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終戦に向けた共産国家構想
  日本政府が共産主義者達に降伏しようとしている との情報を米国から得た旨、ベルン駐在中国国民党政府武官が打電した。大日本帝国陸軍中枢の終戦構想(ソ連に接近し、天皇制存続を条件に戦後、ソ連や中国共産党と同盟を結んで、共産主義国家の創設を目指す)の情報が米国に漏れていたと思われる。
 昭和20年4月、「今後の対ソ施策に対する意見」を参謀本部戦争指導班長種村佐孝(陸軍大佐)が終戦工作原案として取りまとめ、「終戦処理案」を首相秘書官松谷誠(陸軍大佐)が作成した。
 「今後の対ソ施策に対する意見」には、「(1)米国ではなくソ連主導で戦争終結(2)領土を可能な限りソ連に与え日本を包囲させる(3)ソ連、中共と同盟を結ぶ」と書かれていた。
 松谷氏の回顧録 大東亜戦収拾の真相 には、「スターリンは人情の機微があり、日本の国体を破壊しようとは考えられない」「ソ連の民族政策は寛容。国体と共産主義は相容れざるものとは考えない」「戦後日本の経済形態は表面上不可避的に社会主義的方向を辿り、この点からも対ソ接近は可能。米国の民主主義よりソ連流人民政府組織の方が復興できる」との記述があった。
 岸信介元首相は、昭和25年に出版された三田村武夫著『戦争と共産主義』序文で「近衛、東条英機の両首相をはじめ、大東亜戦争を指導した我々は、スターリンと尾崎に踊らされた操り人形だった」と振り返っている。因みに、真珠湾攻撃目前の昭和16年10月にソ連スパイ(リヒャルト・ゾルゲ)の協力者として逮捕された朝日新聞社の尾崎秀実記者が、目標を世界的共産革命遂行に置き、日本帝国主義からソ連を守る為に活動した旨の供述をしていた。
・「愚策」の謎を解く一次史料 半藤氏
 昭和史に詳しい作家、半藤一利氏の話「愚策といわれる大戦末期のソ連仲介和平工作の謎を解く一次史料だ。当時、統制派を中心とする陸軍中枢が共産主義(コミンテルン)に汚染され、傾斜していたことがだんだんと知られ、大本営の元参謀から『中枢にソ連のスパイがいた』と聞いたことがあったが、それを裏付ける確証がなかった。近衛上奏文など状況証拠はあるが、直接証拠はなかった。英国が傍受解読した秘密文書で判明した意義は大きい。米国の情報源は、ベルンで活発に諜報活動をしていた米中央情報局(CIA)の前身、戦略情報局(OSS)欧州総局長、アレン・ダレスだろう。当時、米国と中国国民党政府は、日本の首脳部が赤化していると判断していたことがうかがえる。ベルンで米国側からピースフィーラー(和平工作者)の動きが出てくるのは、こうした認識から戦争を早く終わらせ、アジアの共産化を防ぎたかったからだろう」
・日本を転換する周到な工作 中西氏
 コミンテルンの浸透工作など大戦期のインテリジェンスに詳しい中西輝政京都大学名誉教授の話「英国立公文書館所蔵の機密文書の信頼性は高く、第一級の史料である。第三国のインテリジェンスで、日本の指導層とりわけ陸軍中枢にソ連工作が浸透していたことを浮き彫りにしている。米国の最重要情報源とは、OSSのアレン・ダレスで、日本に対するOSSの分析だろう。また当時は国共合作していたため、武官は、中国共産党員の可能性もある。統制派を中心とした日本陸軍の指導層にはソ連に親和性を感じ、ソ連共産党に通じた共産主義者(コミンテルン)がいて、敗戦革命を起こして戦後、ソ連型国家を目指す者がいた。ゾルゲ=尾崎事件では、軍部は捜査を受けず、人事も刷新されず、コミンテルンによる浸透工作が継続していた。『ヴェノナ』文書により、米国のルーズベルト政権ですら、200人以上のソ連のスパイないし協力者がいたことが判明したが、防諜が弱かった日本でも、総力戦体制の中でソ連の浸透が進んでいた。ソ連を頼り、和平を委ねたのは、日本を共産主義国家へ転換する周到な工作だったとも考えられる」
  参考 2013.8.12 09:56
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