2021/02/24
 20日深夜、『カンニング竹山の土曜The NIGHT』(ABEMA)が放送され、豪華すぎる炊き出しを行う「新宿租界」の実態についてのVTRが紹介された。
 この日の『土曜The NIGHT』はホームレス問題をテーマとしているため、番組レギュラーの古関れんは体験ルポとして、新宿租界によるホームレスの炊き出しの体験取材を行なった。
  豪華な炊き出しを行う理由とは?「新宿租界」総帥・Z李にインタビュー(1時間24分頃~)
 新宿租界は競馬、競輪、競艇、オートレースなど、さまざまなギャンブルに精通した10人の予想のプロが在籍し、各レースについての情報を提供している日本最大規模のオンラインサロンを運営。総帥のZ李は新宿界隈の裏社会にも詳しく、Twitterなどでも注目を集めている。
 毎週火曜日に新宿都庁下と代々木公園で行われる炊き出しは、食事の豪華さなどからネットでも話題に。カツカレーやいなりずし、からあげ、白身魚のフライ、カツ煮丼、クラムチャウダーなどバリエーションは豊かで、「かに・あわび・かずのこの炊き込みご飯」といった、ごちそうとも呼べるメニューもあるという。
 VTRでは新宿租界のメンバーである牛込寅太郎と一緒に古関が炊き出しを体験。この日のメニューは大きなうなぎが乗ったうな丼で、牛込は「『食べる楽しさ』を改めてみんなに持ってほしい」と、あえて豪華で栄養価の高いものを配食する理由を説明。「おかわりOK」というルールには、竹山は驚きの声を上げていた。
 また、顔出しはNGだったもののZ李へのインタビューも実現。炊き出しを始めた理由についてZ李は「いままで自分がダメだったときに助けてもらうことが多かった。自分がうまくいっているときにそれを返してるというか、いつ飯に困るときが来るかわからないから、自分ができているときに返している」と想いを語った。
 VTRを見た竹山は「すごいね…」と感心すると「資金がないとなかなかできませんけども、本当見習わないといけない活動。観てビックリしました」とコメントをして、取材に応じてくれた新宿租界に感謝の言葉を贈った。
 21歳の女性が、なぜ歌舞伎町で街娼として働くようになったのか…そこには売上のために客に高額の借金を背負わせるホストの魔の手があった。
 ホストクラブには、「売り掛け」と呼ばれる制度がある。シャンパンなど注文して高額になった飲食の代金を、返済期日を取り決めていったんは猶予してもらい、あとから支払う方法だ。銀座の高級クラブなどでは昔から同様の制度が優良客への“サービス”としてあり、それは企業が接待に使った毎月の支払いをまとめて後払いするためのものだったが、ホストクラブでは個人の女性客に背負わせる形に変化した。
 この売り掛けにホストで遊ぶ女性たちが期待したのは、いまは手持ちのカネがないが1ヶ月後には入金の見込みがあるといったように、返済能力があるからこそ、この制度を利用することだったはずだ。だが、現実に担当と客との間で横行しているのは「半強制的な借金」。
 これでは飲食店の“サービス”ではなく、現段階では返済能力がないにもかかわらず、それでも貸し付ける闇金のやり口だ。事実、ホストの口車にのせられ意図せず売り掛けしてしまい、やむを得ず学生やOLから風俗業界へと転じる女性も少なくない。
 確かに売り掛けは、返済期日までに女性がカネを用意できなかったり女性に飛ばれたりした場合、ホスト個人にそっくりそのまま店への借金としてふりかかってしまう諸刃なものではある。しかし闇金業者がそうであるように、ある程度の容姿スペックの女性であればカネを作ってくることなどわけないとホストは考えている。斡旋とまでは言えないかもしれないが、地方のデリヘルなどに少しの間「出稼ぎ」に行くように仕向け、そこでみっちり働き大金を持ってこさせたりするのが、売り掛け回収の常套手段だ。
 こうした知識があったため、僕はホストに対してあまり良いイメージがない。しかし現状は、ホストにハマって多額の借金を作り、身を粉にして働く女性たちを「ホス狂い」と括り、まつりあげている。
 ここで、改めて「ホス狂い」について説明したい。
 「ホス狂い」とは、文字通りホストに狂ってしまった――ハマってしまった女性のことを指す。“狂う”=常軌を逸するまでに、となるわけで、かわいそうな存在を連想しがちだが――いや、実際の状況はどう見積もっても不幸であるとしても――いまや悲壮感などいっさい見せず「私はホス狂いである」と自称して、ホス狂いになった経緯や担当に使った金額の誇示やその矜持、愛情、憎しみ、不満、不安などの内情をSNSなどでひけらかし、共感を得たり優越感に浸るなどして承認欲求を満たすのがトレンドだ。
 その「ホス狂い」の世界を描いた漫画に、『明日、私は誰かのカノジョ』(をのひなお・小学館)がある。累計500万部超のベストセラーになりテレビドラマ化までされるなど、ホス狂いだけではなく一般女性も巻き込み大きなムーブメントになっている。
 抱いていた悪印象の輪郭がはっきりとしたのは21歳の街娼・梨花(仮名)にインタビューしたなかでのことだった。幼い顔立ちで、体は肉感的。短めの金髪で、白いブラウスに黒の短パン姿には、美容系の専門学生にいそうな雰囲気がある。
 東京の路上売春の“現在地”=新宿歌舞伎町ハイジア・大久保公園外周(通称“交縁”)の状況を簡単に整理しておこう。これまで30代から60代の比較的、歴が長い古株の街娼たちが中心だったが、2022年夏ごろからは10代後半から20代前半の新顔たちが大挙して立つという問題がクローズアップされつつあった。どういう経緯かまでは窺い知れないが、職安通り側に立つ古株たちと区別されるように新顔たちは大久保病院側を好んだ。この棲み分けは不思議といまのいままで続いている(2023年6月現在)。
 2022年7月。平日の昼間――。気怠そうな顔をして大久保病院側に立っていた新顔の梨花は、約半年前にホストにハマり売り掛けをしてしまい、借金返済のためここに流れ着いた。
