目次
女性国際戦犯法廷
は、
日本の慰安婦
問題についての責任を追及するための、法廷を模した民間団体の抗議活動(
民衆法廷
)。
日本語
での副題は「日本軍性奴隷制を裁く2000年女性国際戦犯法廷」、
英語
での表記:The Women's International War Crimes Tribunal on Japan's Military Sexual Slavery。
「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク
(VAWW-NETジャパン)を中心とする団体で構成され、2000年に
東京
で開催し、2001年に
オランダ
で「最終判決」として要求事項などを発表した。
報道
では「模擬法廷」と表現したり、「
判決
」のように法廷やその関連用語を
固有名詞
として「 」などで括るなど、一般裁判とは区別されている。
この法廷は、韓国政府が慰安婦問題の
賠償
を求める根拠としている。
概要
主催者は、「
第二次世界大戦
中において旧
日本軍
が組織的に行った
強かん
、性奴隷制、
人身売買
、
拷問
、その他性暴力等の
戦争犯罪
を、裕仁(
昭和天皇
)を初めとする9名の者を
被告人
として
市民
の手で裁く
民衆法廷
」としている。2000年には「裕仁は有罪、
日本政府
には
国家責任
がある」と判断し、2001年には「最終判決」として内容を公表した。
この「法廷」では
慰安婦
問題を扱っており、また
NHK番組改変問題
でも注目された。
なお、同「法廷」を取材した
NHK教育テレビ
・
ETV特集
「ETV2001 問われる戦時性暴力」が2001年1月の放送前に大きく変更されたことに関し、主催者と
NHK
等の間で
裁判
となった。変更された経緯についても各種の報道、意見表明が見られた(
NHK番組改変問題
を参照)。
「法廷」の構成
主催者
国際実行委員会 共同代表
-
尹貞玉
-
韓国挺身隊問題対策協議会
-
松井やより
- 元・朝日新聞記者、
「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク
(VAWW-NETジャパン)
-
インダイ・サホール
-
女性の人権アジアセンター
(ASCENT)
他の主催団体等については、
主催者
を参照。
「首席検事」
-
パトリシア・ビサー・セラーズ
(旧ユーゴ・ルワンダ国際刑事法廷ジェンダー犯罪法律顧問・
アメリカ合衆国
)
-
ウスティニア・ドルゴポル
(
フリンダース大学
国際法助教授・
オーストラリア
)国際法律委員会の調査団として日本軍「慰安婦」問題報告書をまとめた。
韓国代表
-
朴元淳
(
ソウル特別市長
(2011年10月27日 - )。
他の「検事」については、
「女性国際戦犯法廷」検事団
を参照。
法律顧問
女性国際戦犯法廷メンバーのリスト
の法律顧問を参照。
その他の関係者・関係団体等
- ラディカ・クマラスワミ(
スリランカ
)
-
池田恵理子
(NHKエンタープライズ21プロデューサー、VAWW-NETジャパン運営委員)
-
本田雅和
(
朝日新聞
記者)
- 長井暁(NHKチーフプロデューサー)
また、賛同団体については、
「女性国際戦犯法廷」賛同団体
を参照。
「傍聴」について
- 「法廷」内の秩序を保つため、事前に趣旨に賛同した上で「傍聴」を希望する旨の誓約書に署名させ、主催者側の了解が得られた者のみ「傍聴」が認められた。
「判決」
2000年12月12日、本「法廷」の「裁判官」らは「
判決・認定の概要
」を「言い渡し」、「天皇裕仁及び日本国を、強姦及び性奴隷制度について、人道に対する罪で有罪」とした。証拠は、「
慰安所
が組織的に設立され、軍の一部であり、当時適用可能な法に照らしても
人道に対する罪
が構成される」とした。また、「裁判官」らは、「日本が当時批准していた奴隷制度、人身売買、
強制労働
、強姦等の人道に対する罪に関連する各条約、
慣習法
に違反している」とした。
評価
賛同
東京大学
教授
高橋哲哉
は、当「法廷」を、日本軍性奴隷制の犯罪をジェンダー正義の観点から裁いたことに加えて、
戦前
との連続を断つ試みであること、
東アジア
での平和秩序構築、過去の克服のグローバル化という観点で評価している。また、法の脱構築を行うところに意味があり、法の暴力性が露呈される試みとして「法廷」は意味をもつとも主張している。
批判
「法廷」と称することへの批判等
- 「被告と被告側の弁護人がいない」
- 「裁判自体、とんでもない模擬裁判。模擬裁判ともいえない裁判」
外国からの政治的影響を指摘する批判
安倍晋三
は、2005年1月中旬に「女性国際戦犯法廷の検事として
北朝鮮
の代表者が2人入っていることと、その2人が北朝鮮の
工作員
と認定されて
日本政府
よりこれ以降入国
ビザ
の発行を止められていること」を指摘して、「北朝鮮の工作活動が女性国際戦犯法廷に対して為されていた」とする見方を示した。
過去に日本放送協会(NHK)職員であった経済評論家の
池田信夫
は、「常軌を逸した
極左
的
プロパガンダ
」、「
検事
役として登場した
黄虎男
