https://monqu.web.fc2.com/kyo_aniNhkJudgment.html
 令和3年3月16日に言い渡された京アニ放火NHK関与疑惑事件の判決は、NHKについての疑惑提示を禁ずるものである。「疑わしきは罰せず」を民事にまで拡張し、「疑わしきは口噤むべき」旨、主張している。「記事内容は一つの見解であり、その内容の正誤についての保証はいたしかねます」旨の断り書きを添えても、疑問の余地を赦さない強硬さは常軌を逸している。
 NHK関係者の行動が放火に影響を与えたか否か、証拠隠滅に及んだか否かの判断を全く為さず、関与及び証拠隠滅に関する証明義務を被告側に一方的に課する不公平さは、偏向報道と同じく、社会秩序を破壊する害悪判決である。
 「放送界と法曹界が日本を滅ぼす」と言われる所以である。
令和3年3月16日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和2年(ワ)第1522号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 令和3年1月8日
判決
主文
1 被告は、原告に対し、361万8880円及びこれに対する令和元年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、691万8880円及びこれに対する令和元年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、本判決確定後10日以内に、別紙謝罪目録記載のとおり、謝罪文書を交付せよ。
第2 事案の概要
 本件は、放送事業を営む法人である原告が、被告がその管理運営するウェブサイトにおいて原告及びその職員が放火事件に関与したことをうかがわせる記事を投稿するとともに、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれる140字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)において上記記事を引用する記事を投稿したことにより、原告の名誉が毀損されたと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償として691万8880円及びこれに対する不法行為の日(上記両記事を投稿した日)である令和元年7月26日から支払済みまでの改正前民法(平成29年法律第44号による改正前の民法をいう。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに名誉回復処分として謝罪文書の交付を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
⑴ 当事者及び関係者
ア 原告(略称「NHK」)は、放送法に基づき設立された法人であり、国内基幹放送等の業務を行っている。
イ 被告は、「life-hacking.net」というドメインのウェブサイト(以下「本件サイト」という。)及び本件サイトの宣伝等を行う「@Life hacker net」というツイッターアカウント(以下「本件ツイッターアカウント」という。)を管理運営していた(甲1、3、4~6)。
ウ 甲は、原告の職員であり、ディレクターの職にある者である。
⑵ 本件サイト及び本件ツイッターアカウント
ア 本件サイトは、「LH MAGAZINE 情報総合マガジン‐えるえいち‐」という名称で、独自記事とインターネット掲示板のまとめ記事を配信する情報配信サイトである。本件サイトは、編集長である被告及びその他3名の専属編集者と2名の非専属編集者で運営されていた。本件サイトは、アフィリエイトプログラムによる商品紹介、そのインセンティブによる広告収入により運営されており、本件サイトの1か月間の閲覧回数は平成28年12月時点で約120万回である。
イ 本件ツイッターアカウントは、「LH MAGAZINE」という名称で、本件サイトに新たな記事が掲載される都度、当該記事のタイトル(タイトル全文がそのまま転載される。)及び主な画像を掲載するとともに、本件サイトにおける当該記事へのハイパーリンク(参照先として当該記事のURLを設定すること)を付した記事が投稿(ツイート)されていた。本件ツイッターアカウントは、令和2年1月21日時点で6336人のフォロワーを有している。
(甲4、7の1・2)
⑶ 放火事件の発生
 令和元年7月18日、京都市伏見区のアニメ制作会社である京都アニメーション第1スタジオが放火され、多くの死傷者が出た事件(以下「本件放火事件」という。)が発生した(甲8)。
