奈良県知事選の注目点
藤井 聡
 今、全国で地方選挙が展開されていますが、その中でも特に大きな注目を集めているのが、奈良県知事選挙です。なぜかというと、ポイントは二つ。
 第一が、 「維新」が奈良県知事のポジションを獲得し、大阪から奈良へとその勢力を拡げるか否か というポイント(今まではあり得なかったのですが、今回に限ってはその可能性が高いのです)。
 第二が、「維新」が知事選挙で勝利すれば、その責任を取らされ「高市氏は首相候補として終わり」となる。つまり 高市氏が首相候補として潰されるか否か、 というポイントです。
 この二点故にこの選挙は、 奈良の未来に巨大な影響をもたらすのみならず、日本の政治全体にも大きな影響を及ぼす ものとなっています。
 まず、これまで奈良は維新の影響が殆ど無いエリアでしたが、維新知事が誕生すれば、 「激しい改革」 の波に奈良が晒される事になります。
 一般の国民の中には、「維新の改革」が何やら善いモノであるかのように捉えている方は多いかと思いますが、 その中身は、「小泉・竹中改革」に代表される「緊縮」と「混乱」に埋め尽くされたものであることは、拙著「 大都市自治を問う 」で詳しく論じた通り です。
 例えば、 コチラの論文で明らかにされたのが、 「維新政治」が始まった途端、大阪府でも、大阪市でも、
『インフラ投資(土木費)を削り、その分を借金返済(公債費)に回しはじめた』
 という事実です(ちなみにこのインフラ投資のシェア変化は、府市共に全項目中最大の変化幅でした)。
 当方の地元でもある 奈良は基礎インフラが乏しく、四六時中渋滞 に苛まれており、 都市部なのに下水道も整備されていない 、というエリアが(当方の生家あたり含めて)広大に広がっています。
 奈良の発展の為には、まだまだ基礎的なインフラが求められているのです。ですから、奈良で維新による「緊縮」の嵐が吹き荒れ、 インフラ投資が停滞すればその疲弊は激しいもの となります。
 なぜ維新が緊縮政治を展開するのかというと、維新をはじめとした 改革政党(あるいは改革政治家)は、「これまでの知事がボロボロにした財政を、私たちが立て直しました!」と言って、人気取りをしようとしたがるからです。
 「財政を立て直す」には予算カットすれば良いのですが、その際に 一番手っ取り早いのが、インフラ投資額を削ること なのです。教育や民生を削ると人々の暮らしが瞬時に悪化しますが、インフラ投資は「未来」のためのものなので、削っても「今」の人々の暮らしはさして影響を受けないので、 「バレずに削る」事ができる のです。
 しかも、こうした改革政党は、そうした 予算カットを「改革ダ!」と喧伝することもでき、さらなる人気を得ることができる 、という次第。
誠に良く出来た狡猾な手口 ですが、今やこうした 「インフラ投資削減→借金返済→住民への改革をしたぞ!&財政立て直したぞ!」アピール は、かつての民主党政権や小泉改革がやった手口と全く同じで、今やもう、 「伝統芸」のような古典的パターン として日本の政治に根付きつつあります。
 いずれにしても、奈良県の有権者は、 「今回の知事選には、こうした深刻なリスクがある」 という事をしっかり認識した上で、投票先を判断することが求められているのです。
 ……
 では、 実際に奈良に、維新の知事が誕生する可能性は有るのかといえば……大いにあるのです。
 もともと、奈良では維新候補が勝利することが難しいのですが、 今回に限っては、維新と対立する「保守」が二つに割れてしまっているから です。
 一人が、 高市氏が会長を務める自民党奈良県連の推薦を受けている平木氏(元キャリア官僚の総務省課長)。
 もう一人が、 現職の荒井氏 。彼は、自民党からの正式の推薦を受けていませんが、「ぜひ頑張ってほしいと激励を受けた」と 「吹聴」 していると 報じられています。
 そして、森山自民選対委員長や茂木自民幹事長は、この両者のいずれかを支持しているというわけでもない 「どっちつかずの態度」 を決め込んでいると報道されています(同上)。
 こうなると、 保守票が二つに割れ、元生駒市長で、外国人参政権を認めるなぞという暴論をはき続けた山下氏という維新候補が、「漁夫の利」を得る 可能性がグンと高まっているのです。
 ただしここで、 保守層が、「どっちつかず」の茂木氏や森山氏の態度を脇に置き、「一方の候補」に集中すれば、維新候補が敗れ、保守候補が勝利することは確実です。 そもそも、保守分裂さえなければ、維新候補が勝利するみこみは殆どないからです。
つまり、党本部が放棄した「保守一本化」を、奈良県の有権者の次元で実現させるのです!
