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韓国 2020年5月6日から「社会的距離」政策緩和
  「日常が戻ってきた。韓国の素晴らしい防疫体制に世界は学べ」…との主張は正しいのだろうか。韓国観察者の鈴置高史氏が実態を解き明かす。
大邱を武漢と同列に扱う
鈴置:安倍晋三首相が「韓国の防疫の失敗を反面教師にしたい」との趣旨で発言しました。
 4月29日、 参議院の予算委員会 で白眞勲議員の「新型肺炎に関し、韓国とはどう協力するのか」との質問に対し、以下のように答弁したのです。
・韓国との関係におきましてもですね、新型コロナウイルス感染症についてはまず、武漢で、中国で多くの感染者が出て爆発的な感染拡大がありました。その後、韓国において大邱を中心に多くの感染者が出たのは事実であります。
・そのなかで当然、情報を共有していく、そのなかで彼らが今までの経験で持っている知見を共有していくことは、極めて今後の日本の対応にとっても有利なことであると私は思っています。
 「わが国は世界で一番、上手に新型肺炎を抑制した模範国」と韓国人は信じています。5月10日、文在寅大統領も 就任3周年特別演説 で「我々は防疫で世界を先導する国になっています。K防疫は世界標準になったのです」と国民に呼びかけるなど、国を挙げて有頂天です。
  白眞勲議員は「韓国の成功に学べ」と言いたかったようですが、安倍首相は大邱を武漢と同列に扱い、「韓国の失敗から学ぶ」と答えたのです。
安倍は白旗を掲げた
…韓国メディアは怒らなかったのですか?
鈴置:怒るどころか「ついに、安倍が韓国に白旗を掲げた」とのノリで報じました。ハンギョレの社説「 安倍首相、今になって『韓国と新型コロナ対応で協力』言及 」(5月1日、日本語版)が典型です。
 この記事は「大邱での医療崩壊」に安倍首相が言及した事実を無視しました。韓国紙、ことに政権に近い左派系紙にとって、医療崩壊は「なかったこと」になっているのです。ポイントを引用します。
・日本の安倍晋三首相が先月29日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)事態以後、初めて「韓国との協力」に言及した。参議院予算委員会で立憲民主党の白眞勲議員の質問に「韓国と引き続き新型コロナウイルス感染症対応において協力したい」、「韓国は隣国で重要な国」と返答した。
・安倍政権はこれまで韓国のCOVDI-19防疫の成功を無視し、韓国をこき下ろすことに汲々としていた。日本の政府とメディアは、事態の初期に自国の対応を自画自賛し、韓国が「医療崩壊」状況に陥ったと主張した。
医療崩壊は起きなかった
…確かに、「韓国は医療崩壊を起こしていない」との前提で書いています。
鈴置:だから、「韓国を他山の石に」との安倍発言も、「日本が韓国に助けを求めてきた」ことにしてしまったのです。ご丁寧に「安倍が助けを求められない理由」まで想像して書き込んでいます。
・東京五輪延期発表後、日本国内の感染者が急増する状況で、韓国政府は日本政府が要請すれば医療用品の支援を検討することができるとの立場を明らかにしたが、日本政府は助けを要請するのをはばかってきた。
・危機のたびに「嫌韓カード」で支持率を高めてきた安倍首相は、韓国に助けを要請する場合、保守支持層が反発するだろうという負担感を持っていたようだ。
…しかし、いくら何でも「あったこと」を「なかったこと」にしてしまうとは……。
鈴置:韓国の防疫体制も、韓国人の能力も世界一である…と威張りたい。でも、普通なら「医療崩壊が起きた」事実が邪魔になります。
 ところが韓国は、嘘でも大声で言えば本当にできる国です。そこで韓国メディアは「医療崩壊など起きていない」「医療崩壊説は日本のねつ造だ」と執拗に書くのです。
