斎藤健法相は、日本で生まれ育った在留資格のない外国人の子供について、「親に国内での重大な犯罪歴がないなど一定の条件を満たせば『在留特別許可』を与え、滞在を認める」との方針を発表した。
 まず、「不法入国」や「不法滞在」はあくまで「不法行為=犯罪」であることを確認したい。犯罪に対して日本政府が厳正かつ公正な処罰を行うことは、日本国民の安心・安全を守るために必要不可欠だ。法律に則った手続きによる「移民」とは全く異なる。
 法相裁量による在留特別許可に関する「子供に罪はない…今回限り…法律を杓子定規に解釈するのではなく愛情をもって接することも必要」というような説明に納得できるだろうか?
 裁量措置が前例となってしまえば、「子供だけは日本に在留」するための家族ぐるみの不法入国を誘発することになりかねないし、「親子を引き離すのは非人道的」だから親の残留も認めるということになってしまうのではないだろうか。
 合法的な「移民」についてもよく考えなければならない。自宅に誰かを招待するときには、仲良くできる人物であるのと同時に、「わが家のルール」もきちんと守ってもらうことが必要だ。その点で「安い労働力」という認識のみで行われる外国人労働者や移民の大量受け入れは大変危険だ。「わが家」に入ってしまってからでは、日本人は「出て行ってくれ」となかなか言えず問題が深刻化する。
 そもそも介護・福祉・建築・建設など日本人の労働力の確保が難しい分野を「安い外国人労働力」で賄おうという考え方が間違っている。ほとんどの場合、人材が不足しているのは「仕事の内容に対して待遇が悪い」ブラック企業を温存する力が働いているからだ。労働条件を改善すれば、日本人だけでも人材不足は解消するはずだ。
 例えば、現在の給与を倍にしてみたらどうであろうか。日本国民の所得向上に寄与し、経済全体も活性化するだろう。
 日本人労働者の待遇を改善することには別のメリットもある。高度成長期には「金の卵」という言葉が生まれた。中学卒業者で小売・飲食店や工場などで単純労働を担う人々が極度に不足していたということだ。
 同時期の欧米は「安くて便利な外国人労働者」を大量に受け入れて労働力不足を解決した。一方、日本では自動化や省力化で乗り切った。そのおかげで、製造業の自動化技術が大躍進した。
 今回も日本の労働者の待遇改善は、自動化を始めとする企業努力を促すことになる。自動化と深く関連するセンサー市場や産業用ロボット市場の日本の世界シェアは過半数とされる。最近では飲食店でもタッチパネルの注文や配膳ロボットが普及してきた。無人チェックインのホテルも見かける。建築の世界でも3Dプリンターで住宅が製造される時代に入ってきている。
 古代の日本は渡来人の力を借り、明治期にはお雇い外国人らによって発展してきたが、彼らは今でいう「高度人材」だ。外国人労働者を大量に受け入れた欧米の移民問題の深刻さを考えれば、日本がどのような選択をすべきかは明らかだ。
 世の中では「移民」と「犯罪者」が混同されている。「不法入国・滞在」はその行為自体が「犯罪」だ。法律上の正式な手続きを経て日本に居住する合法的な「移民」とは根本的に違う存在だ。
 日本に滞在・居住する「外国人」を語るときに、この「区別」を明確にすることはとても重要と考える。
 例えば、「日本人」は素晴らしい。多くの人々が情愛に満ち礼節をわきまえている。だが、とても悲しいことに、その「日本人」の中にも卑劣な犯罪者が存在するのは事実だ。そのような犯罪者に対して日本政府が厳正かつ公正な処罰を行うことは、日本国民の「安心・安全」を守るために必要不可欠だ。政府が犯罪に対する抑制策を怠ることは、国民に対する背信行為といえよう。