 では、どちらの候補に集中すべきか……それは、もはや、いずれの候補が良い候補か、という判断を超えた、別次元の判断となります。
 要するに、 「現時点」でリードしているのは、現職荒井氏なのか、新人保守の元キャリア官僚の平木氏なのかという「事実」こそが決定的に重要なの です。
 当方は今、いずれがリードしているのかの情報を知りませんが、 保守を兎に角応援したいとお考えの有権者は、まずは、いずれの保守候補がリードしているのかの情報に注目し、その「勝ち馬に乗る」ようにされるといいでしょう 。そういう人が増えれば増えるほど、 保守候補が勝利する可能性が高まっていく 事になるでしょう。
 いずれにせよ、 ここで保守候補が敗れる事になれば、維新政治が奈良に上陸する事になります。 それは、 奈良の歴史を大きく変える 事になるでしょう。
 そして、それによって 維新が日本の国勢にもさらに大きな影響を持つ契機を与える 事になるでしょう。
奈良知事選は、奈良の未来のみならず、日本の未来にも繋がっている のです。
 まずは皆さん、 どういう選択が最善なのか、しっかりとご判断いただいた上で、是非とも投票に行って下さい。
 統一地方選挙の中でも、特に大きな注目を集めている奈良県知事選挙、その注目ポイントの一つが、維新が奈良上陸を果たすか否かというものですが、それと連動するもう一つの重大ポイントが、 自民党の幹部連中の謀略通り、高市氏が首相候補として潰されるか否か、 という点。
 ここでは、この 高市氏の命運問題 についてお話ししたいと思います。これは、高市氏や奈良県の問題を超え、 自民党の命運にも、そして日本の命運にも直結する、極めて重要な問題でもあります ので、 是非、最後までじっくりお読み下さい。
 ……
 まず、奈良県はこれまで一貫して自民党が推薦する候補が知事に就任しており、(自民党結党以来) 「非自民」の候補が知事になったことはありませんでした。
 で、その奈良県の自民党、すなわち 「奈良県連」 (自由民主党 奈良県支部連合会) の最高責任者が、高市会長です。
 そういう状況の中で、 今、奈良県に初めて「非自民系」の候補が知事に就任する「リスク」が生じている のです。
 なぜなら、自民党系の候補が二名立候補するという 「保守分裂」選挙 となってしまったからです。結果、 自民支持層が二つに割れ、漁夫の利を得た非自民候補が勝利する現実味を帯び始めている のです。具体的には今、下記三名の有力議員が立候補しています。
・保守現職の荒井氏
・保守新人の平木氏 (元キャリア総務官僚の若手・高市会長の奈良県連会推薦)
・維新の山下氏 (元生駒市長、外国人参政権推進論者)
 こうして保守の現職(荒井氏)と新人(平木氏)の二名が立候補してしまったため、維新の山下氏が今、俄然有力となっているという次第です。
 なぜ、こうなったのかといえば、次の様な顛末です(以下は全て、 「永田町の化石」こと、当方が最も信頼する記者のお一人である政治記者の重鎮・泉宏氏の 記事 を基本とした解説です)。
 まず、奈良県連(高市会長)は、(四期も務めた高齢の荒井氏を見送り)平木氏の推薦を満場一致で決定します。 通常なら、自民党本部は県連の決定を尊重し、平木氏推薦を決定するのが筋 となります。
 しかし、 何としても知事を続けたい現職の荒井氏 は、関係の深い自民党の二階氏に応援を依頼したところ 「頑張れ」 と言われたのだと 「吹聴」 し出します。そして、県連の推薦がないまま、 立候補を「決断」 します。
