目次
男系天皇 vs 一夫一婦
 このところ「愛子天皇」待望論が高まっているという。当然、予想できたことだ。
 5月1日に皇太子殿下は即位されて126代の天皇になられた。新天皇にはご健康でご聡明なお子さまがいらっしゃる。ならば、そのお子さまに次の天皇になっていただきたいと願うのは、皇室を敬愛する国民の心情としてごく自然だろう。
 そのお子さまが男子か女子かは、差し当たり二の次と考えられるはずだ。なぜなら、男女の区別よりも天皇との近さ、皇位との距離感こそが、優先されるからだ。
 今の皇室典範も明治の皇室典範も、皇位継承の順序において、天皇の子や孫を優先する「直系」主義を採用している。その理由は何か。1つには過去の伝統を尊重したため。もう1つは国民のそうした素直な感情に立脚したためである。
 だから、「愛子天皇」待望論が浮かび上がってくるのは、決して不思議ではない。
 それに加えて、秋篠宮殿下のご即位の先行きが不透明という事情がある。
 皇太子殿下が即位されると、同じ瞬間に秋篠宮殿下は「皇嗣」になられる。しかし、皇嗣というのは、ある時点でたまたま皇位継承順位が第1位である事実を示すにすぎない。次の天皇であるべきことが確定している「皇太子または皇太孫」とは立場が異なる。
 天皇の弟で皇嗣の場合は歴史上、「皇太弟」という立場があった。このたびの皇室典範特例法でも、秋篠宮殿下の皇位継承上の地位を固めるためには、そうした称号を新しく設けるべきだった。だが、秋篠宮殿下ご本人が辞退されたと伝えられる。「皇太子になるための教育は受けてこなかったから」と。
 常識的に考えて、秋篠宮殿下を単に「皇嗣」として、特段の称号を用意しないという法律の作り方は、かなり非礼な扱い方と言える。当事者のご意向を前提としなければ、こうしたやり方は一般的に想定しづらい。だから、そこに秋篠宮殿下のお考えが反映されている、と推測するのが自然だろう。
 それが事実だとすれば、重大事だ。言うまでもなく、「天皇」という地位は皇太子や皇太弟より遥かに重い。ならば、皇太弟すら辞退された方が、そのまま天皇に即位されるというシナリオは、いささか考えにくいのではあるまいか。
 その上、皇太子殿下と秋篠宮殿下はご兄弟で、ご年齢が近い。皇太子殿下が今上陛下と同じ85歳まで在位された場合、秋篠宮殿下は79歳または80歳でのご即位となる。さすがにそれは現実的には想定しにくいだろう。
 そうかといって、皇太子殿下がまだまだご活躍いただける年齢で、早めに皇位を譲られるというのも、今回のご譲位の趣旨から外れてしまう。
平成最後の「歌会始の儀」を終えて退席される天皇、皇后両陛下と皇太子さま、秋篠宮さま=2019年1月16日、皇居・宮殿「松の間」
 皇室典範には、「皇嗣」に「重大な事故」がある場合は「皇室会議の議により」「皇位継承の順序を変えることができる」という規定第3条がある。したがって、今の制度のままでも、秋篠宮殿下がご即位を辞退されるという場面は、十分にあり得る。と言うより、先の年齢的な条件を考慮すれば、その可能性はかなり高いだろう(朝日新聞4月21日付1面に、こうした見方を補強するような秋篠宮殿下のご発言が紹介された)。そのようであれば、愛子内親王殿下への注目はより高まるはずだ。
「令和」が幕を開けた。列島は祝福ムード一色だが、新時代の皇室が抱える不安も少なからずある。平成の終わりに週刊誌上をにぎわせた「愛子天皇」待望論はその最たるものであろう。秋篠宮家を取り巻く最近の風評が多分に影響しているとはいえ、令和の次の時代に愛子天皇が誕生する日は本当に訪れるのか。
 ただし、くれぐれも誤解してはならないのは、皇太子殿下の「次の」天皇については、具体的な誰それがよりふさわしい、といった「属人」主義的な発想に陥ってはならないということだ。
 そうした発想では、尊厳であるべき皇位の継承に、軽薄なポピュリズムが混入しかねない。そうではなくて、皇位の安定的な継承を目指す上で、どのような継承ルールがより望ましいか、という普遍的な問いに立ち返って考えなければならない。
 そもそも、皇位継承資格を「男系の男子」に限定したのは明治の皇室典範が初めてだった。しかも、明治典範の制定過程を見ると、2つの選択肢があった。
 ①側室制度を前提とせず、非嫡出の皇位継承を認めないで、「男系の男子」という制約は設けない。
 ②側室制度を前提とし、非嫡出にも皇位継承資格を認めて、「男系の男子」という制約を設ける。
 これらのうち、①は明治天皇にいまだ男子がお生まれになっていない時点でのプランだった。しかし、その後、側室から嘉仁親王(のちの大正天皇)の誕生を見たため、①が採用される余地はなくなった。
 ところが、今の皇室典範はどうか。
 ②の「男系の男子」という制約は明治典範から引き継いだ。一方、それを可能にする前提条件だった側室制度プラス非嫡出の皇位継承は認めていない。つまり、①の前段と②の後段が結合した、ねじれた形になってしまっている。
 ③側室制度を前提とせず、非嫡出の皇位継承を認めないで、しかも「男系の男子」という制約を設ける。
 率直に言って、このようなルールでは皇位の安定的な継承はとても確保できない。
 過去の歴代天皇の約半数は側室の出(非嫡出)であり、平均して天皇の正妻にあたる女性の4代に1人は男子を生んでいなかった。傍系の宮家も同様に側室によって支えられていた。
 したがって、③をこのまま維持すると、皇室が行き詰まるのは避けられない。もし皇室の存続を望むならば、明治典範制定時の①と②からどちらを選ぶか、改めて問い直さなければならない。
 しかし、いまさら②が前提とした側室制度を復活し、非嫡出による皇位継承を認めることができないのは、もちろんだ。何より皇室ご自身がお認めにならず、国民の圧倒的多数も受け入れないだろう。側室になろうとする女性が将来にわたって継続的に現れ続けるとは想像できないし、逆に側室制度を復活した皇室には嫁ごうとする女性がほとんどいなくなるだろう。
 そのように考えると、答えは自ずと明らかではあるまいか。
 「愛子天皇」待望論についても、目先の週刊誌ネタなどによって短絡的に判断するのではなく、持続可能な皇位継承のルールはいかにあるべきかという、広い視点から慎重に評価されるべきだろう。


ご批判,ご指摘を歓迎します 掲示板  新規投稿  してくだされば幸いです.言論封殺勢力に抗する決意新たに! inserted by FC2 system