は北朝鮮の工作員だった」と指摘している。
このごろ在特会や右翼の脅迫ばかり話題になるので、バランスを取るためにNHKの「言論テロ」を紹介しておこう。本書は、版元によれば「政権党有力政治家が2001年にNHK最高幹部に『圧力』をかけることで、慰安婦問題を扱った『ETV2001』は著しく改変された。担当プロデューサーによる苦渋に満ちた証言は、NHKによる政権党への癒着を厳しく批判する」ということになっているが、当時の状況を知る私にとっては事情は逆である。
松井やより・高橋哲哉・池田恵理子などが発起人になって2000年に開催された
女性国際戦犯法廷
は、昭和天皇を弁護人なしに欠席裁判で裁き、「天皇裕仁は、共通起訴状中の人道に対する罪の訴因1と2である
強姦と性奴隷制についての責任で有罪
と認定する」判決を出した。
頭のおかしい人々がそういうイベントをやることは珍しくないが、これをETV特集で45分も放送したのだ。しかもこの番組のCPだった長井暁は、池田恵理子のダミーだった。主催者がNHKの番組をまるごと1本企画し、天皇に有罪を宣告する前代未聞の事件である。
著者は当時のプロデューサーだが、戦犯法廷の様子は3ページしか書いてない。彼はその法廷に行っていないのだ。ここで検事役をつとめたのは北朝鮮の工作員だった金虎男で、証人として「慰安婦を強姦した」と証言した金子安次は、南京大虐殺や731部隊でも「活躍」したと自称する、吉田清治と並んで有名な詐話師だった。
この番組が「改変」されたあと、主催者が訴訟を起こし、二審までは裁判所が「NHKは主催者の期待どおりの番組を放送しろ」という判決を出した。おまけに朝日新聞の本田雅和記者が、安倍晋三氏と中川昭一氏の「政治介入」を報じて、もっぱら「NHKと政権党の癒着」が論じられた。
しかし常識で考えればわかるように、こんなイベントを放送すること自体が常軌を逸している。安倍氏などがこれを批判したのは当然だ。NHKはこの番組の重大な事実誤認について、いまだに訂正も謝罪もしていない。籾井会長には当事者能力がないので、経営委員会が番組の内容をあらためて検証すべきだ。
NHK「戦時性暴力」番組
平成十二年十二月、「女性国際戦犯法廷」なるものが開かれた。いわゆる「従軍慰安婦」問題を取り上げ、「慰安婦制度」は「人道に対する罪」であるとして日本国家と指導者個人を「戦犯」として裁くのだという。しかも、被告としてあげられたのは昭和天皇と二十数人の日本軍人。もろちんすべて故人である。そして、あろうことか昭和天皇を「人道に対する罪」で有罪と判定したのだ。
むろん、法廷とは言っても正規の法廷ではない。裁判官と検事はアメリカ、韓国、中国などから来たが、弁護人はいない。立証と言ってもただ元慰安婦(と称する女性)が体験らしきものを語っただけ。弁護人がいないのだから、当然、その証言とやらに対する反対尋問もない。しかも、この法廷なるものを傍聴できるのは、主催者の主張に賛同するものだけで、参加者はその旨の誓約書を書かないと傍聴もできなかったという。
要するに、「法廷」などと称してはいるが、一方的な断罪を主張する左翼のイベント、茶番に過ぎない。そのため、この自称「法廷」に対しては、毎日がベタ記事にしたくらいで、ほとんどの新聞は無視した。ただ、朝日だけがこのイベントを社説にまで取り上げて騒いだ。そのため、朝日の読者以外はそんな茶番が行われたことすら知らなかったのではあるまいか。
ところが、今年になって事情が大きく変わった。NHKがこの女性法廷を取り上げる番組を放映したからである。しかも、NHKが放映予告を雑誌に載せたために、放送前から「そんな茶番を取り上げるのは公正ではない」との抗議電話が殺到した。
こうした抗議の声を受けてNHK側は放送直前に異例の手直しをしたのだが、放送後にもかなりの数の抗議がNHKに寄せられたという。一方、逆の立場から、「法廷」の主催者も「なぜ修正したのか」とNHKに公開質問状を送って抗議し、騒動はいまもくすぶり続けている。
公共放送であるNHKがこんな茶番を取り上げたということ自体問題であり、公正さを欠くという点で徹底した批判がなされなければならない。しかし、それより注目しなければならないのは、国内では決着の付いた観のある慰安婦問題に対して、左翼側が日本断罪のための新たな手口を用い始めていることである。
◆「女性法廷」の受け売り
問題となったNHKの番組は、平成十三年一月末から二月はじめにかけてNHK教育テレビが四回にわたって放映した「シリーズ・戦争をどう裁くか」のなかで、一月三十日に放映されたシリーズ第二回目の「問われる戦時性暴力」。ここで全面的に取り上げられたのが、問題の「女性国際戦犯法廷」なるものであった。
実際に放送された番組は、直前に修正され、例えば冒頭で司会者がこの「女性法廷」には弁護人のいないことなどについて触れるなどいくつかの留保はしていたが、それでも番組構成の骨格において「女性法廷」の主張をそのまま受け入れたと言わざるを得ないものとなっていた。彼女らは、慰安婦問題は「二十世紀最大の戦時性暴力」であり、それは「人道に対する罪」にあたると主張するが、その主張をまるで自明の大前提とした番組となっていたからである。