⑷ 被告による記事の投稿
ア 被告は、令和元年7月26日、本件サイトにおいて、別紙投稿記事目録記載の記事(以下「本件記事」という。)を匿名で投稿した。本件記事は、インターネット上の掲示板である「5ちゃんねる」(以下「元サイト」という。)に投稿された一部の記事(書き込み)が転載されて編集されたものである。本件記事は、同年8月9日時点で6万2068回閲覧された。
イ 被告は、本件記事を投稿した令和元年7月26日、本件ツイッターアカウントにおいて、本件記事のタイトル及び本件記事内の一部の画像を掲載するとともに、本件サイトにおける本件記事へのハイパーリンクを付した記事(以下「本件ツイート」という。)を匿名で投稿した(甲11)。
⑸ 被告による本件記事及び本件ツイートの削除並びに謝罪記事の掲載
ア 原告は、令和元年8月22日、被告に対し、本件記事の削除を求めたところ、被告は本件記事を一部修正したが、原告の納得は得られず、被告は、同年12月中旬頃、本件記事及び本件ツイートを削除した。
イ 原告は、令和2年1月10日、被告に対し、本件記事について、損害賠償、謝罪記事の掲載、本件記事と同様の記事を再度掲載することの禁止を求めた(乙1)。これを受けて、被告は、同月12日、本件サイトにおいて、別紙謝罪記事記載のとおりの謝罪記事(以下「本件謝罪記事」という。)を公表した
(甲22)。
2 争点
⑴ 原告の社会的評価の低下の有無(争点1)
⑵ 原告の損害(争点2)
⑶ 謝罪文書交付の要否(争点3)
3 争点に関する当事者の主張
⑴ 争点1(原告の社会的評価の低下の有無)について(原告の主張)
ア 本件記事について
 本件記事は、元サイトに投稿された一部の記事を転載して議論が繋がっているかのように編集し、元サイトとは別のタイトルを付けたものであり、一般の閲覧者の普通の注意と読み方をすると、原告及び甲が本件放火事件に関与しており、その関与を隠蔽するために、警察よりも先に遺留品を回収し、かつ、そこに指紋が残らないように軍手を用いたと受け取られるものであり、原告及び甲が現住建造物放火罪、殺人罪等に該当するような重大事件に関与し、さらに証拠隠滅罪に該当する行為をしたことを示唆するものであるから、本件記事は元サイトに投稿された記事とは別個に原告の社会的評価を大きく低下させるものである。
イ 本件ツイートについて
 本件ツイートは、本件記事とは独立して公衆に送信されたものであり、一般の閲覧者の普通の注意と読み方をすると、本件記事と同様に、原告及び甲が本件放火事件に関与しており、その関与を隠蔽するために、警察よりも先に遺留品を回収し、かつ、そこに指紋が残らないように軍手を用いたと受け取られるものであるから、本件ツイートは本件記事とは別個に原告の社会的評価を大きく低下させるものである。
(被告の主張)
 本件記事及び本件ツイートは、元サイトに投稿された一部の記事を転載したものにすぎない(なお、そのうち静止画像については、元々第三者がブログに掲載した静止画像が元サイトに転載され、本件記事はそれを更に転載したものにすぎない。)から、被告が新たな情報を公表したものではない。したがって、本件記事及び本件ツイートは、新たに原告の社会的評価を低下させるものではない。
⑵ 争点2(原告の損害)について
(原告の主張)
ア 本件記事は、一般の個人のブログとは異なり、閲覧者からの信頼度が高いかのような外観を有する情報配信サイトである本件サイトにおいて投稿されたものであり、虚偽の書き込みやキャプションを加えたフェイク画像を掲載することで信ぴょう性を高めるよう作出されたものである。本件記事は、インターネットにより全世界に公開され、公開から約2週間で6万2068回の閲覧がされており、本件記事が掲載された本件サイトの1か月間の閲覧回数は約120万回であることを考慮すれば、本件記事は多くの者に閲覧され、実際に、本件記事が削除される直前の約1か月間は、インターネットの検索エンジンで「京アニ 放火」と検索した場合、その結果の上位に表示されていた。
 本件記事は、前記⑴の原告の主張アのとおり、原告の社会的評価を大きく低下させるものであり、原告が放送法に基づき設立された公共放送機関として、中立・公正であるべき立場に大きな疑念を生じさせるものである。また、原告は報道機関として本件放火事件を取材し報道する社会的使命があるところ、本件記事の投稿によって本件放火事件への関与が疑われ、本件放火事件の取材が困難な状況になったことなど多大な影響を受けた。