韓国の顔色見る日本の専門家
…日本の韓国専門家の中にも「韓国で医療崩壊などなかった」と主張する人がいます。
鈴置:韓国の空気の変化を読んで「なかった」と言い出したのでしょう。知り合いの韓国人の主張をそのまま受け売りする専門家が実に多い。韓国政府から様々の名目でカネをもらっている人もいます。
 世の中の人は専門家の発言を信じがちです。でも、研究対象と深い利害関係を持つからこそ、専門家は本当のことを言わないものなのです。
 「『医療崩壊』の定義が不明なので判断できない」と逃げる専門家もいます。医学の世界でしっかりとした定義はないようです。でも、大邱広域市とその周辺の慶尚北道で、2月中旬以降に起きた現象を調べれば「医療崩壊」と呼ぶほかありません。
 新型肺炎の患者で病床は埋まり、重篤な人も入院できずに自宅で死んでいく。一方、医師や看護師も新型肺炎に罹り、病院の機能がどんどん低下した。これが大邱の現実でした。
 大邱での感染爆発が確認されたのが2月19日。2週間もたたない3月1日までに、重篤な症状でありながら入院できず、自宅で亡くなった人が4人に達しました。
 朝鮮日報の「 症状がなくても陰圧病床…その間に重症の4人が入院もできずに死亡 」(3月2日、韓国語版)が報じています。
 3月1日に韓国政府は方針を転換。症状のない人や軽症の患者を新設の「生活療養センター」に移し、重症患者を病院に収容しようとしました。しかし、患者は増え続け、思うようにはいきませんでした。
 聯合ニュースの「 コロナ19で41人が死んだ大邱…医療システムが最大限作動せず 」(3月10日、韓国語版)が大邱市の発表を伝えています。以下です。
・3月9日午後5時現在で大邱市が確保した病院のベッドは2641床。一方、新型肺炎に感染したと確認された人は5663人。
・そのうち、2198人が病院に入院し、1888人が10か所の生活療養センターに収容された。自宅で待機する人は1422人。重症で入院が必要な304人もこれに含まれる。
医師も多忙で卒倒、感染して死亡
…「医療システムが最大限作動せず」とはおとなしい見出しですね。
鈴置:重症なのに入院できない人が304人もいるのですから「医療崩壊」と書くところでしょう。聯合ニュースの資本は間接的な形ながら韓国政府が所有しています。文在寅政権が嫌がる見出しは立てにくかったと思われます。
 大邱では重症患者が入院できなかっただけではありません。医療関係者が新型肺炎に感染し、病院がマヒするという意味での「医療崩壊」も起きました。
 韓国政府の中央防疫対策本部は3月28日、「3月24日午前0時までに医療関係の感染者数は121人。すべて大邱で発生し、医師が14人、看護師と看護助手はそれぞれ56人、51人」と発表しました。
 news1の「 『コロナ19』に感染した大邱の医療陣、34人が新天地関係者…感染経路の『糸口』か 」(3月28日、韓国語版)が伝えました。
 うち1人の医師は4月3日に亡くなりました。武漢と同じように、韓国でも新型肺炎によって医療関係者から犠牲が出たのです。
 新型肺炎の患者116人を収容する慶尚北道・浦項市の病院では、2月末に百人中16人の看護師が退職したため、病棟の半分を閉めざるを得ませんでした。
 朝鮮日報の「 患者を診る医師も卒倒…看護師『使命感だけでは持たない』 」(3月2日、韓国語版)によると、防護服を着てケアするという重労働のうえ清掃担当者の役割も振られ、看護師は疲れ果てていました。病院に泊まり込みを余儀なくされたため、自宅に戻って子供の面倒も見られなくなっていたのです。
