左翼エリートの選民意識 2019年11月21日 索引
  カナダのトルドー首相は9月、2001年の高校教師時代に人種差別的な黒塗りの顔で変装をしていたとタイム誌に報じられた。首相は「とても後悔している」と謝罪した。
 コラム初回「 なぜ人は共産主義に騙され続けるのか 」で、ジョン・エドガー・フーヴァー初代FBI長官が、左翼(コミンテルン)を の5種類に分類していることを紹介した。このうちの最初の3つを中核層、4つ目を利権層、5つ目を浮動層と私は定義し、中核層の活動の動機は社会に対する憎しみ、利権層の動機は金、浮動層は正義(偽善)と虚栄心であると解説した。今回は、中核層についてもう少し詳しく分析したい。
 中核層は公然の党員、非公然の党員、フェロー・トラベラーズよりなる。コミンテルンやコミンフォルムが消滅した今、「党員」に相当するものは無いとの反論があるかもしれない。しかし、現在も形を変えてそれは存在し続けている。公然の党員は中国共産党や朝鮮労働党などの党員である。非公然の党員は、中国関係なら孔子学院関係者、北朝鮮関係ならチュチェ思想派である。日本は孔子学院にまだ無警戒だが、諸外国ではそのプロパガンダ機関としての機能が問題視されており、オーストラリアや米国では次々閉鎖されるに至っている(詳しくはClive Hamilton著”Silent Invasion: China’s Influence in Australia”やNewt Gingrich著”Trump vs. China”を参照)。チュチェ思想派については、篠原常一郎氏がその実態について広く発信しており、韓国でも注目されている(チュチェ思想派は韓国でも広く浸透している)。
 このように、日本を含む多くの国で、非公然の党員による工作活動は今でも活発に行われているが、その人員の絶対数は多くない。中核層で多数を占めるのは、フェロー・トラベラーズである。では、彼らはどういう人たちか。
 現在、フェロー・トラベラーズを構成する主要メンバーは高学歴の新興エリート層である。彼らは大きな資産のある家庭の出身ではないが、高学歴により高収入の職を得ており、経済的には豊かである。そのため、フランスにはシャンパン社会主義者、米国にはリムジンリベラルという言葉もある。(日本ではこれに相当する言葉が無かったが、経済評論家の上念司氏は「世田谷自然左翼」の呼称を提案している。)彼らのほとんどは、学校や職場環境の影響で、グローバリストの考えを持つ。
 吉松崇著「労働者の味方をやめた世界の左派政党」では、政治の対立軸をグローバリストとネイティビスト、所得再分配に熱心・冷淡(いわゆる左派と右派)の2軸に分け、既存政党が右も左もグローバリストのエリートが主導するようになった結果、国内の労働者層の味方がいなくなったと分析している。その空白を埋めるように登場したのが、米国のトランプ、英国のファラージ、フランスのルペンというわけである。実際、トランプの政策は底辺の労働者に大きく利するものとなっており、黒人の失業率は過去最低を記録している。表には出さないが、左翼エリートがトランプを憎む最大の理由はここにある。彼らは労働者階級にいい思いをさせたくないのである。
 高学歴者の多くは、本音の部分で労働者階級を馬鹿にしている。彼らは低学歴者に対する差別意識を大なり小なり持っている。そのことは、ネットの匿名言論空間を観察すればよく分かるだろう。私自身も学歴エリートの一人なので、そうした空気を肌身で感じてきた。受験戦争は、勉強ができるか否かが人間の価値を決めると錯覚させる魔力を持つ。私自身、そこから抜け出せたのは30歳を過ぎた頃だった。現実には、50歳を過ぎてもそこから抜け出せていない人は多くいる。
 左翼エリートは、しばしば新自由主義者を批判する。しかし、実はこの両者は高学歴エリートであり、グローバリストであり、選民意識の持ち主であるという点で共通している。両者とも、表向きには色々な理想を語るが、本音では他人を見下しており、自分さえよければいいという発想で物事を考えている。彼らはその高い地位により、社会的影響力のある発言権が与えられることが多いが、自国が破壊されたら外国に逃げるつもりでいるので、その発言内容は無責任なものであることが多い。
 これまで、私はフェロー・トラベラーズを左翼中核層の一部と位置付けてきたが、これは修正する必要があると最近感じている。彼らの動機は社会に対する憎しみに近いものはあるが、見下しと言う方がより正確である。さらに、彼らには利権層や浮動層とも重なる部分がある。左翼エリート層は裕福ではあるが、いわゆる成り上がりなので、金に対する執着や虚栄心も強い。このように、彼らは左翼のどの層とも共通する部分があるので、左翼運動に一体感を持たせる意味で非常に重要な役割を果たしていると見ることができる。
 以前のコラム「 ビッグデータが暴く自称リベラルの正体 」で、自称リベラルの白人たちが、実は黒人を見下していることを示すイェール大学の研究を紹介したが、最近、北米で左翼エリート層のもつ選民意識という裏の顔が暴かれる事例が相次いでいる。左翼政治家たちがブラックフェイスをした過去の写真が次々暴露されているのである。