 そう話した直後、梨花は苦笑しながら言った。
 「まあ、よくあるパターンだよね」
 これまでの取材経験からすれば、確かによくある話である。そして僕が「またか」と顔をしかめたのも事実である。だが、先に記したヤクザとホストの色濃い関係を補強するように、梨花には借金返済のなかでヤクザに拉致られほだされの経験があったのだ。
 梨花は昼過ぎから夜9時ごろまでほぼ毎日路上に立つ街娼で、ハイジアの地下1階にあるネットカフェ『アプレシオ』暮らしをしていた。実家は都下・町田の3Kアパートで、親はふたりとも健在なうえ、子沢山でもない。
 母26歳、父27歳のときに生まれた一人っ子だ。だが梨花の父親はコンビニ店員などのアルバイトを転々とする、ロクに定職にも就かず消費者金融で借金を重ねるパチンコ三昧の男で、その生活苦から梨花は幼稚園にも保育園にも通わせてもらえなかった。ついに梨花が小2のころには生活保護を受けるまでに。生まれてこのかた、ずっと貧乏暮らしを強いられてきた。
 「もともと私は病気と障害を持っている」と梨花は話した。若干の斜視と、軽度の知的障害である。一見すると梨花は、斜視も言われるまで僕には気づけなかったし、質問に対する受け答えもハキハキしていたしで、貧乏暮らし以外はどこにでもいそうな21歳に見えた。
 だが、勉強がすごく遅れていて、小2より普通学級から離れて特別支援学級で学校生活を送るような子どもだったと話す。とりあえず高校までは行かせてもらったが、入学したのはやはり町田市内の特別支援学校で、それもほとんど出席しなかった。いわゆる不登校だった。
 梨花には同じ中学校に、中3の終わりごろから付き合う同い年の彼氏がいた。梨花はその彼氏のことが本当に好きで、ゆくゆくは結婚を考えていたという。しかし別々の高校に進学し、ふたりは離れ離れになると、梨花はあっさりフラれてしまう。そして失恋をきっかけに、精神を病みリストカットを繰り返すようになった。「この人がいないなら私死ぬ、みたいな」と梨花が話したように、精神安定剤の大量摂取、いわゆるODもしたが、ついに死ねなかったという。
 それだけ本気の恋だったが、時がたてばなんとやらで、アルバイトで貯めたカネで金髪に染めたりピアスをあけたりしてそれなりに楽しい高校生活を過ごした。
 「もう完全にオトコ依存症。恋愛してないともうだめ、っていう」
 相手がカラダ目当てであっても、一緒にいてくれさえすればそれでいい――。タガがはずれた梨花は、手当たり次第に男漁りをしたことで、若いカラダという武器を使えば男は優しくしてくれることを知ったのである。
 高校卒業から1年半ほどして歌舞伎町で遊ぶようになった19歳の梨花は出会いカフェの存在を知り、自然、周囲に流されるようにして売春を覚えた。コンドームは着用しないが膣外射精をしてもらう“生外”を条件に、1回1万5千円から2万円で若いカラダを売った。同時にマッチングアプリでの男漁りにも目覚め、そこでひとりの男と知り合い交際する。
 ホストの集客方法は2013年に施行された『新宿区公共の場所における客引き行為等の防止に関する条例』により、ここ数年で路上でのキャッチからツイッターやインスタグラム、マッチングアプリなどのSNSに様変わりした。それを知ってか知らずか、その彼氏が「たまたま売れないホストだった」と梨花は話した。
 単にそのホストから「本営」を掛けられただけではないのか。本営とは、ホストが客にしたい女性に対して「本命の彼女」を装う営業方法で、表向きは恋愛感情があるような態度を取っているに過ぎない。つまりは本命の彼氏のように振る舞ってはいるが、店で“彼氏”を指名してそれなりのカネを使わなければ関係は続けてくれないという利害をともなう。
 梨花はやはり、ほどなくその“彼氏”に「ちょっと来てよ」と店に誘われた。それも一回だけでなく頻繁にだ。月平均35万ほど出会いカフェでの売春で稼いでいたが、気づけばそのほとんどを“彼氏”が働く店で使うようになっていた。
 果たしてそれは本当の“彼氏”なのか。それを問うと、「いや、別に本営でも私は好きだったから」と、愛情と怒りとが交錯したような表情をした。
 梨花がこのあと街娼にまでなるストーリーは、マッチングアプリで出会ったときから、すでにそのホストにより描かれていたようだ。
 「『シャンパンおろして』って言われて、『出稼ぎで稼いでからだったらいいよ』って断った。なのに『イベントだから頼む』って、強引にシャンパンを入れさせられた。私が曖昧な返事をしたのもいけなかったけど、ほぼほぼOKしてない状態だったのに」
 客入りに対して女の子の数が間に合っていない地方の繁盛店は、客を優先的に付けてくれたり、1日3万円前後の「最低保証金制度」を採用して出稼ぎ嬢を集めている場合も多い。そこで梨花は、次の出稼ぎ先は1日2万5千円の最低保証があること、寮費を3千円引かれても「1日平均6万円くらいは稼げるよ」と店長から言われていることを“彼氏”に話してしまっていた。
 “彼氏”が梨花に売り掛けをさせたころは恋に盲目になっていた時期で、梨花は「ホス狂い」に育ちつつあった。“彼氏”からすれば梨花をハメるなど訳なかったことになる。
 「多少強引でもみんなやっちゃってますね」
 客に売り掛けをさせることについて、あるホストはそう話した。
 若ければ、カネを回収する方法などいくらでもある――こんなドミノ倒しの悲劇があちこちに拡散している――梨花もそのひとりに過ぎなかったのだろう。
問)その売り掛けはどうしたの?
答)「そのことをきっかけに、“彼氏”に対して急に冷めちゃって、飛んだ」
 “飛ぶ”とは、売り掛けを払わず逃げることを意味している。
問)どうやって?
答)「名古屋に行った。で、出稼ぎしながらまた名古屋のホストとしばらく遊んで気を紛らわしてた」
問)逃げ切れたんだ。
答)「ううん。そしたら、名古屋のホストとウチが掛けを飛んだ“彼氏”が実は繋がってて、裏を使って拉致られた」
問)“裏”って?