 大邱や慶尚北道では新型肺炎を担当しない病院も「崩壊」を警戒。その余波で、3月18日に17歳の高校生が肺炎で亡くなりました。同月12日に発症し、すぐに病院で診察を受けましたが、新型肺炎の疑いがあるとの理由で入院を拒否されたのです。
 母親の嘆きを報じた朝鮮日報の「 死亡した大邱の17歳、コロナは最終的に陰性判定…最初に行った病院はコロナの疑いで入院させず 」(3月20日、韓国語版)は読者の涙を誘いました。
クラスターを見落とし、あわてて大量検査
…日本でも医師・看護師が新型肺炎に感染し、閉鎖する病院が相次ぎます。
鈴置:その際は患者をほかの病院に移しますが、大邱のように、同時に多数の病院の機能が落ちると移す先がなくなり、重症者まで自宅に待機させることになってしまうのです。安倍首相が大邱を他山の石としたいと発言したのも当然です。
…でも、韓国には見習うべきところもありませんか?検査体制の充実とか……。
鈴置:韓国のPCR検査体制は素晴らしい…というのは神話です。「積極的に大量検査し、感染者を発見した」と日本でも称賛されていますが、大いなる誤解です。
 「感染の疑いのある人が大量に発生したので、大量に検査せざるを得なかった」というのが実態です。巨大なクラスター(感染者集団)の出現を許したツケを払わされたのです。
 巨大クラスターの母体となったのは、信者数が約21万人の新天地イエス教会というキリスト教系の新興宗教。2千人が集まった大邱の祈祷集会が発生源でした。
 この2千人は全員を検査しました。大邱の集会に参加しなくとも幼稚園、病院などで働く全国の信者はすべて検査対象に。多くの地方自治体が、地元の信者はすべて調査。症状のある人にはもちろん検査しました。
今、大邱は本当に地獄です
…死に物狂いで検査したわけですね。
鈴置:そうです。しかし新天地対策に注力するあまり、信者以外の患者は見捨てられました。
 韓国では青瓦台にネットで請願する仕組みがあります。2月下旬以降、大邱の市民からの「助けてくれ」との請願が殺到しました。そのひとつが「 大邱市民です 今は怒り、悲しみ、苦しんでいます 」(請願開始日=3月2日)です。
 熱と咳があり、そして糖尿と血圧の持病があっても「新天地と関係なく、海外旅行にもいっていないから」と保健所から検査を拒否され、自宅待機を余儀なくされた男性が怒りをぶつけています。
 熱が39度になった後、ようやく検査を受けることがでました。陽性が判明したのですが、それでも自宅での療養を申し渡されました。病床が絶対的に不足していたのです。
 この請願は麗澤大学・西岡力教授が国家基本問題研究所のサイト「国基研ろんだん」の「 【韓国情勢】誤認されている韓国のコロナ検査の実態 」で日本語に全訳しています。
 「今、大邱は本当に地獄です」「マスク一つ満足に買えない中、大邱地域住民は困難のなか耐えているということを大韓民国国民にお伝えします」という言葉で結ばれています。
「新天地」に偏重した検査
…検査は「新天地」偏重だったのですね。
鈴置:その通りです。国民からの批判を受け、政府も姿勢を変えました。文在寅政権と近い、左派系紙のハンギョレが背景を解説しています。「 韓国保健当局、検診の優先順位を大邱新天地から高リスク群の市民に変更 」(3月4日、日本語版)です。
・韓国政府が、新天地大邱教会ではなく高リスク群の大邱市民たちに対して新型コロナウイルス感染症の診断検査を優先的に実施する方針を決めた。
・症状もない、若くて健康な信者まで全数調査の対象にし、基礎疾患を有する高リスク群患者に対する検査が後回しになっているという指摘を反映したものだ。
・3日、中央防疫対策本部が致死率を分析した資料(午後2時基準)によると、全体平均は0・6%だが、70代は4・0%、80歳以上は5・4%で、高齢者の致死率がはるかに高い。