 ブラックフェイスとは白人が顔を黒く塗って黒人の格好をすることで、差別的であるとして左翼が普段厳しく糾弾している行為である。ところが、米国ではバージニア州のノーサム知事(民主党)、カナダではトルドー首相のブラックフェイスの写真が見つかったのである。特に、トルドー首相は複数枚の写真が見つかり、そのうちの1枚は29歳のときの写真で、若気の至りとの言い訳はできないものだった。ところが、北米でもマスコミは左翼の味方なので大きな騒ぎにはならず、トルドー首相は先月の総選挙で議席は減らしたものの大敗を免れた。これが保守派の政治家だったならば、こういう結果にはならなかっただろう。
 一方、フェロー・トラベラーズの利益優先の姿勢を象徴するのが、米国のスポーツ界や映画界である。こうした業界では、しばしばスターが自ら人権派を装う。2016年、NFLのキャパニック選手が警察による黒人への暴力に抗議して、試合前の国歌斉唱で起立を拒否したことが話題になった。賛否両論はあったが、左派言論人の多くはキャパニックを支持し、彼はその後ナイキの広告にも起用された。その一方で、先月NBAヒューストン・ロケッツのモリーGMが香港の民主化運動を支持するツイートをしたところ、中国の猛反発を受けて米国内は大騒ぎになり、モリーGMと同チームのハーデン選手が謝罪するに至った。米国のメディアではNBAの中国ビジネスへの影響を懸念する声が多く取り上げられ、言論の自由を擁護したのは左派言論人ではなく保守派の政治家たちだった。
 映画界でもこれと同じことが起きている。ハリウッドでは、中国の圧力でシナリオを書き換えることが常態化している。彼らは中国での興行利益のためなら、表現の自由など平気で犠牲にする。これについても、左派言論人たちは全く問題視していない。このように、左翼エリートはお金になる人権問題には積極的だが、お金を失うリスクのある人権問題は触らない。つまり、彼らにとって人権は手段であって目的ではないのである。
 こうした左翼エリートの欺瞞が次々明らかになる中、なぜ彼らは安泰でいられるのか。今後もその安定した地位を守ることができるのか。
  米国の主要テレビ局(FOXを除く)も日本と同様に左傾化しており、連日トランプ大統領批判を繰り返している。しかし、米国の国民も徐々にテレビ局の言うことを信用しなくなっている。トランプが黒人の失業率を史上最低にまで下げたことで、彼らもメディアの欺瞞に気づき始めたのだ。最近のエマーソンによる世論調査では、黒人の有権者におけるトランプ大統領の支持率が34.5%に上昇している。2016年の大統領選において、黒人でトランプに投票した人は8%しかいなかったことを考えると、この数字は驚異的である。
 では、これまで黒人の失業率が高かったにもかかわらず、なぜ黒人は民主党に投票し続けてきたのか。黒人票が民主党に集まるようになったのはジョン・F・ケネディ大統領が公民権法を進めたのがきっかけである。しかし、その後の民主党政権の政策は、必ずしも黒人を幸せにするものではなかった。
 このことを論理的に指摘しているのがラリー・エルダー(Larry Elder)である。彼は1952年生まれの黒人弁護士で、長年ラジオ番組のホストを務めた経験を持つ。民主党の政策の問題は、過剰な福祉により家庭を崩壊させたことだと彼は言う。実際、1965年の段階で黒人の婚外子は25%だったが、2015年には73%に上昇している。なお、白人でもその間、婚外子は5%から25%に上昇している。これが貧困と犯罪を再生産させる原因だと彼は指摘する。オバマ前大統領も演説で引用している通り、父のいない子供は貧困に陥り犯罪に走る確率が5倍、学校で落第する確率が9倍、刑務所に入る確率が20倍高いというデータがある。
 では、なぜ離婚が増えたのか。その背景にリンドン・ジョンソン大統領(民主党)が1965年に始めた「貧困との戦い」プログラムがある。これにより、シングルマザーが政府から手厚い支援が受けられるようになり、男性が家庭に対する責任を安易に放棄するようになったのだ。ラリー・エルダーは、これを「女性が政府と結婚する」ようになったと表現する。実際、夫が失業したとき、公的支援を受けるためにソーシャルワーカーから離婚を勧められたというエピソードは、今も米国人のユーチューブ動画で時々紹介されているのを目にする。
 さらに言うと、手厚い福祉で貧困が減ったわけでもない。1949年の時点で米国の貧困率は34%だったが、1965年時点では17%にまで減っていた。その後、福祉のために多額の予算を使ったにもかかわらず、今に至るまで貧困率は全く減っていないのである。