 これらのことを考慮すれば、本件記事による原告の無形損害は500万円を下らない。
イ 本件ツイートは、令和2年1月21日時点で6336人のフォロワーを有している本件ツイッターアカウントにより投稿されたものであり、本件ツイートが削除された現在においても、検索方法によってはインターネットの検索エンジンの結果にその一部が表示されていることから、本件ツイートが投稿された当時は、検索エンジンの結果の上位に表示されていたと考えられる。
 また、本件ツイートは、本件記事の全文を掲載するものではないが、本件ツイートの閲覧者が本件ツイートを引用した記事を投稿(リツイート)することで、本件記事及び本件ツイートの内容が無制限に拡散することになる。
 以上によれば、本件ツイートの閲覧者が本件記事と比較して少ないと考えられることを考慮しても、本件ツイートによる原告の無形損害は100万円を下らない。
ウ 原告は、被告による本件記事及び本件ツイートの投稿により、無形損害合計600万円の1割に相当する60万円の弁護士費用の損害を被った。
エ 原告は、本件記事の投稿者を特定するため、発信者情報開示請求の裁判手続を行ったところ、同手続は弁護士に委任しなければ十分な活動をすることが困難な事件類型であることから、これに要した調査費用31万8880円(実費として1万9510円、弁護士費用として29万9370円)は、被告による本件記事の投稿と相当因果関係のある損害である。
オ 以上のとおり、被告による本件記事及び本件ツイートの投稿により、原告は合計691万8880円の損害を被った。
(被告の主張)
ア 本件記事及び本件ツイートは誰もが投稿することができる信用性の低い元サイトに投稿された記事を転載したにすぎないものであること、本件記事及び本件ツイートの掲載期間が短いこと、本件記事について被告は本件サイトで「ただし、あくまで記事内容は一つの見解であり、その内容の正誤についての保証は致しかねます」と投稿記事が真実でない可能性を明示して免責を表明していること、被告は本件記事及び本件ツイートを削除し、本件サイトにおいて本件謝罪記事を公表したことから、原告に本件記事及び本件ツイートによる無形損害は発生していないし、仮に無形損害が発生しているとしてもその額はわずかである。
イ 原告が本件記事の投稿者を特定するために要した調査費用については、原告は国内放送や国際放送を行う大きな組織であり、企業内弁護士が所属する法務部を抱えていることから、外部の弁護士に対し発信者情報開示請求の裁判手続を委任する必要はないから、本件記事の投稿と原告が同裁判手続に要した弁護士費用29万9370円の支出との間に相当因果関係はない。
⑶ 争点3(謝罪文書交付の要否)について
(原告の主張)
 本件記事及び本件ツイートによる原告の社会的評価の低下は、金銭賠償のみによって回復するものではないから、本件記事及び本件ツイートの内容が真実に反することを明記した謝罪文書の交付請求が認められるべきである。
 本件謝罪記事には、本件記事及び本件ツイートについて、いかなる内容が虚偽であるか具体的な説明はないし、「NHK愛してる」という趣旨不明のタグを付けていることからして、不謹慎で訂正する意思や謝罪の意思が見受けられないことから、原告の名誉回復としては不十分である。
(被告の主張)
 前記⑵の被告の主張アのとおり、仮に原告に損害が発生しているとしてもわずかなものにすぎず、被告は既に本件謝罪記事を公表しているから、原告の名誉回復のために謝罪文書の交付までは不要である。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告の社会的評価の低下の有無)について
⑴ 一般の閲覧が可能なインターネット上の記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁、最高裁平成24年3月23日第二小法廷判決・裁判集民事240号149頁参照)。
⑵ これを本件についてみると、まず、本件記事の内容は、別紙投稿記事目録記載のとおりであり、「【京アニ放火】NHKの甲Dはなぜ放火犯の遺留品を回収したのか…しかも軍手 これが最大の謎」とのタイトルを付した上で、軍手をはめた人物が何かを拾い集めているように見える画像を、「警察よりも早く、事件の犯人の遺留品を回収するNHK取材クルー」との文言とともに添付し、かつ、「なんで警察来る前に勝手に回収してんだよ…NHK、なんで隠したん?…N○Kの依頼殺人じゃね?…滅多に全員集合しない京アニのメインスタッフを第一スタジオに集まる機会をNHKが作っていたという事…隠蔽すりゃ疑われるわな…NHK共犯説唱えられても仕方ないぞ」等と、原告が本件放火事件に関与していることを疑う趣旨のコメントを並べたものであることが認められる。