答)「ヤクザみたいな人です。で、出稼ぎで稼いだ35万円と、これ以上逃げられないようにスマホとカバンも没収、みたいな。ホストはそこまでやるんだよ。スゲエよ。諦めるホストも多いって聞いて軽い気持ちで飛んだけど、その人はトコトンまで追いかけるタイプだったみたいで」
 そこから東京へ戻され、“彼氏”に監視されながら出会いカフェでの売春で残り25万円の借金返済の日々は始まり、いまに至る。公園を知ったのは、やはり出稼ぎを教えてくれた出会いカフェの売春仲間からだった。
 25万円などすぐに返せると思っていた。だが出会いカフェでの売春を覚えてから数ヶ月が過ぎていた梨花は、好事家たちからすでに“ベテラン嬢”とみなされていた。
 だからというわけではないが、客が思うように取れなくなっていた梨花は、「ならやってみようか、みたいなノリで始めた」と振り返る。
 そのころ公園は、街娼の素性や売値を記したある好事家のツイートがバズり、女の子と買春客とで溢れかえっていた。
 「多い日で4人とか5人とか。(売値は)1(万円)とかイチゴー(1万5千円)とかで。最近は、今日あまり客が付かなそうだなって思ったら、ホテル代込みで1万とかに値下げして、とりあえずネカフェ代やメシ代を確保するとかはあるけど」
問)でも、その金額だとその日の暮らしで終わっちゃわない?
答)「まあそうだね。でもメシ代なんてそんなにかからない」
問)いつも何を食べてるの?
答)「コンビニ弁当かな。お金があるときはネカフェ(アプレシオ)でカツカレーとか注文したりするけど」
問)ちょっと贅沢にしゃぶしゃぶとか焼肉とか食べないの?
答)「自分のお金では行かない。たまにお客さんに奢ってもらうことはあるけど」
問)借金は?
答)「2週間くらいで返し終わったよ。夜9時ごろ、“仕事”を終えて泊まってるアプレシオに帰るよね。すると翌日の昼、“彼氏”がアプレシオに来てその日稼いだぶんを回収していく感じで。東京に戻ってネカフェ(インターネットカフェ)暮らしを始めたのは1ヶ月半前のことで、最初はグランカスタマ(ハイジアからほど近いインターネットカフェ)にいたんだけど、なんか店員が男性客と話すなとか急にうるさくなって。それで友達から『アプレ(シオ)のほうが過ごしやすいよ』って聞いて移ってきた感じ」
 “うるさくなった”とは、2022年6月11日に写真週刊誌『FRIDAY』が報じた「新宿・歌舞伎町にある『売春ネットカフェ』潜入ルポ!」の記事をさしていた。グランカスタマの個室で「ネットカフェ売春」が横行していることは、もとより広く知られた公然の秘密であったが、同誌は同店の実名を出し、改めてここが売春の温床であることを白日のもとに晒す。
 当初、“彼氏”はグランカスタマにカネの回収に来ていた。同誌が実名を出した影響は思いのほか大きく、“彼氏”は買春目的の客と間違われるため店に無断で来れなくなっていたのだ。
問)カラダを売ることに対して、いつごろから“仕事”って割り切れるようになったの?
答)「初めてやったときに思った。好きじゃない人とすることで、感情がわかないことで、『これ、仕事だな』って。なら割り切っちゃおう、って。で、それからずっともう、仕事って割り切ってやってる」
問)補導やみかじめ料のたぐいは?
答)「ないし、払ってない。払えとも言われたことないよ」
問)これからも街娼を続けるの?
答)「うーん、デリヘルとかで働くことも考えてはいるよ」( 「立ちんぼも親に言いました。そしたら『自分で稼げるならそれでいいよ』みたいな(笑)」現役トー横キッズの15歳女子が語る大麻・パパ活・家庭環境の過酷すぎる実態
 毎月、稼ぐ額は350万円…路上売春をしてまで、恵美奈(仮名、19歳)さんが大金を稼がなければいけない理由とは?
 2022年10月中旬――。大久保病院側に立っていた新顔・恵美奈(仮名、19歳)とふたりで職安通り側の路肩に座り、恵美奈の了承を得てから僕はボイスレコーダーの録音ボタンを押した。
 約15人の新顔がいたなか恵美奈に話を聞きたいと思ったのは、ほかでもない。恵美奈がいちばん普通だったからだ。できればホス狂い以外の新顔にと思っていたからだ。
 地味でも派手でもない服を着て、通りにぽつんと佇む恵美奈は、見るからにどこにでもいそうな19歳で、病んでいる様子がそれほどない。それを下敷きに、なるべくホストクラブに通っているようには見えない子を選んだのである。ファーストコンタクトでキャバ嬢でも風俗嬢でもなく「現役の女子大生」だと話したことも決め手になった。
問)立ち始めたのはいつぐらいから?
答)「最近。7月末とかから。ほぼ毎日立ってる」
問)稼げる?
答)「夕方ぐらいから夜の12時、1時とかまでで、1日15万くらい」
問)1回いくら?