 こうした状況を受けた自民党幹部の茂木幹事長と(二階氏側近の一人である)森山選対委員長は、 「どっちつかず」
 (出典:泉氏記事)の態度に終始し、結局、 県連の決定を無視し県連推薦の平木氏の「党本部としての推薦」を見送る事にした のです。
 その結果、 保守分裂 となってしまったという次第です。
 ここで、茂木・森山氏ら党幹部が自民県連の平木氏推薦を決定すれば、保守票がまとまり、 新人の平木氏の勝利はほぼ確実になる筈なのですが、彼らはそれを見送った のです。
 こう考えると、 自民が奈良県知事を失う事が今回あったとすれば、その責任は事実上、「自民党幹部」にあるという構図 が見えてきます。
 しかし自民党の内部では、そうなっていません。なぜなら、自民党幹部はこの状況を 「高市総裁候補を潰すチャンス」 と捉え 「自民党内の権力闘争が絡む闇試合」 (同上) を仕掛けている からです。
 そもそも、 岸田総裁は、高市氏の台頭を快く思ってはいません。 総裁選で第二位に付けた高市氏を脅威に感じているのです。高市氏を推挙していた安倍氏亡き今となっては、 高市氏は単なる目の上のたんこぶ になっているわけです。
 一方で茂木幹事長も森山選対委員長も共に、総裁選に打って出る可能性がある(あるいはキャスティングボードを握る)「派閥リーダー」です(共に 茂木派、森山派の領袖 です)。そんな彼らにしてみても、 保守層の一般国民にやたらと人気のある高市氏は目の上のたんこぶ です。
 こうして、自民党の幹部連中は皆、それぞれの思惑の下、 高市氏をどうにかして今のうちに潰したい 、と考えているわけです。そんな中、二階氏が現職の荒井氏に「頑張れ」と口にしたというのを耳にし、「これは高市氏を潰す良いチャンスだ!」と色めき立ったわけです。結果、森山選対委員長はあえて、 高市氏が推薦する平木氏に対して、党本部から推薦することを見送った と見られているのです。
 そして岸田氏もまた、こうした流れを 「高市潰しのチャンス」 と捉え、 「森山氏任せの傍観者」 (同上)を装い、この状況を 「あえて放置」 (同上)していると観られているのです。そうすると当然、維新候補が勝利する可能性が高まるわけですが、それを見通した岸田氏は、 「維新が勝ってもすべて高市氏に責任を押し付けようとしている」 (同上)という次第です。
 以上が、泉氏が 「自民党内の権力闘争が絡む闇試合」 (同上)と記述したその内実です。
 そして、泉氏はその記事を次の様な言葉で結んでいます。
『「今回知事選で自民一本化に失敗し、維新に名を成さしめれば、首相候補としては一貫の終わり」(同)となるのは避けられそうもない。』 (同上)
 あわせて泉氏は、この記事の中で『今回自民分裂による選挙となれば、 「維新県政誕生の可能性は極めて高い」 (選挙アナリスト)との見方が広がる。』という見解も紹介しています。
 ですから、この(公示前公表の)記事は、
「保守分裂となった今、維新県政が誕生し、その責任をとらされ、高市氏は首相候補として一貫の終わりとなる」
 ということが 「既定路線」 であることを示唆しているのです。
これが真実だとすれば、岸田総裁、森山選対委員長、茂木幹事長は、「途轍もなく腹黒い悪いヤツら」 という事になります。なぜなら、彼らは 「高市氏を潰して自分の地位を安泰にするために、あえて保守を分裂させ、結党以来守り続けてきた奈良県知事の座を、維新にくれてやろう」 としているからです。