戦時性暴力と言えば、NHKも番組のなかで例示したように、旧ユーゴ内戦での問題があげられるが、それは大雑把に言えば、敵の女性を計画的に拉致・監禁し集団でレイプするというものである。だが、慰安婦問題はそんな「戦時性暴力」とどういう関係があるというのだろうか。
かつて慰安婦問題と言えば、強制連行と慰安所での虐待が問題とされたが、ここ数年の実証的な研究によって、それはほぼ完全に否定されている。強制連行については、平成五年の政府調査で明らかになった膨大な資料をはじめ、左翼が調査した資料のなかにも一点として日本の公的機関が強制連行をしたという証拠資料が存在しないことから、今日では慰安婦が「強制連行」されたのでないことは周知の事実となっている(この点は、今回の法廷に証人として参加した吉見義明・中央大教授も朝鮮半島と台湾に限定してではあるが認めている)。ところが、この番組は、「総じて強制」があったとした平成五年の河野外相談話は紹介したが、「強制」の証拠資料はないとの政府答弁には触れないのである。
「女性法廷」に登場した元慰安婦という女性の話が番組には挿入されているが、NHKはその事実関係を検証したわけでもない。また、番組は韓国の元慰安婦として名乗り出た人物が日本政府を相手どって訴訟を起こしたことを紹介しているが、その人物の証言内容が疑わしいとの指摘がなされていることも触れなかった。
つまり、NHKの番組は、事実関係を検証することなく、また最新の学問的成果は無視して、それでいて慰安婦=「戦時性暴力」だというのである。これでは「女性法廷」の主張をそのまま承認したと受けとめられても仕方がなかろう。百歩譲ったとして、放送法第三条の二「政治的に公平であること」、さらには同条の四「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」の規定に反する番組内容であったことは明らかである。
◆抗議がなければ……
ところで、実際に放送された番組では、ただ一人だけ秦郁彦・日大教授が「女性法廷」のあり方、元慰安婦証言の信憑性について否定的な見解を述べている。しかし、このコメントは放送の三日前に依頼され、収録は二日前だったと聞く。だとすれば、抗議を受けて放送直前にあわてて秦氏のコメントを挿入したということになる。
また、同じシリーズの他の三回は四十五分番組であるにもかかわらず、問題の第二回目だけが約四十分であり、五分近くも短い。おそらく抗議を受けて、一部を削除して編集し直した結果、この回だけが短くなったものと想像される。
ならば、修正される前の、NHKがもともと放送しようとしていた番組はどういう内容だったのか。放映後、「女性法廷」の関係者から抗議が起こっているが、例えば、主催者(松井やよりという元朝日新聞記者)はNHK会長宛に出した公開質問状のなかで、「当初の企画を大幅に変更し『女性国際戦犯法廷』について視聴者に誤解と偏見をもたらす内容となっており、この番組制作に全面的に協力した私たち……は到底この番組を受け入れることができません」と言っている。つまり、「当初の企画」は「女性法廷」の趣旨そのままだったことがうかがえる。
また、番組を見た「女性法廷」関係者が、この番組にコメンテーターの一人として登場した米山リカ・カリフォルニア大準教授のコメントが意味不明だったと疑問を呈し、それに本人が回答した電子メールが或るメーリングリストで流されている。おそらく米山氏のコメントも直前の修正で一部が削除されたために、不自然なものになったのであろうが、そのなかで米山氏はこう書いている。
スタジオでの収録は昨年(平成十二年)十二月末に行われたが、実際に放映されたものはその際のVTR構成と「かなりかけ離れた内容」となっている。また、コメントの前提として見たビデオのなかには、「首席判事による『裕仁氏有罪』の判決文と場内の歓声のVTR」があり、その場面に米山氏は「従軍慰安婦制度が国家犯罪であったこと、責任者の処罰や補償の義務が果たされてこなかったことが公に明記されること自体に大きな価値がある」とコメントしたと書いている。
幸いにも、こうしたシーンは放送されなかった。事前の抗議活動がなければ、こうした修正もされなかったであろうと思うと、その偏向ぶりにはそら恐ろしい感じがする。
こうした偏向は番組制作のあり方にも見られる。主催者の質問状によれば、NHKは「女性法廷」の準備段階から取材をし、主催者に対して長時間にわたってインタビューするなど、特別待遇を受けている。その一方で、産経の記者は会場にもいれてもらえず、一般の参加者は趣旨に賛同する旨の誓約書を書かされていることから考えれば、NHKは最初からこの「法廷の趣旨に賛同する者」との認定の下で取材を許されていたのではあるまいか。これは重大問題である。
また、スタジオでのコメンテーターとして登場した高橋哲哉・東大助教授は平成十二年十一月に月刊誌『世界』の「戦時性暴力」特集で、この「女性法廷」が持つ歴史的意義を賞賛する論文を書いており、主催者の一人といって過言ではない人物である。
こうしたことも併せて考えると、この番組は、「女性法廷」とNHKの合作ではなかったかと思えてならない。NHKは、是非とも番組制作のプロセスを明らかにする責任がある。
◆誰が強制したのか?