 こうした民主党の問題を厳しく追及して、現在注目を浴びているのがキャンディス・オーウェンズ(Candace Owens)である。彼女は1989年生まれの黒人女性で、BLEXT(Black Exit from Democratic Party, 黒人の民主党からの脱出)運動の創始者である。これに先立つ類似した運動として、2018年6月に元民主党支持者でゲイの美容師ブランドン・ストラカ(Brandon Straka)が、極左化した民主党と訣別しようと訴えかけて始まった#WalkAway運動がある。
 キャンディス・オーウェンズの主張は、彼女が2017年8月に公開した「民主党の植民地から脱出する方法 (How to Escape the Democrat Plantation) 」と題した動画によくまとめられている。黒人は学校とメディアが発する偏った情報によって洗脳されており、1865年に黒人の肉体は奴隷制度から解放されたが、今はその精神が奴隷化されていると彼女は語る。だから、インターネットを使って自分で調べて自分で考える必要があると彼女は言う。この点は、日本も全く同じであると言えよう。
 歴史的には民主党は一貫して人種差別的で、上述のケネディ大統領による公民権法推進は例外であることを、彼女は具体的事例を挙げながら説明する。それを列挙してみよう。
・1900年までに22人の黒人の共和党員が米国連邦議会議員になったが、民主党は1935年まで黒人の議員がいなかった(ちなみに奴隷制度を廃止したリンカーン大統領も共和党員である)。
・ホワイトハウスで最初に上映された映画は”Klansman”(白人至上主義者KKKのメンバーのこと)で、それを上映したのはウッドロー・ウィルソン大統領(民主党)であった。KKKのメンバーも、その多くは民主党員だった。
・1954年のブラウン判決で、公立学校における白人と黒人の分離教育が違憲となった。1957年にアンカーソー州リトルロック市のリトルロック・セントラル高校の人種融合教育化が決定すると、同州知事のオーヴァル・フォーバス(民主党)は州兵を学校に送って黒人学生の登校を阻止した。そこで同市の要請に応じて、アイゼンハワー大統領(共和党)が国軍を派遣して黒人学生の登校を護衛した。
・1963年に公民権運動の一環で行われたハーミングハム運動で、ブル・コナー署長(民主党)が率いるバーミングハム警察は、黒人のデモ行進に対して高圧放水と警察犬を用いて制圧した。
 こうした歴史的事実は隠され、民主党が人種差別を解決したかのように米国の教科書やメディアは伝えるのである。
 私が現在最も注目している黒人言論人は、ユーチューバー(チャンネル登録者35万人)のアンソニー・ブライアン・ローガン(Anthony Brian Logan)である。彼も民主党支持からの転向組で、現在はトランプ大統領を強く支持している。彼がトランプを支持している理由は、経済政策に加えて、国境の壁建設に象徴される不法移民の取り締まり強化である。
 米国の民主党とそのシンパのメディアは、不法移民の取り締まりを人権問題や人種差別と結び付けて厳しく糾弾する。しかし、トランプを支持する人たちが取り締まりを求めているのは「不法」移民であって、合法的な移民を排斥しようとしているわけではない。にもかかわらず、たとえ黒人であってもトランプを支持する人に対しては人種差別主義者とレッテルを貼るのが米国の左翼である。
 実は、不法移民が大量に押し寄せて最も被害に遭うのは、ヒスパニックや黒人の米国市民である。不法移民の単純労働者が増えれば、ヒスパニックや黒人に多い単純労働者の賃金が低下したり、失業が増えたりする。治安も悪化して一般市民の多くが被害を受けるが、ゲーティッド・コミュニティ(壁で守られた街)に住むエリート層には全く影響はない。むしろ、単純労働の賃金低下は経営者にとっては得になる。
 左翼政治家の狙いは、福祉に頼らなければ生きていけない人の数を増やし、その票で選挙に勝つことである。だから、不法移民を大量に国内に流入させ、彼らに市民権を与えて自分たちに投票させたいのである。しかし、そうやって左翼政治家の「精神的奴隷」にされた人たちは、福祉を受ける人の数が増えていく以上、一人当たりの取り分は増えないので、個々人の生活はいつまで経っても改善しない。逆に、景気改善と不法移民流入阻止政策により、雇用が確保され福祉依存から脱却すれば、生活水準を向上させることができる。そのことに気づいた元民主党支持者が、左翼エリートに反旗を翻し始めているのである。こうした動きが今後どのくらい盛り上がるかが、来年の米国大統領選の勝敗を決する鍵になるだろう。
〔掛谷英紀:筑波大学システム情報系准教授。1993年東京大学理学部生物化学科卒業。1998年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。特定非営利活動法人言論責任保証協会代表理事。著書に『学問とは何か』(大学教育出版)、『学者のウソ』(ソフトバンク新書)、『「先見力」の授業』(かんき出版)など〕
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