 「高リスク群」とは病院機能を伴う高齢者の介護施設「療養病院」を指します。政府の方針変更の下、大邱では療養病院の関係者も全数検査に踏み切りました。
 検査の結果、3万2413人中、0・7%に相当する224人が陽性だったと中央防疫対策本部が 3月24日のブリーフ で発表しています。
責任転嫁狙い、やみくもに検査
…なぜ、「新天地」偏重だったのでしょうか。
鈴置:責任転嫁が目的と保守は文在寅政権を攻撃しています。韓国政府は中国からの入国者に門戸を開き続けたため、国民から不満が高まっていました(「 新型肺炎で『文在寅』弾劾 “習近平に忖度するな、中国からの入国を全面禁止せよ”と保守 」参照)。
 文在寅政権は「感染拡大は新天地が原因」とのイメージを広めれば批判をかわせると考え、この新興宗教の信者ばかりを調べた…と保守は見なしました。
 確かに、そう疑われても仕方がない。大邱の信者は感染者と濃厚接触の可能性が高いので、全員を検査してもおかしくありません。しかし、同じ新興宗教に属しているというだけで他の地域に住む人まで含め全信者を調べ、疑いのある人はすべて検査したのです。
 保守系紙の朝鮮日報がそこを突きました。「 朴元淳・李在明の新天地叩き、空振りに終わる 」(3月19日、韓国語版)です。
 朴元淳氏はソウル市長、李在明氏はソウルを取り巻く京畿道の知事。いずれも左派で、次の大統領の座を狙っているとされています。
 ソウル市と京畿道は地元の新天地信者、7万人を対象に全数調査を実施。うち、症状のある人2470人を検査したものの、あらたに見つけた陽性者は2人に留まりました。7万人の0・0028%です。そこで朝鮮日報は以下のように攻撃したのです。
・朴元淳市長と李在明知事はコロナ拡散という事態に、新天地責任論を強く提議。強制的な調査や殺人罪での告発など様々の措置を競争するかのように採ってきた。
・しかし、結局はソウルと京畿道の新天地信者とコロナとの関連付けの立証に失敗した。2人が政治的に無理筋の手を打ったとの批判が高まる見通しだ。
・ソウル・京畿道の新天地信者の症状のある人2470人への検体検査費用(1件当たり約16万ウォン=1万4千円)は自治体と国が負担する。約4億ウォン(3500万円)である。
部下の検査を禁じた保健所課長
…なんやかんやで、いつの間にか検査数が増えていったのですね。
鈴置:その通りです。今になって韓国人が誇るのとは完全に異なり、積極的に検査する方式を国の戦略として採用していたわけではないのです。
 大邱の巨大なクラスターの発生を見落としたため、すさまじい感染爆発が起きてしまった。そこであわてて大量の検査を実施。これに加え政治的な対立が「余計な」検査を増やした…のが実情です。
 韓国も初めは「新型肺炎で不要な検査はしない」方針だったことを示すエピソードがあります。慶尚北道・尚州市の保健所職員2人が自らの感染を懸念して検体を採取したところ、上司の課長がそれを廃棄させるという「事件」が発生しました。
 NEWSISの「 尚州保健所、課長を職から解く…『職員の検体の廃棄を指示』 」(3月4日、韓国語)によると、課長は「もし、感染者と判定されれば、我々全員が隔離される。陰圧病室に行っても死ぬ時は死ぬし、治療薬もないのに検体が何の役に立つのか」と部下を叱った、というのです。
 この「事件」が発生したのは2月26日。当時は「濃厚接触者以外は検査しない」という基本方針が残っていたのでしょう。
 ただ、この記事が配信された3月4日には「とにかく検査」のムードに一変し「保健所崩壊」の阻止に動いた課長氏は降格されてしまったわけです。なお、保健所の職員2人は改めて検査を受けたところ陰性だったそうです。
全国民を検査するのに7・8年
…とは言え、韓国の検査能力が高い点は評価すべきでは?