さて、「女性法廷」は、慰安婦問題は「戦時性暴力」であり、それは「人道に対する罪」にあたると主張している。NHKが強調していたのもこの点である。では、一体「戦時性暴力」、「人道に対する罪」とは何なのか。
「女性法廷」での主張は論理が非常に輻輳しているので、いわゆる「判決」のなかから論理を整理してみたい。
まず「戦時性暴力」とは、戦時下及び占領地域での強姦と「慰安婦制度」という「性奴隷制」の二つを指す言葉だという。では、その「性奴隷制」とは何かというと、「奴隷化とは『人に対して所有権に伴う権能の一部または全部を行使する』ことと定義されている。奴隷には、強制的または詐欺による移送、強制労働その他の人間を所有物として扱うことが含まれる」(法的認定)と言い、具体的には「女性と少女たちは強制または強要され、またしばしば詐欺的甘言によって徴集されこうした施設に入れられた。女性たちの奴隷化には、反復的強姦、身体損傷その他の拷問が含まれていた。女性たちは、不十分な食糧、水、衛生施設や換気の不足など非人道的諸環境にも苦しめられた」(予備的事実認定)。これが「慰安婦制度」という「性奴隷制」だというのである。
要するに、「性奴隷制」などと言葉はおどろおどろしいが、事実関係としては強制連行され、慰安所で虐待など過酷な生活をさせられたという話なのである。
もちろん、日本の官憲による強制連行が行われたという資料は一件も発見されておらず、ほぼ強制連行の有無に関する議論は決着が付いているし、慰安婦の生活が特段制限されていなかったということもかなり明らかになっている。ならば、慰安婦を「性奴隷制」と定義付けることはできないはずなのだが、実は、この「判決」には巧妙なトリックがある。
「判決」を読むと、「強制または強要」によって、また「詐欺的甘言」によって、女性たちを「徴集」したのは誰かという主語が抜け落ちている。また、誰が「非人道的諸環境」を強いたのかという主語もない。
日本の官憲が「強制または強要」したと書けば、その根拠を示せと言われても、元慰安婦の証言以外に提示するものはない。では、事実に基づいて、業者や女衒(ちなみに朝鮮半島の場合はほとんどが朝鮮人であり、インドネシアの場合も現地人である)が「詐欺的甘言」をもって「徴集」したと書くと、それでは日本国家の責任を問えなくなる。そこで、主語が省略されたのではあるまいか。
慰安婦問題の責任を問い、個人を処罰すると言いながら、事実認定において実行行為者については書かれていないのである。にも関わらず、日本国家と昭和天皇は有罪だという。こんな矛盾したことを言うわけである。
◆「人道に対する罪」―隠された大前提
一方、慰安婦問題が「人道に対する罪」にあたるとは、どういうことなのか。
「人道に対する罪」というと、周知の通りかつてのニュルンベルグ裁判でナチスドイツのユダヤ人大虐殺を裁いた際に用いられた概念であり、その後、国連のジェノサイド条約、時効不適用条約などへと受け継がれていった。しかし、「人道に対する罪」は、今日に至ってもまだ明確な定義がなされているわけではない。例えば、適用される行為も、ジェノサイド条約が大量虐殺に重点をおいて「人道に対する罪」を規定しているのに対し、旧ユーゴ国際裁判所条例では一般に強姦、監禁、拷問なども加えているという具合である。
「女性法廷」は、この旧ユーゴの例を持ち出し、また国際刑事裁判所規定には、「人道に対する罪」として「性奴隷化」(第七条一項g)があげられているとして、慰安婦問題は「人道に対する罪」だというわけである(ただし、この裁判所規定は署名国が少なくまだ発効していない)。
前に述べたように慰安婦は「性奴隷」ではないのだから、そもそも「人道に対する罪」には当たらないのだが、しかし、「女性法廷」は、この「人道に対する罪」の解釈でも一種のトリックを使っていることは指摘しておきたい。
確かに旧ユーゴ国際裁判所は「人道に対する罪」として新たに「強姦」などを加えたが、それは宗教的、民族的偏見を背景に武力紛争の一環としての(相手方に対する攻撃の一環として)行われた計画的、組織的な強姦、監禁、拷問に対してである。また、彼女たちが盛んに喧伝する国際刑事裁判所の規定には確かに「性奴隷化」という言葉が入っているが、しかし、旧ユーゴのケースと同様に「一般住民に向けられた広範な攻撃または系統的な攻撃の一環として」行われた行為、という前提条件が付けられている。つまり、どちらのケースも武力紛争の攻撃の一環として行われるものに対し、「人道に対する罪」を適用するという前提条件がついているのである。ところが、「女性法廷」はこの重要な前提についてはまったく無視してふれていないのだ。慰安婦問題は、それをどう解釈したとしても、「一般住民に向けられた広範な攻撃または系統的な攻撃の一環」などではない。日本は、朝鮮と戦争していたわけでもなければ、占領地域の一般の中国人に対して武力紛争をしかけていたわけでもない。ましてや、慰安婦のなかで最も割合の多いのは日本人である。
つまり、「女性法廷」は、「人道に対する罪」の重要な前提を隠して解釈しているということである。そうしなければ、慰安婦が最初から「人道に対する罪」の範疇に入らないことが明らかだからである。