 つまり彼らは、 国益や奈良県の利益などそっちのけで、さらには自分達の政治共同体である自民党の利益すら度外視して、浅ましく自らの保身のための「高市つぶし」を目指し、維新に知事の座をくれてやろうとしている のです!さらに言うなら、 国や奈良、そして自民の利益よりも、自分達の保身を優先しているのです。
この泉氏が記事を通して示唆した物語が真実だとすれば、岸田氏、森山氏、茂木氏はなんと浅ましくおぞましい輩達 なのだろう、という事になりますが…… 実際には必ずしも、自民最高幹部が思い描いた絵の通りに事が運ぶとは限りません。
 確かに、各有権者がただ自らが支持する候補者に投票するいう素直な展開となれば、保守は両者共倒れとなり、維新候補が勝利する事になります。
 ところが、既往の政治心理学研究から、実際の選挙で人々は、 もっと「戦略的」に投票する ことが知られているのです。
 今回の場合なら、 維新候補の勝利を避けたいと考える層 、あるいは、 とにかく自民党系の候補者の知事がよいと考える層 は、
『荒井が良いか平木が良いかという判断を停止し、どちらの保守候補が優勢なのかの情報を得て、より優勢な保守系候補に兎に角投票する』
という行動に出始める のです。
 事実、3月上旬時点での支持率が、下記報道で以下の様な状況だと 報道されています。
33% 維新 山下候補(元生駒市長)
28% 保守 平木候補
 (自民県連推薦・新人・元若手キャリア官僚)

18% 保守 荒井候補(現職)
 (ちなみに、 自民党支持層に限れば平木支持が4割、荒井支持が2割 とダブルスコアと 報道されています)
 この結果は、
第一に、荒井氏に勝ち目はほぼ無い (平木氏との9%の差は埋めがたい)、
第二に、維新山下氏は、平木・荒井氏の保守票を合わせれば絶対に勝てない (33%vs合計43%)、
第三に、2位の保守平木氏と1位の維新山下氏との差は僅かで、余裕で逆転できる範囲にいる、
 ということをそれぞれ意味しています。
 ちなみに、この三候補の中で、 もっとも知名度が低いのが、新人の平木候補 です。荒井氏は現職だし、維新候補は以前知事選に出た事もあり、かつ、生駒市長として「外国人参政権」の推進論者として(善し悪しはさておき)一定の知名度があるからです。したがって、 選挙戦が進み、新人の平木氏の知名度が上がることは確実で、さらに支持を伸ばす公算が高い、 とも分析できます。
 ついてはこの情報が有権者に広まれば、保守票が荒井氏から平木氏に流れ、事実上、 有権者の判断によって保守候補が自ずと『一本化」され、平木候補が勝利する可能性がグンと高まる 事になります。
 もしそうなれば、高市氏は 「一貫の終わり」 (同上)状況から 自民幹部からの”イジメ”という逆境を跳ね返し、”古い重鎮達が牛耳る自民党を終わらせる力”を持った『保守派のマドンナ」 (同上)として、高い評価を受ける存在に躍り出る事も大いに期待されることにもなります。そうなれば、 緊縮政治の維新に打撃を与えると同時に、「古い自民党」から脱却し、緊縮財政に終止符を打ち、凋落し続ける日本が救われる……という未来に繋がるかもしれません。
 果たして、自民重鎮や維新の連中が描いた絵の通りに事は進むのか、それとも「保守派のマドンナ」(同上)高市早苗氏が一矢報い、日本再生の希望をつなぎ止めることができるのか…… 奈良県知事選挙は、奈良の一ローカルの次元を超え、保守政党たる自民党、さらには日本全体の命運にも繋がる一大決戦 でもあるわけです。
 奈良県の方は勿論の事、全国の方も是非、奈良県の選挙戦の動向を大きくご注視頂きたいと思います。
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