 かかる本件記事の内容について、一般の閲覧者の普通の注意と読み方をした場合、原告が本件放火事件に関与しており、その関与を隠蔽するために、原告の職員である甲が、本件放火事件の犯人の遺留品を警察に先んじて無断で回収し、しかもその際に指紋が残らないように軍手を用いたとの事実を摘示するものと解されるから、本件記事は、原告及び甲が、殺人罪、現住建造物放火罪に該当する重大犯罪が疑われる本件放火事件に関与した上に、それに関する証拠隠滅行為に及んだとの印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
⑶ また、本件ツイートは、前記事実関係のとおり、本件記事のタイトルである「【京アニ放火】NHKの甲Dはなぜ放火犯の遺留品を回収したのか…しかも軍手 これが最大の謎」との文言及び本件記事内の一部の画像を掲載するとともに、本件記事へのハイパーリンクを付したものであることが認められる。
 かかる本件ツイートの内容について、一般の閲覧者の普通の注意と読み方をした場合、原告の職員である甲が、本件放火事件の犯人の遺留品を回収し、その際に指紋が残らないように軍手を用いたとの事実を摘示するものと解されるから、本件ツイートは、本件記事への誘因となるにとどまらず、それ自体によって、原告の職員である甲が、本件放火事件に関与しており、それについての証拠隠滅行為に及んだとの印象を与えるものであり、甲の使用者である原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
⑷ これに対し、被告は、本件記事及び本件ツイートは、元サイトに投稿された一部の記事を転載したものにすぎない(なお、そのうち静止画像については、元々第三者がブログに掲載した静止画像が元サイトに転載され、本件記事はそれを更に転載したものにすぎない。)から、新たに原告の社会的評価を低下させるものではない旨主張する。
 しかしながら、証拠(甲1、甲10)によれば、本件記事は、元サイトのスレッド(一定の話題を定めて投稿を募る投稿枠)のタイトルが「【セキュリティドア】NHK京アニ取材の闇、ついに暴かれる。スタッフが到着した時には炎に包まれていた」であったところを、これとは異なる独自のタイトルを上記のとおり付した上で、上記のとおり、元サイトの一部の記事を取捨選択し、本件放火事件に対する原告の関与を疑う趣旨のコメントを、その議論がつながっているかのような順番に並べて編集するとともに、人物が何かを拾い集めているように見える画像を「警察よりも早く、事件の犯人の遺留品を回収するNHK取材クルー」との文言とともに掲載したものであることが認められるから、本件記事は元サイトの転載にとどまるものとはいえない(被告は、同画像及びこれに付された文言は第三者のブログからの転載の転載にすぎないとも主張するところ、このことはむしろ、元サイトでは同画像等へのハイパーリンクが設定された文字列が表示されているにすぎなかったのに対し、被告において本件記事の本文中に直接同画像等を掲載することによって、原告及び甲が本件放火事件に関与しているとの印象を強める編集を行ったものといえる。)。そうすると、本件記事は、それ自体によって原告の社会的評価を低下させる表現行為であるというべきである。
 また、本件ツイートについてみても、本件記事とは独立して不特定の者によって受信されることを目的に送信されたものであり、本件記事への誘因となるにとどまらず、それ自体によって原告の社会的評価を低下させるものであることは上記説示のとおりである。
 したがって、被告の上記主張は採用できない。
⑸ 以上によれば、被告が本件記事及び本件ツイートを投稿した行為(以下「本件投稿行為」という。)は、原告の名誉を毀損するものとして原告に対する不法行為を構成する。
 なお、原告及び甲が本件放火事件に関与したとの事実及び証拠隠滅行為に及んだとの事実はいずれも認められない。また、証拠(甲1、3、5、6)によれば、本件サイトには、「LH MAGAZINE の記事については、すべて編集責任者が執筆・チェックした上で投稿をしています。…ただし、あくまで記事内容は一つの見解であり、その内容の正誤についての保証はいたしかねます。また、本情報に基づいた結果被った被害などについて、弊社は一切責任を負わないこととします。」と記載されていることが認められるが、そのような記載のあることが、被告の原告に対する不法行為の成立の妨げとなるものではない