鈴置:それも誤解です。韓国の検査能力は世間が思うほどは高くありません。 中央防疫対策本部の4月13日の発表 によると、4月12日午前0時までに実施したPCR検査数は51万4621件。韓国の総人口、5160万人(2018年推計)の1%弱です。
 5月上旬は入国者中心に1日2千―6千件台の検査数で推移しています。5月10日までの1日の最高実績は3月5日(3月6日発表)の1万8199件。このペースでも、韓国人全員を検査するのに7・8年かかります。
 検査キットは量産できても、検体を採ったり輸送したり、判定する人の数にはおのずから上限があるのです。
 1日あたりの感染者数のピークは2月29日の813人。 中央防疫対策本部の同日(16時基準)の発表 によると、この日の検査数は1万2888件でした。
 一方、判定に至っていない「検査中」の検体が3万5182件。採取した検体が急増したため、処理が追い付かず「仕掛品」が膨らんでいたことがよく分かります。
「長期化」に備え医療陣を休ませよ
…でも、韓国は日本と比べ累積検査数が多い。
鈴置:先ほども申し上げたように「大邱の失敗」と「政争」が原因で検査数が不正常に伸びたのです。
 そもそも、累積の検査数が多いのは感染者数が多いか、無駄な検査をしていることの証です。「多いぞ」と数字を誇る韓国人もお笑いですし、それを褒め称える日本人もピンボケです。
 実は、韓国でも「余計な検査」を減らそうとの声が高まっています。検査に携わる人が疲労困憊したからです。4月29日、朝鮮日報は「 陽性率が0・17%に急降下 」(韓国語版)です。
 4月20―26日の1週間に検査した人のうち、感染者と判定された人の割合…陽性率は0・17%。累積ベースで見ても韓国は1・8%で、日本(8・9%)、英国(28・1%)、イタリア(16・3%)と比べ極端に低い。
 地域別でも、大邱(7・3%)、慶尚北道(2・6%)以外の地域はすべて1%未満(データを公表していない京畿道を除く)。要は打率…検査効率が低いのです。以上のデータから、この記事は次のように主張しました。
・感染症の専門家の間では「国内最悪の拡散を防いだ一番の功績は大がかりな検査にあるが、医療陣の疲労蓄積も深刻な水準だ」との指摘が出ている。
・感染者が再び増える前だけでも検査対象を減らすことで、新型肺炎の検査所の運営負担を減らし、医療陣が「コロナ長期化」に備えることができるようにしようとの意味だ。
密かに検査を絞り込む韓国
 韓国政府も静かに検査の絞り込みに動いています。それが表面化したのは中央日報が「 総選挙目前に魔法のように急減…『コロナ検査縮小』疑惑の真実は 」(4月13日、韓国語版)を載せたのがきっかけでした。
 筆者はチャン・セジョン論説委員。まず、4月15日の総選挙を前に新規感染者数が急速に減っているが、検査数を減らしたためではないか、と指摘。
 さらに、検査数が減ったのは「3月2日以降、政府がPCR検査のガイドラインに『原因不明の肺炎などが疑われる者』との要件を追加したため、問診に加えCT検査なども必要になったと医師が考えたからだ」と批判しました。
 これに対し、中央防疫対策本部は 同日のブリーフ で「検査数が減ったのは集団的な発症が減ったからだ」と反論。「要件の追加は例を示しただけであり、依然として検査は医師の判断で可能である」と弁明しました。
 すると、チャン・セジョン論説委員は直ちに再反論。同じ記事に「医師が改正ガイドラインのために検査実施に負担を感じているのは事実だ」と書き加えました。
 CT検査などで新型肺炎の可能性が高い患者を絞り込んでからPCR検査を実施する、というのが日本のやり方。韓国の手法もそれに似てきたのです。逆に日本は「PCR検査を受けやすくしろ」との批判に押され、ハードルを少しずつ低くしているのですが。
韓国政府は信頼されている?