 8月4日、斎藤健法相の裁量で「日本で生まれ育った在留資格のない外国人の子どもについて、親に国内での重大な犯罪歴がないなど一定の条件を満たせば『在留特別許可』を与え、滞在を認める」との方針を発表した。その際の説明の問題点については前述したが、外国人に対して「温情」をもって接した結果、日本国民の利益を損ない被害が発生することになるなら大問題だ。
 例えば、厚生労働省HPにおいて「5 生活保護における外国人の取扱いについて」という記述がある。
 その冒頭で、「『1.憲法と生活保護との関係』 生活保護制度は、生存権を保障する憲法第25条を根源とするものであるが、憲法第25条は『すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』と規定していることから、生活保護法も『日本国民のみ』を対象としている」と明示されている。
 日本経済新聞2014年7月18日「永住外国人の生活保護認めず 最高裁が初判断」との判決もある。
 しかし、9年前に最高裁判決が出されたにも関わらず、「国際道義上、人道上の観点から」、行政措置として、「行政機関の裁量」で「一定の外国人への準用」が未だに行われている。一方で本来憲法によって「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する日本国民」に対しては「塩対応」だ。
 1月23日公開「減税で滅んだ国家はない、増税は国家衰退のサインだ」4ページ目「無駄な補助金も同様だ」でも触れた、「護られなかった者たちへ」で描かれているように、救済すべき「日本国民」は今でも冷遇されたままだ。
 また、前記記事で述べたように、救済すべき日本国民から「ピンハネ」し、「食い物」にする組織もほとんど放置されている。
 そのような状況の中で、「日本国民」の救済をないがしろにして「外国人優遇」を続けているのが、現在の日本政府なのだ。
 合法的な「移民・外国人労働者」も多くの問題を孕んでいる。
 技能実習生は、法律で定められた手続きを踏んでいるが、実態は「実習生」などではなく、「安くて便利で使い捨て出来る低賃金外国人労働者」であるといえる。
 実際、MBS NEWS 2022年11月4日「ベトナム人の犯罪急増『技能実習の闇』...毎年五千人前後が失踪 保護活動者が『モグラさん』と呼ぶ人々の犯罪の根源にある厳しい現実」のような状況が伝えられる。
 世間で「移民・外国人労働者」の必要性が語られるとき、必ず話題に上がるのが「日本人の人材不足」だ。だが、「日本人が集まらない理由」が真剣に論じられることは無い。
 建設、建築、介護、福祉、飲食、サービスを始めとする業種において、日本人の採用が困難な理由は概ね「労働条件に対して待遇が悪い」ことにある。
 人材が足りないのであれば、待遇改善、給与引き上げで対応すべきなのに、「安い外国人労働者」をかき集めて経営を行うのは明らかに「ブラック企業」だ。
 企業経営者、金融トレーダー、IT技術者等、高給取りとされる職種に比べて「国民生活に必要不可欠」な介護・福祉関係を始めとする職業の賃金はあまりにも安すぎる。
 例えば、給与を2倍・3倍に引き上げてもよいのでは無いかと思う。「そんな無茶な!」という意見があるかもしれないが、それぞれの職種の給与は「労働生産性」と大いに関りがある。
 労働生産性を上げれば、介護、福祉、建設、飲食などの現場の人々が千万円プレイヤーになることも十分可能だ。その事実は、日本の過去の歴史が証明している。
 まず、「日本では賃金が高いから国際競争に負ける」と叫んで、製造業が海外移転した結果どうなっただろうか? むしろ、日本の製造業を中心とする産業の海外流出によって「失われた30年」が生じたのではないだろうか?