2 争点2(原告の損害)について
⑴ 前記事実関係及び前記説示のとおり、本件記事は、原告及び甲が、殺人罪、現住建造物放火罪に該当する重大犯罪が疑われる本件放火事件に関与した上に、それに関する証拠隠滅行為に及んだとの印象を与えるものであり、公共放送事業をその職責とし(放送法15条参照)、高い信頼性と中立性が要求される原告の立場を踏まえると、本件記事による原告の社会的評価の低下の程度は大きいというべきであること、本件記事の閲覧回数は本件記事の投稿から約2週間で6万2068回に上っており、本件記事が削除された令和元年12月中旬頃までの間に多くの者が本件記事を閲覧したと推認されること、他方において、本件サイトはインターネット上の掲示板等を情報源とするまとめ記事等を配信しているものであって、その外観上本件サイトにおける情報の信頼性が高いとまではいえないこと、被告が本件記事をその投稿から約5か月後には削除し、本件サイトにおいて本件謝罪記事を公表したこと等を考慮すると、被告が本件記事を投稿したことによる原告の無形損害は250万円と認めるのが相当である。
 また、本件ツイッターは、前記説示のとおり、本件記事の全文を表示するものではないが、そのタイトルを表示しており、それ自体によって原告の社会的評価を一定程度低下させるものであること、ツイッターの性質上、本件ツイートを閲覧した者が本件ツイートを引用した記事を投稿(リツイート)することによって、本件ツイート及びこれが引用する本件記事の内容が無制限に伝播する危険があること、他方において、本件ツイッターアカウントのフォロワー数は令和2年1月21日時点において6336人であり、本件ツイートが本件記事と比較して多くの者に閲覧されたとまではいえないこと、被告が令和元年12月中旬頃に本件記事と共に本件ツイートを削除したこと等を考慮すれば、被告が本件ツイートを投稿したことによる原告の無形損害は50万円と認めるのが相当である。
⑵ 本件投稿行為と相当因果関係のある本件訴訟の弁護士費用は、本件事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情を総合考慮すると、30万円が相当である。
 なお、原告に企業内弁護士が所属していたとしても、外部の弁護士の高い専門性に期待して訴訟委任をすることが不当であるとはいえないから、そのような事情は上記の判断を左右するものではない。この点は、後記⑶の判断においても同様である。
⑶ 原告が本件記事の投稿者を特定するために要した調査費用については、証拠(甲2の1・2、甲19、20)によれば、原告は弁護士に委任して、本件記事の投稿者を特定するために発信者情報開示請求の裁判を提起しており、その手続に要した費用は、実費として1万9510円、弁護士費用として29万9370円の合計31万8880円であると認められる。
 これらの調査費用は、発信者情報開示請求の裁判の認容判決に基づき、本件記事を匿名で投稿した発信者の氏名・名称、住所及びメールアドレスの開示を受けるために必要なものであり、上記裁判に要した弁護士費用は委任事務の内容や報酬金額に照らして相当であって、前記⑵で説示した本件訴訟の弁護士費用と重なるものではないから、その全額について本件投稿行為と相当因果関係のある損害と認められる。
⑷ 以上のとおり、被告による本件投稿行為と相当因果関係のある原告に生じた損害の額は、合計361万8880円と認められる。
3 争点3(謝罪文書交付の要否)について
 前記2⑴で説示したとおり、被告が本件記事及び本件ツイートを削除し、本件サイトにおいて本件謝罪記事を公表した経緯(本件謝罪記事が不謹慎で訂正する意思や謝罪の意思が見受けられないものであるとまでは認められない。)等を考慮すると、被告による本件投稿行為によって生じた原告の損害を回復するために、前記2⑷で説示した金額の金銭賠償に加えて、謝罪文書の交付まで命ずることが適当であるとは認められない。
第4 結論
 以上によれば、原告の被告に対する金銭請求は、361万8880円及びこれに対する不法行為の日である令和元年7月26日から支払済みまでの改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、原告の被告に対する謝罪文書の交付請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第25部
 裁判長裁判官古田孝夫
 裁判官島尻香織
 裁判官白井宏和
inserted by FC2 system