答)「人によるんですよね。たまに相場がわかってない人がいて、3(万円)とか5(万円)とかくれることもあるんですよ。最低は1(万円)でゴム有り。で、本当に焦ってるときは、生外で2(万円)以上とかやる。キスとかフェラはあんまりしたくないから、したいって言われてもキスなしゴムフェラにしてもらってる。生中(膣内射精)とかはやんないですね、病気が怖いし」
 しかし僕の思いは空転していく。「焦っている」という言葉の裏に意外性はなく、やはりホストの売り掛け返済のため立ちんぼをしている展開だった。ホストクラブには最近行き始めたと話し、月にいくら使っているのかと僕が尋ねると、「1回150万を月に2回」だと恵美奈は言う。
 その「1回150万を月に2回」の内訳は、高級シャンパンをおろすなどして「売り掛けで」と言われ、「他に生活費が50万。だから月に350万くらい必要で、正確な数字はわからないけどそのくらいは稼いでる」と続けたことにはさすがに驚いた。確かに恵美奈は梨花より客が付きそうな印象ではある。それにしても、月に60万円ほどしか稼いでいないと語っていた梨花( #1 )に対して、歳も2つしか違わない恵美奈が月に350万円も稼げるものなのか。
 ともかく、恵美奈はその数字に嘘はないと重ねた。
 「えっ、だって、日に15(万円)稼げば20日で300(万円)ですよ。残り50万なんて2、3日も立てば楽勝だし」
 恵美奈が言うように、確かにこの計算どおりコトが運べば無理はない。モヤっとした違和感があるが、そんなものかと納得するよりなかった。
 恵美奈は自分といまの担当ホストの関係について、他の子と私は違い、最初は客じゃなかったと強調した。つまり恵美奈は、彼氏彼女の関係とまでは言えないが、自分は「特別な存在」だと言いたいのだろう。だけれども、その「特別な存在」であることすらどこまでいっても自信が持てないと吐露する。
 いま入れ込む担当に声をかけられたのは2ヶ月前の夜7時のことだ。他の街娼たち同様に客待ちしていた。そのころ恵美奈は、「メン地下」の「推し活」のため、“現在地”でカラダを売りカネを稼いでは「推し」に貢ぐ日々を続けていた。
 「メン地下」とは、小規模なライブやイベントで活動し、若い女性の人気を集める「メンズ地下アイドル」の略称である。若者の間では、応援するアイドルを「推し」、推しを応援する活動を「推し活」と呼ぶ。
 恵美奈がメン地下にハマったのは高3のときだ。17歳の終わりからで、ジャニーズの追っかけをしていた母親譲りだとした。
 「カラダ(売春)を始めたのは18(歳)になってから。最初はツイッターでのパパ活です。私はカラダをしてまで推しに貢ぐなんて想像してなかったけど、メン地下推しの子ってフーゾクとかやってる子多いから周りに影響されて。で、まだ高校生で風俗で働けない年齢だからパパ活をやった。毎日泣きながらやってた。でも、客の羽振りは良くて、当時はゴム有りで4(万)とか5(万)とか普通にもらえてた」
 「依存してたっていうか、周りがチェキとかでいっぱいお金を使ってるのに、自分が使えてないっていうのが悔しくて」
 単に推しを独占したいから売春に走ったのではない。周りより容姿スペックが高いと自負している。恵美奈はそこに――そんな私が雑に扱われるなんてと――自尊心をくすぐられたのだ。
 「可愛いからお金など使わなくても私は贔屓されるはずだ」と恵美奈は思っていた。だが、アイドルビジネスは競争心を煽りカネを使わせる手法が根幹にあるもので、推しへの消費の多さによりファンの価値は上位に置かれる。それが恵美奈のプライドと共振したのである。
 「私はひとりっ子で、オモチャや食べ物を兄弟と奪い合うなんて経験がない。だから、興味のないことに関しては全く競争心は湧かないけど、自分が好きなことに対しては絶対にいちばんじゃないと嫌だ、っていうのがある。勉強とか運動とかはビリでもいいけど、好きなメン地下に対しては。自分で言うのもなんだけど、私はあの子たちより可愛いから売春すればぜったいに稼げると。だからいちばん稼いでやるってなった」
問)なんでさあ、売春してまでいちばんになりたいと思うようになったの?
答)「えっ、なんでだろう。いや、いちばんになりたいっていうか、負けたくないっていうか。なんだろう、義務感」
問)カラダも心もすり減らして、泣いて。そうまでして全うする強い義務感ってなんだろう。
答)「よくわかんない。というか、(売春なんて)すぐやめるだろうと思いながらやってました。当初は推しに会いたいから頑張ってたんだと思う。けど、それがいつの間にか義務に変わってきて、って感じ」
 メン地下の推しは主に東京で活動していた。大阪生まれ大阪育ちで、そのころ関西では多少名の知れた大学に通っていた恵美奈は、さらに推し活に励むため大学が夏休みになるのを待って東京に遠征した。
 このとき公園で街娼をすることになる。1回あたりの単価は高いパパ活だが、数をこなすのには限界がある。しかも、新たに東京でパパを探すのも無理がある。そこでメン地下仲間に相談すると公園を勧められたのだ。
 実際に赴いて立っていると、すぐにひとりの男に「遊べる?」と声をかけられる。売春の交渉は始まり、3万円を提示され近くのラブホに。セックスを終えて再び立つと、またすぐ男に声をかけられる。初日から何度も公園とラブホとを往復する。するとそのとき「こんなに稼げるんだ」と味を占めてしまったという。
 街娼行為を覚え、ファンのなかでいちばんカネを使うようになってからも、恵美奈が売春をやめることはなかった。他の子も風俗で働いたりパパ活や立ちんぼをしたりなどしてカネを使っていたので、推しを独占することはできない。それは当然のこととして割り切れてはいたのだが、自分より貢いでいないひとりの子を推しが平等に重宝しているのを見ると我慢できずに、やがて推しに嫌悪感を抱くようになった。
 嫌悪感を抱くようになってからも、恵美奈は「ファンが減られたら困るから」と推しに一応の理解を示す。だが、その嫌悪感は、次第に憎悪へと変わったのだと、恵美奈は話した。
 公園に女性がひとりで立っているところに声をかけてくるのは買春客以外にいないと思っていた。だが、売春の交渉ではなく「可愛いね。何してんの? こんど遊ぼうよ」とナンパのように話しかけられ、内心、見ればわかるでしょと思いつつ、イケメンだったからホストに聞かれるままLINEのID交換に応じた。
 「で、そのホストから『会おうよ』とDMが来て、みたいな」
 実はそのころ、恵美奈は推しに貢ぐ意味を見出せなくなっていた。現段階で私よりお金使ってないのに、「私がいちばん好き」みたいな感じのことをずっと言ってるあの子。それがキモかったばかりか、推しメンもファンが減られては困るからと言いたげな表情をして優しくする。私がいちばんお金使っている。誰が見てもいちばん頑張っている。なのに、それ相応の見返りがないのは違うんじゃないかと思っていた。
 そんなときに現れた、ホストの男。これが世にいう色恋営業――僕からすれば地獄の始まりだった。恵美奈はいま、大阪から出てきてそれっきり、約3ヶ月も“現在地”からも担当がいるホストクラブからも近いビジネスホテル『リブマックス』に泊まりながら街娼で稼ぐ日々を続けている。
問)そのホストはさぁ、ちゃんとカネを使ったぶんだけ応えてくれるんだ。
答)「うん。ご飯食べに行ったりとか、ビジホにも会いに来てくれる。ビジホには、朝来てくれることもあるし、夜、営業終わりのこともある。向こうが仕事終わるのが深夜1時だから、私も同じくらいに立ちんぼをやめて、ふたりで一緒にビジホに帰ることも。で、一緒に寝て。店には月2回しか行かないけど、なんだかんだで毎日会ってる感じかな。今日も夕方5時とかまで一緒にいた」
問)カラダの関係はあるの?