…「検査大国」は神話だったのですね。ただ、政府が信頼されているので「社会的距離」が容易に実現した、と誇る韓国人もいます。
鈴置:興味深いデータ・ベースがあります。「Apple map」の経路検索データを基に、 国・地域別に人々の移動の動向を数値化して公開するサイト です。
 日ごとの移動の動向が、新型肺炎が大流行する前の1月13日と比べた割合「%」で示されます。これを見ると、韓国は日本よりも2か月以上も早く、人出が急減したことが分かります。
 日本の人出…「徒歩」の移動動向が完全に百%を割り込んだのは4月4日(82・85%)。3月28日に安倍首相が「3密」…「社会的距離の維持」を国民に求めた後のことでした。
 一方、韓国の人出は2段階で減りました。完全に百%を割ったのは2月1日(87・13%)。その後はバレンタインデーの2月14日(94・45)を除き、60-80%台が続きました。これが1段階目の減少です。
 2段階目に突入したのは2月23日。57・99%と初めて50%台に落ち込み、4月29日まで30―50%台を推移しました。2月23日に文在寅大統領が、警戒レベルを最大の「深刻」に引き上げたと表明したので、その影響でしょう。
 注目すべきは、1段階目の外出減少が「深刻レベルへの引き上げ」の3週間以上も前の2月1日から始まっていたことです。当時、文在寅大統領は国民に警告するどころか、すぐにも新型肺炎が収まるとの見通しを語っていました。2月13日のことです。
 2月1日現在、大邱の感染爆発は起きておらず、1人の死者も出ていなかった。その頃の新型肺炎のニュースといえば、1月30日に武漢への滞在歴のない韓国人の感染が初めて確認され、1月31日に中国から368人が特別機で帰国して隔離施設に入ったことぐらい。
 それでも、これらのニュースに接した韓国人は自発的に外出を控え、わが身を護ったのです。
「韓国すごいぞ!」のまやかし
…日本人は政府に指示されて外出を控えた。韓国人は指示前から外出を控えていた……。
鈴置:そこです。このデータから「韓国人は政府を信頼する」と見なすのには無理があります。むしろ「政府を信用しない」からこそ個人として自己防衛に走り「3密」を避けたと見た方が合理的です。
 37人が死亡した2015年の「MERS」(中東呼吸器症候群)の流行が韓国人のトラウマになっています。日本の 国立感染症研究所が発表した数字 です。当時、彼らは政府の無能ぶりに憤りました。
 「ラクダの肉は食べるな」といった現実離れした指示を繰り返したあげく、感染拡大を許した。そもそも、中東以外で流行したのは世界で韓国だけだったのです。
 今年1月末、韓国政府が新型肺炎用の隔離施設を作ろうとした際、周辺住民が暴動を起こしました。説得のため現地入りした政府高官は暴行されました。韓国人の政府不信が噴出したのです。
 暴動の光景は「 韓国で新型肺炎の患者が急増 保守派は『文在寅政権の無能、無策』と総攻撃 」で見ることができます。
 こうした事実を並べると、「政府の優れた防疫対策を信頼し、一致団結して協力した国民」という、韓国人の美しい自画像には首をかしげざるを得ません。
 韓国人は「世界でもっとも優秀な民族」という評価を異様に欲しがります。今回の新型肺炎騒ぎでも、神話作りに精を出したのです。
 文在寅大統領のように臆面もなく「韓国すごいぞ!」と語る韓国人が多いので、つい日本人は信じてしまうのですが、真に受けてはなりません。判断を誤ります。
 「大邱の失敗に学ぶ」と答弁した安倍首相は十二分に分かっていると思われます。でも、ろくに調べもせずに、テレビや新聞で「韓国のようにPCR検査を増やせば問題は解決する」と主張する人が跡を絶ちません。
 本当のことを見極める必要があります。人の「生き死に」がかっているのですから。
鈴置高史
韓国観察者。1954年愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。