ちなみに、一般的には、紛争下の強姦であっても、前述した前提条件のないケースは当事国の国内法や軍法によって裁かれたり、相手国に容疑者を引き渡したりすることになる。ただし、「人道に対する罪」となると、時効はなく、また国際裁判で裁くことになる。中国、韓国、アメリカなどからの判事団、検事団を呼んでの国際的な「女性法廷」の開催のためには、慰安婦が「人道に対する罪」である必要があったわけで、そうした事情も、牽強付会の論理の背景にはあると思われる。
◆これでも「性奴隷」か
そもそも「女性法廷」が慰安婦は「人道に対する罪」だと主張している背景には、こうした矛盾とトリックがあるということなのだが、実は、「女性法廷」自身がこの矛盾を証明する材料を提供しているのだ。彼女たちの主張の矛盾がよく分かるケースなので、念のために紹介しておきたい。
『世界』平成十三年三月号に掲載されている「女性法廷」の傍聴記によれば、二十人の証言者が登場したという。そのトップバッターとして証言したのが朴永心という元慰安婦である。「女性法廷」は、この人物が戦時中の文書によっても「被害」が特定される貴重な生き証人だと重視している。どういうことかというと、彼女はビルマに行った元慰安婦で、ビルマ北部の拉猛で米軍に保護されたのだが、彼女の証言と、日本軍の連隊長の回想と米軍の「捕虜尋問報告」とが一致するという。なかでも、陥落後の拉猛を取材したUP通信記者の記事には、朴永心の名前が出てくるというのだ。おそらく、元慰安婦の証言に信憑性がないという指摘を意識して、彼女を資料のうえからも「被害が特定できる」人物として登場させたものと思われる。
しかし、「女性法廷」が証拠の一つとして持ち出した米軍尋問報告(アメリカ戦時情報局心理作戦班「日本人捕虜尋問報告第四九号」昭和十九年八月作成)を読むと実に興味深い事実が浮かび上がってくる。その報告はこう記している。
「ミッチナでは慰安婦たちは、通常、個室のある二階建ての大規模家屋に宿泊していた。……食糧、物資の配給は多くはなかったが、欲しい物品を購入するお金はたっぷりもらっていたので、彼女たちの暮らし向きはよかった。……彼女たちは、ビルマ滞在中、将兵と一緒にスポーツ行事に参加して楽しく過ごし、またピクニック、演芸会、夕食会に出席した。彼女たちは蓄音機をもっていたし、都会では買い物にでかけることが許された」
また、この報告は慰安婦たちの健康状態は非常に良好であること、また毎月千五百円程度の収入があり、「楼主」と折半しても、本人には七百五十円程度が残るとも書かれている。ちなみに昭和十八年には、二等兵の月給は七円五十銭、軍曹が二十三~三十円で、戦地手当を入れてもその約倍くらいだというのだから、慰安婦の収入は兵士の少なくとも数十倍はあったということになる。また、彼女たちの同僚のなかには、前借金を返済して、朝鮮に帰った人たちがいたことも記録されている。
裕福な生活をし、健康であり、高額の収入がある。これが一次資料に描かれた「性奴隷」の実態であり、この人物は「性奴隷」としての「被害が特定できる」人物として証言したのだが、その人物を特定した資料が強制も虐待もなかったことを証明してしまったというわけである。こんなお粗末な話があるだろうか。
NHK番組改変問題
とは、
NHK
が2001年1月30日に放送した
ETV特集
シリーズ「戦争をどう裁くか」の第2夜放送「問われる戦時性暴力」(
慰安婦
問題などを扱う
民衆法廷
(模擬法廷)の
日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷
(略称:
女性国際戦犯法廷
、主催:
VAWW-NETジャパン
))に関する一連の騒動のことである。
この問題では、同番組の内容や放送までの経緯について、放送後数年たって
朝日新聞
が政治家による政治圧力があったと報道し、それをNHKが否定するといった騒動があった。また、放送後に
VAWW-NETジャパン
が、制作協力時に期待していた放送内容と実際の放送内容が大きく異なったとして、NHKを提訴する動きもあった(この裁判は、最高裁まで争われた結果、VAWW-NETジャパン側の
敗訴が確定
)。
経緯
「
日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷
」(略称:
女性国際戦犯法廷
)とは、
VAWW-NETジャパン
が主催した
民衆法廷
である。ここでは、
従軍慰安婦
など日本軍の戦時犯罪の責任は
昭和天皇
および日本国家にあると提訴され、
2000年
12月12日
、「天皇裕仁及び日本国を、
強姦
及び
性奴隷
制度について、
人道に対する罪
で有罪」との判決を言い渡した。
番組放送前後(2001)
-
2001年
2月2日
、
中川昭一
が伊藤律子・番組制作局長に会い、この番組について「実は内部で色々と番組を今検討している最中です」との報告を受ける。
-
2001年
2月6日、
VAWW-NETジャパン
が番組内容について、「主催団体名や肝心の判決内容が一切紹介されなかったばかりか、法廷に対する不正確な誹謗や批判が一方的に放送された」とする公開質問状をNHKに渡す。
-
2001年
2月26日号の
週刊新潮
が「NHKが困惑する特番『戦争をどう裁くか』騒動」なる記事を掲載。記事中では、放送時間が第2回だけ40分に短縮されたことや、放送直前の
右翼