答)「まあ、ある。セックスはほぼ毎日。最初は、私が店に行く前に。外で会って、ご飯食べた、その日に」
問)じゃあ、向こうは恵美奈のことが本当に好きなんだね。
答)「いや、わかんない。営業なんじゃないですか? 本当のところはわかんないけど、まあ、別に好きでも営業でもどっちでもいい」
問)たとえば地元の友達と付き合うんじゃダメなの?
答)「いや、メン地下やってる男としか付き合ったことなくて。中学でも高校でも一般の彼氏がいたことがない。女の扱いがうまくないと好きになれない。そこにきて、ホストやメン地下は女の扱いがうまいから。なんか私がめっちゃ性格がひん曲がってるから。すぐ拗ねたりとかするから。それをなだめてくれる人じゃないとダメなんだと思う。普通の男の子って拗ねたりしたらすぐ戸惑うじゃないですか」
問)そうだね。もういいよってなるよね。
答)「意地っぱりなんで、もういいよって言われたら私から切ると思う。でも、ホストやメン地下の子はなだめてくれるから」
問)まあ、カネだとしても。
答)「うん、まあそうね」
問)じゃあ、フツーに彼氏を作るよりメン地下やホストのほうが熱中できるわけだ。
答)「うん。推し活してる自分が好きなんだよね。彼氏にはお金を使えないじゃないですかぁ。お金払ってワーキャーしてるのが楽しい。お金使いたい。ホストがどういうものかってのはちゃんと理解している。メン地下のファンだったから、余計にね。でも、別に仕事でもここまでしてくれるんだったら幸せかな、みたいな」
問)それで幸せなんだ。
答)「いや、幸せとまでは言えないかも」
問)自分でもわからないんだ。幸せか、どうか。
答)「というより暇つぶしかな。暇なんで」
 かえりみれば、恵美奈は自分の暴走を止めるためのきっかけを模索し続けているようだ。それは、「幸せとまでは言えないかも」という恵美奈の言葉を、できればカネなしで自分のすべてを受け止めてほしいのではと僕は理解したからだ。
 なのに担当は、1回150万円もの売り掛けをさせ、それを恵美奈は売春の稼ぎで返済するなか――むろん、毎日会うなど恋人同然に振る舞っているのだとしても――恵美奈に、最後に「暇つぶし」と言わせたのは皮肉というしかない。
 再び大久保病院側に戻った恵美奈は、スーツ姿のサラリーマン風情に買われた。その間わずか10分弱だった。
 髪は白髪混じり、その見た目はどう見ても60歳以上…新宿歌舞伎町で数十年近く「立ちんぼ」を続ける久美(仮名、年齢不詳)さんは、立つのではなく終始うずくまっていた。しかも、周囲に背を向けるようにして。だから、まさか老女が街娼だとは。ホームレスに違いない。
 2023年2月初旬、無数の鉄柱で仕切られた大久保公園の四方を囲む路上の一角──。この日の出立ちは、黒色のワンピースの上から淡い色のフリース素材のジャンパーをはおっていた。使い古した大きめの紙袋とナイロン製のエコバッグを自分の両脇に置き、白髪交じりの長い髪で顔を隠すようにして小さくなっていた。
 老女のことを語る前に、“現在地”はどんな状況なのかをいま一度、記したい。
 街娼たちの年齢層は、これまで20代半ばから30代の、コロナ禍になり仕事からあぶれたキャバ嬢や風俗嬢たちが中心だったが、2022年夏以降、10代後半から20代前半が目立つというありえない現象が起きている。それも平日で15人から20人、週末ともなれば30人以上が散見された。
 様相はガラリと変わりホス狂い──それも、風俗経験のない学生やOLまでもが立つようになったのである。風が吹けば桶屋が儲かるとはよくいったもので、売春を供給する女性が増えると、また買春客も増えた。つまり現在地はいま好景気に沸く。
 だが、老女がその恩恵にあずかるとは限らない。なにより超熟女を好む男性がいることは理解している。だとしても、老女は都会で暮らしていけるだけの実入りが得られているとは到底思えない。
 僕のように売春婦だと理解してのことならまだしも、そもそもうずくまっての客待ちでは交渉のテーブルにすらつけないのではないか。見た目からして無視か哀れみの目を向けるのが関の山で、普通はそこまで飛躍はしない。むろん、僕が秘めていたのも下心ではなく同情心である。
 この地を買春目的で訪れる好事家たちのなかでは名物立ちんぼとして知られる老女の存在は、1ヶ月前、この地の事情にめっぽう詳しいライターの仙頭正教から教えてもらった。僕が接触したのは朝9時ごろのことだ。
 「何をしてるんですか?」
 正直に言おう。仙頭からのお墨付きがあっても、僕はまだホームレスではないのかと思っていた。だから普通は「遊べるの?」と声をかけるところ、こんな問いかけになった。
 すると、「えっ、はい、ホテルですか?」と言って、老女は満面の笑みを浮かべた。5千円、いや3千円でもと売春の交渉をしてきた老女に、たった3千円でカラダを売ることに軽く動揺しつつ、代わりにホテルでのインタビューと写真撮影を了承してもらう。こちらの意図を聞かずに売値を提示してくるとは老女もなかなか手際がいい。普通は立ってもいない老女に買春交渉などするはずもないのに、である。
