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“もう一人の陰の総理”今井総理秘書官に官房長官起用論も
 公職選挙法違反容疑で検察の捜査を受けている河井案里・参院議員と、夫で菅義偉官房長官の側近の河井克行・前法相が仮に起訴されることになれば、菅氏が責任を取り辞任する、といった説も永田町で囁かれているという。そうした中、首相官邸では“もう一人の影の総理”が存在感を強めている。
 安倍首相の“懐刀”と呼ばれる今井尚哉・総理首席秘書官だ。経産官僚から抜擢されて7年間務め、2018年からは「政策企画の総括担当」の総理補佐官を兼務して国政全般に睨みを利かせるポジションについた。
 今井氏は役人ながら官邸内で菅氏と権力を二分する実力者として知られるが、これまでは互いに牽制しながら、菅氏は危機管理と内政全般を担当し、今井氏は外交と経済政策を首相にアドバイスするなど役割を分担してきた。
 だが、菅氏の力が衰えると、代わって今井氏の力が増大。官邸の官僚たちも、今や菅氏より今井氏の顔色をうかがうようになっているという。
 「菅官房長官も今井秘書官も官邸で安倍首相を支える立場ですが、一番の違いは“安倍愛”でしょう。不祥事対応にしても、菅官房長官は“政権を守る”ことを考えるが、今井秘書官は“安倍さんを守る”ことを優先する。そのため2人は衝突を繰り返してきた」(官邸関係者)
 桜を見る会問題でもぶつかった。
 「今井氏は総理本人に釈明会見をさせ、“これで火消しできる”といっていたが、菅官房長官は“なぜ、こんなタイミングで総理に会見させるんだ”と批判していた。案の定、火消しどころか批判が強まった。菅さんにとって、安倍晋三を守るというスタンスで取り組まなければならない桜を見る会の対応は精神的に辛いのが見ていてわかる。会見もミスが多い。総理はそれを察知して、最近は自分を守ってくれる今井氏の言ばかり用いて菅さんをあまり信用していないようです」(同前)
 そんな今井氏にとって“目の上のたんこぶ”である菅氏が辞任すれば、自分が表舞台に立つチャンスが巡ってくる。官邸内でも、今井氏の後継官房長官就任説が急浮上している。
 「菅官房長官は安倍首相の尻拭いばかりさせられ、“いい加減にしてほしい”という意識でしょう。国会が終わればいつ辞任してもおかしくないが、問題は後任人事です。安倍首相のお友達の顔ぶれを見ても、菅氏のように役人に睨みを利かせ、政権を纏めていく手腕を持つ人材は自民党内に見当たらない。その点、菅氏と並んで外交も内政も実質的に切り盛りしてきた今井秘書官にはその能力はあるとみていい」(政治評論家木下厚氏)
 過去にも、国会議員ではない官房長官が起用された例がある。第二次吉田内閣で運輸事務次官から非議員のまま官房長官に抜擢されたのが、安倍首相の大叔父、佐藤栄作元首相だった。佐藤氏はその後、政界に進出した。
 「東京五輪後には総選挙が政治日程に上ってくる。異例の人事ですが、菅氏が辞任すれば総選挙までの“つなぎの官房長官”として今井氏の起用はありうる」(同前)
 菅辞任説の背後にはこうした思惑もあるようだ。
 「政権のスポークスマンを務める菅長官は、テレビの影響力の大きさを熟知しています。朝食会では、5時半起きで新聞とテレビをチェックした秘書官から報告を受け、テレビに出ているコメンテーターらと連日会食する。その際は『先生のおっしゃる通りです』などと下手に出てプライドをくすぐるので、コメンテーターらも悪い気はしない。メディア支配の手法が実に巧妙なんです」(政治部記者)
 この菅とともにメディア支配の役割を担うのが、第1次政権時代からの「安倍の懐刀」政務担当の首相秘書官、今井尚哉。NHK解説委員の岩田明子ら、お気に入りの記者を露骨に贔屓する一方、意に染まない番記者を恫喝や無視。優等生揃いの番記者は怖気づき、今井の掌の上で踊る。菅とは一味違う「恐怖による支配」である。
 「育ちの良い安倍首相と、キャリア官僚の今井秘書官は、学歴が高く礼儀正しい記者がお気に入り。逆に地方議員からの叩き上げで苦労人の菅長官は、エリート臭の強い記者や女性記者が苦手。『特定の女性記者に甘い』と指弾されないよう用心しているのです。さすがに官邸クラブから不満が上がり、最近は各社の女性記者が菅長官を囲む会合が持たれるようになりました」(同前)