の抗議行動、秦への急な取材、伊藤律子・番組制作局長が自民の大物議員に呼び出され釘を刺されたという噂などを取り上げ、「もしNHKが “外圧”に屈して番組内容を差し替えたとしたら、
公共放送
として大変な汚点だ」と批判。
- VAWW-NETジャパンは、NHKが当初の企画通りに放送しなかったとして、NHKを訴えた。NHKは外注先(孫請けサイド)の制作に問題があるとも主張し、外注先会社はNHK制作者から提示された企画だとしてここでも争いがあった。
朝日新聞による報道(2005)
2005年
1月12日、
朝日新聞
は、「NHK『
慰安婦
』番組改変 中川昭・安倍氏『内容偏り』前日、幹部呼び指摘」との見出しで、この番組の編集・内容について、
経済産業相
・
中川昭一
と
内閣官房副長官
・
安倍晋三
からNHK上層部に圧力があったとする報道を行った。
2005年1月13日、この番組作りにかかわったNHK番組制作局の
長井暁
チーフプロデューサー
(当時。のち
NHK放送文化研究所
主任研究員を経て2009年に「家庭の事情」で退職)から、NHKのコンプライアンス推進委員会に対して、「政治介入をうけた」という内部告発があった。
それによれば、安倍・中川が番組内容を知り、「公正中立な立場でするべきだ」と求め、やりとりの中で「それが出来ないならやめてしまえ」という発言もあったという。これに対しNHKは調査を行い、「NHKの幹部が中川氏に面会したのは放送前ではなく放送の3日後であることが確認され、さらに安倍氏についても放送の前日ごろに面会していたが、それによって番組の内容が変更されたことはなかった。この番組については内容を公平で公正なものにするために、安倍氏に面会する数日前からすでに追加のインタビュー取材をするなど自主的な判断で編集を行なった」と主張。同日、長井はNHKトップの海老沢会長がすべてを承知であり、その責任が重大だと指摘した。
数日後、任期切れの近い海老沢は退任の意向を示し、技術系出身の新会長の下で従来の拡大路線を継続することを発表。
なお、NHKの
永田浩三
プロデューサーは、安倍がNHKの放送総局長を呼び出し、「ただではすまないぞ。勘ぐれ」と言ったとする伝聞を紹介。永田は「『作り直せ』と言えば圧力になるから『勘ぐれ』と言ったのだ」と明言している。
安倍晋三の対応
安倍晋三
は、2005年1月中旬に各社の報道番組に出演し、NHKの番組に政治的な圧力をかけたとする朝日新聞の報道を否定し、
放送法
に基づいていればいいという話であったと述べた。また、女性国際戦犯法廷の検事として
北朝鮮
の代表者が4人入っていることと(鄭南用、洪善玉、黄虎男、金恩英)、そのうち2人(黄虎男、鄭南用)が北朝鮮の工作員(=
スパイ
)と認定されて日本政府が
ペルソナ・ノン・グラータ
として以降
査証
の発行を止められているとして、北朝鮮の工作活動が女性国際戦犯法廷に対してされていたとする見方を示した。
中川昭一の対応
中川昭一
は、2005年1月27日の衆議院予算委員会にて、朝日新聞の報道内容にいくつかの事実誤認が見られるとして、同紙に対して訂正と謝罪を求めていると述べた。
NHKによる朝日新聞報道批判
NHKは「朝日新聞
虚偽報道
問題」と題して、看板番組の
ニュース7
で連日10分以上にわたって朝日新聞を非難する放送を行った。内容は、朝日新聞の記事の全面否定と、NHKから朝日新聞社への公開質問状の紹介、安倍と中川の記者会見などをあわせて編集したものであった。NHKが、自論のために
ゴールデンタイム
のニュース番組を使用するのは、極めて異例の事であった。
一方で、朝日新聞社も系列局
テレビ朝日
の番組で自社役員も出演する「
報道ステーション
」などで反論した。
事態は、NHKと朝日新聞という日本を代表する報道機関同士の全面対決という異様な様相を呈した。この時のNHK側の報道を指揮をしたのは、海老沢と関係が深いといわれた元報道局長・
諸星衛
理事であった。なお、朝日新聞の抗議を受けて、NHKは後日に、「虚偽」の文字を外している。
また、朝日新聞紙上で「NHK幹部」と目された
松尾武
・元放送総局長が「自分が取材を受けた幹部」と名乗り出て、朝日の記事を全面否定する記者会見を行った。
これに対して、かりに朝日新聞社側が、「録音テープ」を公表すれば、NHK側の主張が虚偽であることが明らかとなって、NHKにとっては致命傷となる可能性もあったが、「録音テープ」が出されることは無かった。出されなかったのは、もともと録音の承諾を取っていなかったためである、とされている。
朝日新聞による検証
2005年7月に、朝日新聞は上記報道の検証記事を掲載したが、主張の裏づけとなる新事実を欠くものであった。これに対し、NHKや
産経新聞
は、この番組の編集について政治家からの圧力がNHK上層部にあったとする今までの報道には根拠がないので、朝日新聞は明白な根拠を示すべきである、とした。また、
読売新聞
も「説得力に乏しい朝日の『検証』」と題した社説で朝日を批判、
毎日新聞
、
日本経済新聞
の社説も、検証が不十分と批判した。
週刊新潮
などの週刊誌も、朝日新聞を批判する記事を掲載した。
録音テープと魚住昭記事
朝日新聞社が番組改変の証拠とされる「録音テープ」を未だ出さない状況で、社内関係者がその内容を
魚住昭
