それでも、この国の精神文化には19世紀までの朝鮮王朝が深い影を落としています。朝鮮王朝は、明・清の中華帝国の諸侯国でした。朝鮮王朝は、完璧に閉鎖された国家でした。
 中国は世界の中心として、日本は海の中の野蛮人として認識されていました。人間の「生と死」の原理は、自然宗教のシャーマニズムに多く規定されていました。個人、自由、利己心、商業を正当化する政治哲学の進歩はないか、微弱でした。
 さる27年間、韓国において慰安婦問題が悪化してきたのは、関連研究者たちと運動団体の責任が非常に重いです。彼らはまるで歴史の裁判官のように振る舞ってきました。彼らが元慰安婦を前に立たせて行進するとき、彼らを阻止できる何の権威も権力も存在しませんでした。彼らがこの問題に関する日本政府との協約を破棄するよう叫ぶとき、韓国政府は黙従しました。彼らは政府の上から君臨しました。国民の強力な反日種族主義が彼らを絶対的に支持したからです。
 彼らは強制連行説と性奴隷説を武器にして、日本の国家的責任を追及してきました。
 その執拗さは、日本との関係を破綻にすると言っても過言ではないほど盲目的でした。
 皮肉にも、強制連行説と性奴隷説は、日本で作られたものです。ある日本人は、朝鮮の女性を強制連行した自身の犯罪を告白する懺悔録を書きました。ある歴史学者は、性奴隷説を提起して、韓国の研究者と運動団体を鼓舞しました。それは、歴史学の本分を超えた高度に政治化した学説でした。
 彼らは、韓国の社会史、女性史、現代史に対して何も知らない状態でした。彼らの韓国社会と政治に対する介入は不当であり、多くの副作用が派生されました。
 今のところ、両国の関係を難しくしている徴用工問題も韓国人の種族主義的な視点から提起されたものです。信じがたいかもしれませんが、2005年に盧武鉉政権が被徴用者に補償を行う当時まで、韓国ではそのことに関する信頼できる論文や研究書が一つも存在しませんでした。
 韓国政府は、1939年から日本に渡った全ての朝鮮人を徴用の被害者と見なしました。その中には、1944年の8月以後の、本当の意味での徴用だけでなく、以前からあった日本の会社の募集や総督府の斡旋も含まれていました。
 その結果、18世紀から19世紀の朝鮮の経済は、深刻な停滞を招きました。人口の多数は、なお原始と文明の境界線でさまよっていました。さる20世紀に渡って韓国人の物質生活には実に大きい変化がありました。しかし、人々の社会関係、精神文化、ひいては国際感覚において本質的な変革はありませんでした。私は、こんにちの韓国の反日種族主義を以上のような歴史的視座から理解しています。
 こんにち、韓国で日本は理解の対象ではありません。もっぱら仇怨の対象なだけです。日本が韓国を支配した35年間は恥の歴史なだけです。それに対する客観的評価は、「植民地近代化論」と言われ、反民族行為として糾弾されます。その結果、こんにちの韓国人は、自分たちの近代文明がどこから、どのように生まれてきたのかを知りません。こんにちの韓国人は、自分の歴史的感覚において朝鮮王朝の臣民そのままです。同様に、こんにちの韓国人はこんにちの日本を旧帝国の延長として、ファシスト国家として感覚しています。
 本『反日種族主義』の日本語翻訳と出版には多くの煩悶がありました。すでに指摘したように、本『反日種族主義』は、韓国人の自己批判書です。
 自国の恥部をあえて外国語、しかも日本語で公表する必要があるかという批判を予想することは難しくありません。それでもわれわれが出版に同意したのは、それが両国の自由市民の国際的連帯を強化するのに役に立つだろうという判断からでした。
 広く開かれた国際社会においてその波長が国際的でない事件は一件もありません。韓国人が患っている病もそうです。病気は知らせた方がよいです。
 実は、われわれのそのような悩みは本『反日種族主義』の韓国語版の出版のときからありました。それでもわれわれの主張に多くの韓国人が応えてくれました。
 建国70年に、少なくない韓国人が自由理念に基づいた世界人として成熟しました。全国の主要書店で本『反日種族主義』は、総合ベストセラー1位の地位を相当な期間占めました。それは正に望外の事件でした。
 遅いながらも、歴史は着実に進歩の道を歩みました。そのような期待を本『反日種族主義』の日本語版にも懸けたいです。韓国人には自身の問題を国際的な観点から省察する好機になるでしょう。また、日本人には、韓国問題を、「親韓」あるいは「嫌韓」という感情の水準を超えて前向きに再検討できるきっかけになれると思います。
 韓国と日本は、東アジアにおける自由民主主義の堡塁です。この自由民主主義が、韓半島の北側に進み、大陸にまで拡散できることを望みます。
 このような歴史的課題のため、韓日両国の自由市民が、お互いに信頼・協力する必要があります。
 本『反日種族主義』がそのような国際的な連帯を強化するのに、ほんの少しでも役立てば、それ以上の喜びはありません。
 最後に、本『反日種族主義』の日本語版の出版をしていただいた文芸春秋様には感謝の気持ちを申し上げたいです。また、韓国に対するご愛情と憂慮のお気持ちでこの本を購入していただいた日本の読者の皆さまにも御礼申し上げます。

ご批判,ご指摘を歓迎します 掲示板  新規投稿  してくだされば幸いです.言論封殺勢力に抗する決意新たに!
inserted by FC2 system