「現状でも首都圏だけではなく、人が集まる商業地域によっては最低賃金を大きく上回る時給を提示しないと人が採れない状況です。郊外の大型複合商業施設でもテナント各店で一律だった時給が崩れ始め、人が採れないテナントから徐々に時給が上昇し始めている。小売業や飲食業のような人手不足企業は外国人労働者を受け入れるしかないという、せっぱ詰まった状況にあるようだ。
そうした中でこれまで外国人採用に消極的だった業界や企業も単純労働を外国人労働者にやってもらおうという動きが加速しています。当社でも 3Y業務 と呼ぶ『やる人がいない、やりたくない、やらせたくない』業務を外国人に担ってもらおうという声も強くなっています。多少のリスクはあっても、もはや受け入れに 躊躇 している場合ではなく、早く受け入れ体制を整備し、外国人を雇用することによって事業を発展させていく企業が勝ち組になっていくのではないでしょうか」
「少子化による未曾有の雇用不足を解消するには、外国人労働者の受け入れは不可避でしょう。女性活用ですでにM字カーブは解消しつつありますが、大幅な雇用不足解消には結びつかない。シニア世代を活用するには意識改革が必要で時間がかかるし、AIなどのIT化がどこまで生産性向上に結びつくのか未知数です。日本のGDPを押し下げないためには外国人労働者受け入れは絶対にやらねばならない施策だと思っています。確かに国会では喫緊の人手不足解消策の議論しか行われず、中・長期的な外国人材の受け入れ方針が議論されることはなかった。両氏はともに外国人労働者の受け入れには賛成だが、単純労働の受け入れ施策には不安を隠さない。
だが、今の議論ではどういう外国人をどのように活用するのかという視点がまったく欠落しています。『日本人がやりたくない単純労働のみを外国人に押しつける』という視点に傾いていることは問題だと考えています」
「今回はどう見てもとりあえずの『人手不足解消の待ったなし制度』でしょう。政府も実際は不安なんでしょうが、いちいち細かい制度設計を行っていたらとても間に合わないので、リスクは飲み込んで導入を進めたとしか思えません。邪悪な欲望に変貌する経営者
実際は単純労働なのに技能実習生という言い方でごまかしたり、処遇面でも問題を引き起こしている。やはり仕事の内容と就業期間、就業場所、賃金などの労働条件契約書を個人と企業双方が合意の上で締結する、日本人と同一労働であれば同一賃金とするなど、制度上の抜け道や監督、監視のシステムが整備されていないとさまざまな問題が起こるでしょう」
「労働基準監督署が過重労働など問題のある企業に臨検に入るのは、従業員の告発があって動くケースが多い。遠く離れた祖国から出稼ぎに来ている外国人労働者がそこまで声を上げるとは思えません。一定数以上の外国人を雇用している企業には、厳格なルールの下で人権や処遇が不当に扱われないように監視するシステムなどの体制整備が急務だと思います。外国人の受け入れに熱心な企業ほど、次第に外国人に対する排他的な感情を生んでしまう可能性もある。以前取材した外国人の技能実習生を支援しているNPOの代表はこう語っていた。
逆に外国人労働者に認める権利や許可を悪用し、不正や搾取を行う人材ビジネス業者も現れるかもしれません。そうした行為を防がないと、欧州の移民問題のように人種問題や治安の悪化につながり、いずれ日本人に外国人に対する排他的な考えが広がっていくことが一番恐いですね」
「劣悪な住居環境や低賃金、長時間労働をしている実習生のケースを見て、皆さんひどい奴隷労働だと言いますが、問題は一つひとつのケースではなく構造そのものにある。経営者一人ひとりは皆悪いわけではなく、もともとは良い経営者さんも多い。外国人と共生する日本への転換を
にもかかわらず、なぜこんなひどいことをするのか。私は 邪悪な欲望に変貌する経営者 と呼んでいますが、次第に実習生に対しては何でもできると思い込んでしまう。どうせ帰国するし、3年間の使い捨てじゃないかとぞんざいに扱うようになる。帰国させるぞと脅すと皆びくっとする。ほとんどの人が借金を背負っているので、途中で帰るわけにはいかずに我慢する。使用者は益々増長し、労働者は不満が 鬱積 していく。そうした負の構造を生み出している制度そのものが問題なのです」
「外国人労働者の受け入れは日本の産業に不可避ですし、このタイミングで着手したことは評価していますが、具体的な制度設計に入っていないことはかなりリスクが高い。今の制度では外国人のブルーカラー層に日本人がやりたくない仕事をやらせるという域を出ません。技能実習生と同じ問題が再燃することになりかねません。髙橋氏は中・長期的な外国人の受け入れ戦略を描いている企業が少なく、人手不足企業にしても「上から必要だから何とかしろと丸投げされているだけの担当者がなんと多いことか」と嘆く。
むしろ並行して受け入れていくべきなのは、ホワイトカラーの外国人の活用です。アジアには日本で働きたいというホワイトカラー層が山ほどいますが、大企業をはじめ雇用不足を実感しておらず、うちの会社はなんとかなるという幻想を持っている企業が多い。ホワイトカラー層を取り込むことなく、ブルーカラー層を奴隷のように働かせる状態が続けば、それを見たホワイトカラー外国人は日本に魅力を感じなくなるでしょう」
「雇用不足対策として外国人の受け入れが避けられない以上、企業の健全な危機感の醸成と外国人をどのように受け入れていくかという議論は急務。外国人も日本人と同じ権利と義務を持つのは当然です。また、日本人の既得権益をどこまで守るのかというガイドラインの整理も重要です。今は日本人の足りない部分を外国人でカバーするという前提ですが、徐々に日本人と外国人を融和させるような文化を醸成するための法令などの整備も必要です。『日本人が住む日本』から『外国人と日本人が共生する日本』に導いていくことが政府の重要な役割だと思います」(髙橋氏)政府は外国人の受け入れに対して、民間企業と一体となった徹底的な啓蒙活動と法制度などの仕組みの整備をすべきだと言う。