にリークし、魚住は「NHK vs. 朝日新聞『番組改変』論争-『政治介入』の決定的証拠」(『
月刊現代
』2005年9月号)で圧力はあったと結論づけ、安倍を批判した。
これに対して安倍は「重要な発言がカットされ、都合のいい部分だけを抜き出している」と反論。同時に「資料の信憑性も含めて決定的証拠とはいえない。ただ、私の承諾を得ずに取材が録音された可能性は高まった」と述べた。
自民党は、無断記録や取材資料の流出について「あたかも取材のやりとりを記録した取材資料があるということを世間に強調したかっただけの『やらせ』ではないか」と指摘し、抗議として、
8月1日
、公式以外の取材を「すべて自粛していただく」として、事実上の取材拒否を表明した。ただし、自民党は魚住は無視した。さらに、
第44回総選挙
では「朝日読者には自民党支持者が少ない」という理由で、党としては史上初めて朝日への選挙広告を取り止めた。
録音テープについては、当初は状況的に存在する可能性があるとされたが、朝日は現在に至るまで出していない。このため、テープの存在自体を怪しむ主張もある。しかし、これには以下の経緯があり、テープの存在を肯定する主張もある。
「NHK報道」委員会の見解と朝日新聞会見
2005年
9月30日
、朝日新聞がNHK番組改変疑惑の信憑性の検証を委託した第三者機関「『NHK報道』委員会」が「(記者が疑惑を)真実と信じた相当の理由はあるにせよ、取材が十分であったとは言えない」という見解を出す。これを受けて朝日新聞は社長の記者会見を開き、取材の不十分さを認めた。一方で記事の訂正や、謝罪はなかった。
「NHK報道」委員会のメンバーは後に
伊藤忠商事
会長の
丹羽宇一郎
、元共同通信編集主幹
原寿雄
、前
日弁連
会長
本林徹
、東大大学院教授
長谷部恭男
らであった。
番組改編と報道問題に関する見解
これらの件に対しては、以下のような見解が見られる。
北朝鮮(朝鮮総連)の関与について
- 法廷主催者が番組改変疑惑を報じた朝日新聞の元記者であること、番組改変疑惑を報じた
本田雅和
記者と主催者は交流がたいへんに深かったこと、VAWW-NETジャパンの発起人であり、「女性国際戦犯法廷」運営委員の一人であった
池田恵理子
が番組の製作下請けであるNHKエンタープライズ21のプロデューサーであること(
ドキュメンタリージャパン
(DJ)が製作の孫請けとなっていた)、「女性国際戦犯法廷」の検事として関わった北朝鮮代表者が安倍晋三によって工作員であると指摘されたこと、NHK側が面会した国会議員が与野党議員に渡る中、番組改編疑惑として取り上げた対象が対北朝鮮強硬派である安倍、中川の二人だけであることなどから、朝日新聞、VAWW-NETジャパン、北朝鮮の連携による北朝鮮強硬派議員の失脚を狙ったものではないかとする見解(
西村幸祐
ら)。
- 2005年10月14日、
朝鮮総連
関連の施設である財団法人在日本朝鮮人科学技術協会、西新井病院(東京足立区)などが
家宅捜索
をうける。この在日本朝鮮人科学技術協会と同じく総連系の株式会社メディア・コマース・リボリューションなどと、
VAWW-NETジャパン
の所在地が同一であることから、朝鮮総連とVAWW-NETジャパンの密接な関係が指摘されている。
- 「従軍慰安婦」問題に当事者である北朝鮮の人間が検事としてかかわるのは当然であり、そのことをもって北朝鮮主導の工作とするのは不当であるという見解。
魚住昭へのリーク
- 魚住昭への情報流出については「取材協力者を裏切った」(
大島信一
・『
正論
』編集長)などと批判がある一方で、「真実を追求するためにやむを得ず隠し撮りせざるを得ない場合がある」と擁護する論も出た(原や魚住など)。
その後
2006年
5月16日の
朝日ニュースター
『ニュースの深層』に出演した中川昭一は、「朝日新聞は裏づけをしっかりしてから、記事にして欲しい。圧力はかけていないという事実関係を私は証明しているのに、訂正も反論もないまま記者は一切出て来ず、逃げ回っている。そして朝日新聞社は社を挙げてそれを守っている」と批判した。
2007年
1月29日のNHK制作の報道番組「ニュースウオッチ9」での高裁判決の放送内容について、原告(VAWW-NETジャパン)側は、
放送倫理・番組向上機構
(BPO)に対して、公平・公正な取扱いを欠いたことによる放送倫理違反だと申し立てた。これに対してBPOは
2008年
、「本件放送が公平・公正を欠き、放送倫理違反があった」とし、申し立て人が「公平・公正を欠いた放送によって、著しい不利益を被ったものと判断する」が、「謝罪まで認める必要もない」、という見解を示した。
一方で、BPOの放送倫理検証委員会は、
2009年
1月9日の定例会で、「改変経過がNHKの自立性に疑問を持たせ、放送倫理上問題があるという認識で一致した」(川端和治・委員会委員長)として「審議」に入る旨決定した。2009年4月28日、BPOの放送倫理検証委員会は、この番組について意見書を発表し、「NHKの予算等について日常的に政治家と接している部門の職員が、とりわけそれら政治家が関心を抱いているテーマの番組の制作に関与すべきではない」ことを指摘している
NHKへの影響