 眠らない街といわれる歌舞伎町にあって、その日の朝は人けがまばらだった。僕は老女と、歩いてすぐの距離にある古びた外観のラブホに入る。
 本人にもあらかじめ伝えたように、こちらの目的はあくまで取材である。が、よくは理解していなかったのだろう。その証拠にインタビューをしようとテーブルの上にテレコを出して録音ボタンを押す僕に対して老女は、「先にお湯をためてきますね」と言って風呂場に向かい、キュッと蛇口を捻る音をさせてから戻ると、目的はアレでしょと言わんばかりに着衣を脱ぎ始めるのだった。
 「名前をお教えいただけますでしょうか」
 「久美(仮名)です」
 「歳は?」
 「うーん、50代前半」
 僕と片手で数えるほどしか変わらない50代前半、と言われてうなずくことができなかったのは、自ら裸になった久美さんを見て衝撃を受けたあとにこの質問をしたからだ。痩せほそった体も、人生の年輪といわれる肌のシワも、すべて経年劣化が顕著で少なく見積もっても60歳以上だと容易に推測できる。であればこそ、サバを読む久美さんについてどう考えるか。
 それは奇妙な時間だった。「見えないですね」とお世辞とも皮肉ともとれる言葉を続けた僕に対して久美さんは、「本当はもう少し上」とはぐらかすだけで、サバを読んだことへの言い訳もしない。若さで負けたくない。自分の年齢を認めたくない。心理はいくつも想像されるが、いまさら実年齢を知って逃げ出すはずもないのに「本当はいくつなんですか?」と話をふっても苦笑するだけだ。
 「そろそろ頃合いですね」と言い、久美さんが僕を風呂場へ誘う。いつもはデリヘルのマニュアルにあるように客の体を洗ってあげているのだという。久美さんがフリーの立ちんぼ経験しかないとするならば、この段階で買春客に対するもてなしなどしないのではないか。
 いそいそと風呂場へ行こうとする久美さんを制止して、目的はあくまで取材であることを伝える。改めて久美さんの話を聞こう。
 僕は久美さんがいつもは風呂場で客の体を洗ってあげていると聞いて、こんなふうに思っていた。街娼はソープやピンサロ、出会いカフェやパパ活アプリでの売春に至るまで、数多の風俗を経験した女性が最後に行き着くとされている商売だ。いまや高齢者を雇ってくれるデリヘルも少なくない。だから風俗経験は豊富でも、路上歴は浅い。おそらくや近年、コロナの影響で風俗からあぶれた果てに──。
 しかし久美さんが話した自分の半生は、僕の想像をはるかに超えるものだった。
 大阪生まれ大阪育ち。地元の高校を卒業し、20歳で結婚して一女に恵まれた久美さんはそれまで、風俗とは無縁の人生を送ってきた。
 ところが夫のギャンブル狂いと浮気を理由に24歳で離婚すると、女手一つで娘を育てるため若専の箱型ファッションヘルスで働くことを余儀なくされた。久美さんの記憶が曖昧で正確な時期はわからずじまいだが、そこそこの実入りを得て人並みの生活を送っていた数年後、ここでまた転機が訪れる。
 「で、30歳くらいで泉の広場で立ちんぼをするようになりました。店も客も若い子のほうがいいから、ほら、いつまでも雇ってくれないでしょう」
 泉の広場は大阪・梅田の地下街の一角にある、ヨーロピアン調の噴水を目印とした待ち合わせ場所である。2021年に一斉摘発があり、ここで売春をしていた当時17~64歳の女性61人が売春防止法違反で大阪府警に現行犯逮捕されて閉鎖される前までは、有名な街娼スポットでもあった。
 なにもいきなり路上に立たなくても。他に雇ってくれる風俗店はなかったのだろうか。
 久美さんが60歳以上だと仮定して話すと、時期は1993年ごろ。おりしも欧州ではEUが設立し、国内では改正風適法施行による派遣型風俗店解禁前で、いまのようにデリヘルが乱立していて老いも若きも風俗で働ける状況にない。
 限られた選択肢のなかで、残るはフリーで春を売ることぐらいしかなかったと久美さんは持論を述べる。そして泉の広場では1万円ほどの対価を得て男たちに抱かれた。ときには「2、3万で売れることもあった」と回顧した。
 こうして長きにわたり街娼一本で生活を続けてきた、ということか。風呂場でしようとした接客術は、路上に立つまでのヘルス経験で培ったものということか。もっとも、もっと割のいい仕事を求めて上京して東京・新大久保でチャットレディの職などに就いたこともあるようだ。しかし、寄る年波には勝てず、それも長くは続けられなかったらしい。
 1回の報酬は3000~5000円程度…新宿歌舞伎町で長年、「立ちんぼ」として生計を立てる久美(仮名、年齢不詳)さん。夫との離婚後、一人娘もひとり立ちし、昼職を見つける選択もあったはずの彼女はなぜ路上売春をやめなかったのか?