 1985年10月の『ニュースステーション』放送開始以来一貫して歴代自民党政権に批判的な論調を展開してきたテレビ朝日は、「反自民連立政権成立」を目指す偏向報道が問題視された椿事件 (注) もあって、自民党政権との関係は長年冷え切っていた。
 第1次安倍政権(2006年9月~07年8月)下の官邸記者クラブで6年間勤めた後、2010年7月に異動した報ステから、2013年7月に政治部復帰した吉野真太郎(1979年生。東大経済学部卒。2003年4月テレビ朝日入社)は、政治部キャップとして5人の部下を統轄しながら、関係改善に取り組む。2017年5月24日に行われた安倍首相とテレ朝会長兼CEO早河洋との会食にも、吉野は、取締役報道局長篠塚浩や政治部長伊井忠義とともに陪席した。
 吉野と同期の小西弘哲は、菅番記者時代に懇意になった菅最側近私設秘書と結婚した。2018年7月から平河クラブキャップを務める。
 「お調子者で大の競馬好きですが、菅長官は優等生タイプの記者を好まない。長年付き従ってくれた女性秘書が結婚を望めば、止める理由はありません。『小西の前で安倍政権批判はタブー。たちどころに菅長官に伝わる』というのが、昨今の政治部記者の常識です」(民放キー局政治部記者)
 安倍と今井の後ろ盾を持つ吉野と、ポスト安倍の有力候補に躍り出た菅と家族同然の付き合いをする小西。部長の伊井さえ、もはや2人には何も言えず、舵取りを失ったテレ朝政治部は、危機的状況にあるという。
(注) 1993年6月の衆議院解散(嘘つき解散)後、7月18日に第40回衆議院議員総選挙が行われ、与党自由民主党が解散前の議席数を維持したものの過半数を割り、非自民で構成される細川連立政権が誕生。自民党は結党以来初めて野党に転落した。
 9月21日、日本民間放送連盟の第6回放送番組調査会でテレビ朝日報道局長椿貞良が述べたとされる発言
「ニュースステーションに圧力をかけ続けてきた自民党守旧派は許せない…小沢一郎氏のけじめをことさらに追及する必要はない。今は自民党政権の存続を絶対に阻止して、なんでもよいから反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようではないか…日本共産党に意見表明の機会を与えることは、かえってフェアネスではない」との方針で局内をまとめた

 に加え、

梶山静六幹事長、佐藤孝行総務会長のツーショットを報道するだけで視聴者に悪代官の印象を与え、自民党のイメージダウンになった…羽田外相=誠実、細川首相=ノーブル、武村官房長官 = ムーミンパパのキャラクター(なので視聴者によい印象を与えられた)
旨の発言も漏れ伝えられている。
 総選挙後、細川内閣支持率の高さを見た加藤紘一が「ウッチャンナンチャンならぬ6チャン(TBS)10チャン(テレビ朝日)の影響だな」とコメントし、非自民政権成立に報道機関が大きな力を持っていたことを暗示している。
 10月13日、産経新聞が朝刊一面で椿発言を報道、各界に大きな波紋を広げる。これを受けて郵政省放送行政局長の江川晃正が緊急記者会見で、放送法に違反する事実があれば電波法第76条に基づく無線局運用停止もありうることを示唆、自民党・共産党は徹底追及の姿勢を明確にする。直後に椿は取締役と報道局長を解任されている。10月25日、衆議院が椿を証人喚問。そのなかで椿は民放連会合での軽率な発言を陳謝したが、社内への報道内容の具体的な指示については一貫して否定。あくまで偏向報道は行なっていないとしている。
 翌年8月29日、テレビ朝日は内部調査の結果を郵政省に報告した。このなかでテレビ朝日は、特定の政党を支援する報道を行うための具体的な指示は出ていない旨を改めて強調。この報告を受け郵政省はテレビ朝日に対する免許取消し等の措置は見送り、「役職員の人事管理等を含む経営管理の面で問題があった」として厳重注意する旨の行政指導を行うにとどめた。9月4日、テレビ朝日は一連の事件を整理した特別番組を放送した。
 1998年、郵政省はテレビ朝日への再免許の際に、一連の事件を受けて、政治的公平性に細心の注意を払うよう条件を付した。
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