- 2005年6月、NHK番組制作局やスペシャル番組センターなどの職員有志が、改革・新生委員会(委員長・橋本元一会長)に文書を出し、「番組変更の最大の原因は政治への過剰反応だった」として、NHK倫理・行動憲章の改定を提言した。これに対して、NHK経営広報部は「局内で出ているさまざまな提言の一つとして検討中」とした。
- 番組改変の記事を執筆した
本田雅和
記者は、NHK不払い運動を行っている
本多勝一
記者の弟子にあたる。
放送法
一連の騒動において問題にされる「中立」「編集の自由」の語に該当することは、
放送法
第一条(目的)と三条(番組編集の通則)にある。
- 原則。法律の目的(一章の一条)として、『放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること。』
- 通則。具体的な編集(三条)について、「法的権限のない者に従う必要がない」、と保護する一方でまた義務(または必要)として、「政治的に公平」、「事実を曲げない」、「対立問題については、論点をできるだけ多角的にとらえて見せる」、と明記している。
女性国際戦犯法廷の報道をめぐるNHK裁判
NHKが放送した番組内容に関し、女性国際戦犯法廷の主催者である
VAWW-NETジャパン
が、取材時に製作会社である
ドキュメンタリージャパン
(以下DJ)と同意していた企画と異なったことから、「政治的圧力に屈して内容を改竄した」としてNHK・
NHKエンタープライズ21
(NEP21)・DJの三者を訴えた裁判。最高裁まで争われ、VAWW側の訴えはすべて退けられた。
原告側主張
VAWW-NET側(主催者側)の主張では、制作会社との合意に反して審理の解説や判決言い渡しシーンを削除したり、
日本大学
教授
であった
秦郁彦
のコメントを挿入するなど批判的な立場の意見も取り入れて編集され、放送時間も短縮された。この編集により構成が取材を受けたVAWW-NET側の期待にそぐわないものになったとし、
期待権
を損ねたと訴えた。
被告側主張
NHK側は、上記編集は全体的に番組のバランスを取るために行われたことであり、特に問題ないと主張している。
判決
- 女性国際戦犯法廷の報道をめぐるNHK裁判(
東京地裁
2004年3月24日)
-
一審
では、「番組内容は当初の企画と相当乖離しており取材される側の信頼を侵害した」として、DJの責任を認容し、100万円の支払いを命じたが、「放送事業者には、取材素材を自由に編集して番組製作することが保障される」として、NHK・NEP21への請求は退けたことから、判決を不服としたVAWW-NETジャパンが
控訴
。
- 控訴審判決(
東京高裁
2007年1月29日)
-
二審
では「
憲法
で保障された編集の権限を濫用し、又は逸脱したもの」「放送番組編集の自由の範囲内のものであると主張することは到底できない」と認定。VAWW-NETの「期待権」に対する侵害・「説明義務」違反を認め、NHK、NEP21、DJの共同不法行為として3者に200万円の賠償を命じた。NHKは、判決を不服として
上告
した。
- 上告審判決(
最高裁
2008年6月12日)
-
上告審
では、
最高裁判所
第1小法廷(
横尾和子
裁判長)において高裁判決を破棄し、原告の請求を退ける逆転判決を言い渡した。最高裁は本判決においてVAWW-NETの当番組に対する「期待権」は保護されないとの見解を示し、原告敗訴が確定した。
裁判後の反応
原告の反応
原告のVAWW-NETは「政治家の圧力・介入を正面から取り上げない不当判決だ」「司法の公平、公正性に大変失望した。一部政治家の意向に沿うようにゆがめて放送していいのか」(西野瑠美子共同代表)、「判決は具体的な事実を離れて一般論に終始している。NHKを勝たせようという結論が先にあったのではないか」(飯田正剛弁護団長)と最高裁判決を批判した。
被告NHKの反応
NHK広報部は「どのような内容の放送をするかは放送事業者の自律的判断にゆだねられており、正当な判断と受けとめている。最高裁は『編集の自由』は軽々に制限されてはならないという認識を示したものと考える」とコメント。
政治家の反応
自民党の中川昭一は「私と安倍晋三前首相が『事前に番組に圧力をかけた』と朝日新聞で報じられたことが捏造だと確認されたが、(朝日新聞からは)私たちに謝罪はなく名誉は毀損されたままだ。問題はまだ決着していない」と述べた。また、安倍晋三は「最高裁判決は政治的圧力を加えたことを明確に否定した東京高裁判決を踏襲しており、(政治家介入があったとする)朝日新聞の報道が捏造であったことを再度確認できた」とコメントした。
報道関係の反応
-
朝日新聞
は広報部を通じて「訴訟の当事者ではなく、判決も番組改変と政治家とのかかわりについて具体的に判断していないので、コメントする立場にない」との見解を示している。
-
読売新聞
は、最高裁が期待権の法的保護の要件を厳格に評価したことについて、妥当な判決だと評価している。
-
産経新聞
は、この判決について『「政治の介入」判断せず』として、高裁判決が「NHK幹部が政治家の意図を忖度した」と指摘した点について、「最高裁がこの問題をどう判断するかも焦点だったが、争点の判断に必要なかったために判決ではまったく触れられなかった」と伝えた。
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