 東京で仕事にあぶれたらまた泉の広場に引き返すという繰り返しだったというが、また時期は曖昧なまでも、最後に行き着いたのは新大久保でのチャットレディ経験のときに界隈を彷徨うなかで知った、ハイジアと大久保公園一帯での売春に他ならない。久美さんが40歳を過ぎたころに娘は成人してひとり立ちした。つまりもう、自分の生活費以上に稼ぐ理由はない。
 むろん、もうそのころにはデリヘル開業が解禁されていたなど、少ないながらも探せば熟女であっても雇ってくれる舞台は整っていたことになる。いやデリヘルでなくとも、昼の一般職を模索することはしなかったのか。
 「えっ、まあ、長くこの仕事を続けてきましたから…」
 そんな大雑把さが、悲惨な結果を招いてしまった。
 前述のとおり、久美さんの売春単価はひとり頭3千円から5千円で、およそ売春の対価として得る金額ではない。いや、その金額で買ってくれるのはまだマシなほうで、多くはたった千円で性行為に及んでいるのだった。
 冒頭で記したようにしゃがんでいると──まるで罰ゲームに興じるように──買う気はないが売値くらいは聞いてみようかといった具合で冷やかし客が興味本位で声をかけてくる。そこで大塚あたりの激安ピンサロの半値を提示されれば、どうなるか。
 その安さから交渉が成立し、公衆トイレや雑居ビルの踊り場でフェラや手コキをするのである。むろん、5千円で買ってくれる常連客もいるにはいると言うが…。
 果たして食べていけているのか。暮らしぶりはどうか。やはり女性専用サウナかネットカフェ暮らしを続けているのだろうか。実はパトロンめいた男性がいて、住居だけは確保されているのかもしれない。このまま取材を終わらせても問題ないと思っていたが、まだまだ疑問が湧いてくる。ねえ、久美さん、今日は何を食べたの。どこに帰るの。
 「ネットカフェですよ。朝食もそこで提供してくれる無料のもので済ませました」
 某ネットカフェの名前を挙げ、毎日そこに泊まっているという久美さんから受けた僕の印象は、意外にやっていけているんだ、というものだった。ネットもテレビも見放題で、タダで飲み物や軽食にもありつける。感想は「ありがち」で、貧困層には違いはないがネット難民と称される若者たちと同様の暮らしぶりが想像され、それほど浮世離れはしていない。が、ネット民よりさらに苦境に立たされていたことを、僕はあとから知ることになる。
 ラブホテルを退出して解散した翌日のことだ。再び公園で久美さんを見つけ、食事に誘った僕は、久美さんの希望で歩いて数分の距離にある中華料理チェーン店『日高屋』にいた。久美さんが麺類のなかでいちばん安い中華そばを頼んだので、僕も同じものを注文し、ふたりして麺をすする。目的は久美さんの暮らしぶりを知ることだ。
 こうして関係を深め、久美さんが拠点にしているというネットカフェの居室のなかを見せてもらおう。
 「麺類が好きなんです。去年の大晦日は、ちょっと奮発して天ぷら蕎麦を食べました」
 自分へのご褒美じゃないけど、と前置きして語る久美さんだった。
 僕は本題を切り出した。だが、思惑はすぐに弾かれてしまう。久美さんは「いつも時間料金より安い夜から朝までのナイトパックを利用してるんですよ」と言い、すでに今日も退出していたからだ。
 実際はネカフェ暮らしをすることすらままならなかったのである。実入りはよくて1日数千円、ときにはゼロの日もあることからして、荷物を置いたり雨露をしのぐ拠点を持つことは思いのほか無理があり、朝9時ごろにネットカフェから出るとそのまま夜10時までずっと路上に。
 「長くこの仕事を続けてきましたから…」久美さんは続けた。
 「公園付近にいたり、ハイジアの階段で座ったり、数時間ごとに場所を変えてね」
 一つの場所でじっとしているのはさすがにキツい。これは、長年の経験から編み出した効果的に客を取る久美さんなりの処世術でもあるようだ。ところ変われば品変わる。よく言われるように、新規客の目にとまりやすくしているのだという。
 さて、着替えや防寒具の類はどうしているのか。久美さんは今日も使い古した大きめの紙袋とナイロン製のエコバッグを持っていた。中身を確認させてもらうと、大きめの紙袋にはラブホやネットカフェで入手したであろう使い捨ての歯ブラシやコットンや替えの下着類が、エコバッグには財布や化粧道具などが乱雑に入れられているだけだった。まさかいまあるもので私物は全部じゃあるまい。
 他の荷物は近場のコインロッカーに預けていることがわかり、そこまで案内してもらうことになった。追加料金を投入してカギで扉を開ける。
 誤解を恐れずに言えばゴミである。理解不能で、まだどこかに隠されているのではとの疑念も浮かぶが、久美さんの私物は本当にこれで全部らしい。
 久美さんはケータイ電話すら持っていなかった。最後に娘と連絡を取ったのは、まだケータイが生きていた4年前。元気にしているか。コロナになってなどいないか。
 僕が久美さんのいまやこれからを憂えるなか、自分ではなく娘のことだけが気がかりだと最後に言って、久美さんはいつもの場所、そう大久保公園のほうへ向かってゆっくりと歩いていった。
 久美さんと過ごした数日間のなかで、忘れられない光景がある。
 うずくまる久美さんを、僕が背後から気づかれないように覗き込んだときのことだ。久美さんは、手にするピンセットの先を歯と歯の隙間にあてて歯間ブラシのようにして歯石を取っていた。それは、あるはずもない何かをほじくり続けているようだった。
 初対面の日も、日高屋で中華そばを食べた日も、何かに取り憑かれたように手を動かしていた。僕が「何をしてるんですか?」と問うと、マズい場面を見られてしまったといった表情をして、咄嗟に上着のポケットのなかにピンセットをしまった。
 その不可思議な行動は、そのまま取材時にも感じていたある疑念へと繋がる。過去に取材した立ちんぼの一部がそうであったように、やはり、どこか心の病を抱えているのでは──眠剤や向精神薬の類は確認できなかったにしても。
 が、僕はそれについて問うことをついにしなかった。なぜなら、これは久美さんと少しでも触れ合えばわかるのだが、聞いても明確な答えなど返ってこないと思えたからだ。
 いまも僕は、時間があれば大久保公園に寄る。
 今日はいるな。さすがにこの雨ではいないか。わざわざ探しはしないまでも、たまの彼女の姿を見つけてどこかホッとする自分がいる。
 久美さん、どうかこれからもお元気で。
 東京・新宿区の大久保公園周辺で売春の客待ちをする、いわゆる“立ちんぼ”が増えて問題となっている。
 SNSで客と女性のやり取りの 動画 が相次いで投稿され、通報が増えたことを受け、警視庁は9月5日から取り締まりを行い、21歳から46歳の女35人を売春防止法違反の疑いで逮捕した。警視庁によると大久保公園周辺での検挙数は9月の段階ですでに去年の検挙数を大きく上回っているという。 彼女たちが路上に立つ動機の約4割を占め、最も多かったのはホストや“メン地下”と呼ばれるメンズ地下アイドル。ツケの支払いや遊興費を稼ぐため売春を行ったという。4月には新宿・歌舞伎町のホストが滞納している代金を返済させるため23歳の女性に大久保公園で客待ちをするようそそのかした疑いで逮捕される事件もあり、警視庁はホストクラブ110店に対し一斉立ち入りを行った。 4日の『ABEMA Prime』では、現地で売春実態を取材する専門家と、若者の働き方や貧困問題に取り組む社会福祉士を招き、必要な支援の在り方についても考えた。
  “立ちんぼ”集中摘発 35人は「思ったより少ない」 動機や実態は?