 実際、ものすごい勢いで企業の海外進出が進んだのに、日本人の給与は30年間上がらなかった。むしろ社会保険料などが増えたことにより、実質所得は下がったといえる。
 過去30年間に日本政府や企業が行うべきだったのは、日本産業の効率化を図り「人件費」に大きく左右されないビジネスモデルを構築することであったはずだ。そのビジネスモデルによって生産性が向上すれば、日本人が喜んで働けるだけの十分な賃金を提供しながら、国内の産業を発展させることができたと考えられる。
 我々は「失われた30年」の原因を、日本内外の「外国人労働者」の問題も含めてよく考えなおすべきだ。海外の「安くて便利な労働者」が国内の「日本人労働者」に与えた影響が余りにも軽視されている。
 結局、「安くて便利な外国人」を手に入れるための移民政策は「工場海外移転」と同じやり方だ。ブラック企業の経営者が儲かっても、「日本国民」が疲弊する。
 しかも、移民労働者は工場の海外移転の場合と違って「社会的コスト」を負担しなければならない。
 ロイター7月29日「アングル:移民受け入れ拡大のカナダ、経済繁栄は『蜃気楼』か」記事が興味深い。
 移民を受け入れるのであれば、交通機関、住宅、医療面での負担増大、さらには場合によっては「治安コスト」の負担も真剣に検討すべきだ。
 前記記事最後において、ローゼンバーグ氏は、「カナダ経済は1人当たりで見ると横ばい状態だ」と述べた上で、移民による人口増加によって「経済の繁栄という蜃気楼を作り出すことはできるが、結局は蜃気楼にすぎない」と鋭い指摘をしている。
 また戦後、中卒者が「金の卵」と呼ばれた時代の人手不足を、日本はロボット化・自動化で乗り切った。
 その詳細は、7月24日公開「IT革命の次は『自動化革命』、少子高齢化=生産年齢人口減少に立ち向かえる日本の技術」冒頭「中卒が金の卵であった時代」で述べた。
 現在の人手不足は、幅広い分野に及ぶ。しかし、7月24日公開「(IT革命の次は『自動化革命』、少子高齢化=生産年齢人口減少に立ち向かえる日本の技術」、昨年8月13日公開「世界の生産年齢人口が減れば、日本のお家芸『自動化』に追い風が吹く」で述べたように、高度に発達した日本の自動化技術は様々な分野に応用が可能だ。
 8月15日公開「既存の住宅は建築の『製造業化』『DX化』で価値激減の運命にある」、昨年7月3日公開「『3Dプリンターの家』で高すぎる日本の住宅は激安時代へ?」、2月18日公開「ヤバすぎる『日本の農業』、じつは『3つの要素』を満たせば『一気に飛躍』する可能性を秘めていた…!」だけではなく、サービス業など多くの分野で「自動化革命」が進んでいる。
 何しろ日本は、自動化・ロボット化のコアである産業用ロボット・センサー市場で50%以上のシェアを誇るのだ。もちろん、工作機械やモーター分野などでの実力も圧倒的だ。
 歴史上、帰化人や明治期のお雇い外人などは日本の発展に寄与した。しかし、彼らは現在で言えば「高度人材」だ。決して「安くて便利な外国人労働者」ではなかったことについては、しっかりと考えるべきだ。
 かつての日本が移民労働者に頼らずに、自動化・省力化で乗り切ったのに対して、欧米は「安くて便利な外国人労働者」に頼った。その結果どうなったかは明らかだ。
 ロイター2013年5月26日「焦点:移民大国スウェーデン、暴動で露呈した『寛容政策』のひずみ」のように、すでに10年前にその問題点が報道されている。
 最近でも産経新聞7月2日「フランス、暴動と略奪やまず 10代の移民層の『反乱』 社会の分断浮き彫り」、読売新聞7月4日「フランス暴動から1週間、社会の分断浮き彫り…若い移民系の不満噴出」などの報道が相次いでいるが、これらは氷山の一角に過ぎない。
 また、米国も日本経済新聞8月5日「米NY市と首都、不法移民急増に苦慮 南部の州が移送」を始めとする大きな問題を抱えている。
 Japan Local Government Centre London の「英国の移民の歴史」は興味深い資料だ。
 英国の人口の14%が外国生まれで、ロンドンに至っては人口の35%を占めているという。日本の総人口に占める外国人の割合は2020年1月現在2.3%。
 ロンドンでも2011年に黒人男性が警察官に射殺されたことをきっかけで「イギリス暴動」が起こっているが、「英国の移民の歴史」記事中にある1958年のノッティンガム・ノッティングヒル暴動は65年も前に起こった。
 ところが、1945年に第2次世界大戦が終わるまでは、英国の人口における英国外出身者は3%未満と、割合としてはさほど大きくはなかったのだ。現在の日本の2.3%と比較しても大きな変わりはない。
 つまり、現在の日本は78年前の英国と同じ位置にいると言える。それから13年後にロンドンで大規模な暴動が起こっていることを考えれば、これからの「移民政策」は日本の将来を大きく左右するといえよう。当然「国民的議論」が必要だ。もちろん、その際には「外国人労働者や移民を受け入れる『治安を含めた社会的コスト』」も明示されなければならない。
 その点で、冒頭の斎藤健法相の裁量による「独善的行為」を国民は許してはならないと考える。
 大原浩 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」を連載中。
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