  摘発数は増加の一途を辿っている
 9月、新宿区の歌舞伎町、大久保公園で〝立ちんぼ〟をしていた女性35人が摘発された。これについて現地で売春実態を取材する慶応SFC在学中でライターの佐々木チワワ氏は「多い日は男女合計で100人以上は行き来をしていた。買わずにお酒を飲みながら見学している男性や、会話だけをしている女性もおり、半ばコミュニティ化している人数を考えると思ったより少ないなと思った」と言及。 また、「大久保公園自体がイベントをやっている時は普通の男女もいる。私が近くで友達と待ち合わせをしていると“この辺に苦情が出ているから君どいてよ”と警察の方に言われ、身分証の提示を求められた。おそらく立ちんぼしている女性の情報を集めていたのだと思う。摘発はいたちごっこなので警察も疲れている様子だった。通常時でも完全に立ちんぼ目的の人々と観光地化している側面が入り混じり、特殊な場所になってきている」と実態を述べた。 では実際に、どのような女性が〝立ちんぼ〟をしている場合が多いのか。佐々木氏は「以前は海外の方や風俗店では働けないような人が来ているイメージだったが、今はほとんどが若い女性で20代が多い。風俗より稼ぎやすいという側面がある。例えばデリバリーヘルスに出勤したらお客さんを待つ必要があり、報酬は60分で約1万円。一方、立ちんぼは買い手の男性が見えている。1時間以内に1万円稼ぐなら、あそこに立つのが一番効率いい」と背景を解説。 続けて「あそこに立ちながらTwitterでの集客や、パパ活アプリでマッチングをして、常にお客さんを探す窓口を増やしている。ある種の風俗のフリーランス化だ。あそこに行けば稼げる。絶対に客がいる。私も実際に立ってみたところ30秒ほどですぐに話しかけられたくらいだ。10秒ほど会話をして30秒でホテルに入っていく男女もいた。これほど簡単に1、2万円稼げるのが常態化したら、そこから抜け出すことは難しいだろう」と指摘した。 今回、売春防止法違反の疑いで逮捕された35人のうち4割が遊興費を稼ぐ目的だったという。これに佐々木氏は「コンカフェなどで未成年の子たちが売っているのはやはり判断能力がないという部分で保護・規制すべきだ。ただ、18歳以上である程度合意があるなか“ホストが抱いてくれなかったから支払わない”といった揉め事も実際にある。もう少し表面的ではなく、現状を調査しなければならないなと思っている」と言及。 逮捕されたうちの4人は生活困窮者だったとされているが、「好きな男性のために自己犠牲をすることがエモいと思う人もいる。そう行った文化が根付いている。ここに貧困問題を関連付けるのはよくない。立ちんぼで1日1万円稼ぐと月給30万円になるではないか。彼女たちはお金を使う瞬間に自分の存在価値を見出す、自分が承認されているという側面もあり、むしろ精神的な貧困の問題ともいえる」と述べた。
 東京・歌舞伎町の大久保公園周辺で売春のための客待ちをする女性が増えている。ホストクラブやメンズ地下アイドルなどにはまった末の借金返済や遊興費を稼ぐ目的が多く、9月に逮捕された女性の約7割が20代で、初犯が約9割を占めた。警視庁は取り締まりを強めるとともに、昨年から専門相談員も置き、社会復帰に向けた支援にも力を入れているが…。
 7月の金曜日。まだ明るい午後5時ごろ、公園周辺には既に数人の女性が立っていた。売春1回の相場は1万5000円前後とされる。女性を眺めていた男性が声をかけ、しばらくすると2人で近くのホテル街に向かっていった。
 こうした客待ち行為は「立ちんぼ」と呼ばれる。大久保公園周辺は以前から多い場所だったが、コロナ禍での行動制限が緩和された上、客待ちの様子の動画が交流サイト(SNS)で拡散されたことで訪れる女性と客が増えたとみられる。
 捜査関係者によると、栃木、千葉、埼玉、神奈川といった関東圏から通う女性も多く、捜査員は「1日5回客をとる女性もいた」と話す。逮捕者数は、2019~22年の4年間は53人、23人、34人、51人と推移したが、23年は1~9月ですでに80人に上った。こうした客待ち行為は売春防止法違反に当たり、6月以下の懲役または1万円以下の罰金を科される。
  コリアンタウンとして有名な新大久保は、国際色が非常に豊かでカオスな街。コロナ前は中華系、韓国系、ベトナム系などの多くの留学生が闊歩していたが、コロナ騒動で人数が減った。新大久保に立つ女性のほとんどが、ホストやメンズ地下アイドルなどにハマっている。スポット(通称)通りごとに特徴が異なる。
 セブン通り(百人町1丁目6-18)
 遭遇頻度 ★★★☆☆
 年齢 20代~30代前半
 ルックス ★★★☆☆
 危険度 ★★★★☆
 特徴 アジア的形成美人が多い。スリなどが潜んでいる。
 ファミマ通り(百人町1丁目3-14)
 遭遇頻度 ★★★★☆
 年齢 20代~50代前半
 ルックス ★★★☆☆
 危険度 ★★★★☆
 特徴 ニューハーフや中国人が多い。40~50代の女性も居る。
 かじか通り(百人町1丁目7-23)
 遭遇頻度 ★★★★☆
 年齢 20代~30代前半
 ルックス ★★★☆☆
 危険度 ★★★★☆
 特徴 南米人や西洋人が多く、夜に出没。
 イケメン通り(大久保1丁目)
 遭遇頻度 ★★★★★
 年齢 20代~30代前半
 ルックス ★★★★★
 危険度 ★★★★☆
 特徴 韓国人の形成美人が多い。日本語での意思疎通ができずトラブルに発展する可能性も高い。
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