  2020年5月7日、テレビ朝日の朝のニュース番組グッド!モーニングで私がコロナウイルス診療に関してインタビューされたものが放送されました。
 前日、テレビ朝日の方から取材の依頼が来て、夕方にzoomを用いたリモートでの取材という形で依頼を受けました。
 取材の依頼内容としましては、コロナウイルスへのヨーロッパ と日本の対応に関して現場の生の声を聞きたいとのことでしたので、専門家でないので一医療従事者の声としてしか答えられませんとお断りした上で取材に応じさせていただきました。
 が、編集で取材内容とはかなり異なった報道をされてしまい、放送を見て正直愕然としました。
 取材では、ヨーロッパ での感染状況に関して、私がベルギーから日本に戻ってきてコロナウイルスに関する診療をするに至った経緯、帰国時に感じた日本の診療体制に関する率直な意見、また日本で再度働き始めて1ヶ月ほど経って現場はどう変わったか、現在の現場の様子、日本のPCR検査への対応に関して、現在医療現場で必要とされているもの、最後に一言、という感じで40分程度質問に答える形で進んでいきました。
 その中でも、PCR検査に関してはこれから検査数をどんどん増やすべきだというコメントが欲しかったようで繰り返しコメントを求められましたが、私は今の段階でPCR検査をいたずらに増やそうとするのは得策ではないとその都度コメントさせていただきました。
 確かに潤沢な検査をこなせる体制というのは本当に必要な方に対してはもちろん必要です。
 ただ、無作為な大規模検査は現場としては全く必要としていない事をコメントさせていただきましたが完全にカットされていましました(※大規模検査が必要ない理由に関しては、調べていただければ感染症や公衆衛生の専門家の方々の意見などたくさん出てきます)。
 カットだけならまだいいのですが、僕がヨーロッパ 帰りということで、欧州でのPCR検査は日本よりかなり多い(日本はかなり遅れている)といった論調のなかで僕のインタビュー映像が使用されて次のコメンテーターの方の映像に変わっていき、だからPCR検査を大至急増やすべきだ!というメッセージの一部として僕の映像が編集され真逆の意見として見えるように放送されてしまいとても悲しくなりました。
 また、現場の生の声として、物資の手配と医療従事者への金銭面や精神面での補助に関しても強調してコメントさせていただきましたがそちらも全てカットされてしまいました。
 物資の手配に関してはたくさんのコメンテーターの方が繰り返し言っているのでまだいいのですが、最前線への医療従事者の方には危険手当のような補助がないと続かないということは強く言わせてもらったつもりです。
 家族などへウイルス感染を持ち込んでしまうことを恐れて1人病院に泊まったり、病院の近くにホテルやマンションを借りて自主的に隔離をしているスタッフも知っています(もちろん自腹です)。
 愛する家族子供とも会えずに、身体的精神的な負担だけでも計り知れないのに、金銭面な負担までのし掛かるのは本当に残酷でしかありません。
 医療者のプロフェッショナルとしての気概だけで現場を回すのには限界があると思い、そういった部分に行政などからサポートを入れて欲しいと強くコメントさせていただきましたが、全てカットになってしまい本当に悲しい限りです。
 忙しい最前線の医療スタッフは取材に応じる時間も気持ちの余裕も全くないです。
 僕はたまたま非常勤として働いており時間があったので現場の生の声を多くの方に知ってもらえればと思い取材に応じさせてもらいましたが、実際には生の声すら全く届けることは出来ず不甲斐ない気持ちです。
 メディアの強い論調は視聴者に強く響き不安を煽ります。
 情報が過剰な現在で、どうか正しい知識と情報がみなさんに行き渡って欲しいと切に思いました。
 「K防疫」とは韓国が自ら施行した新型コロナ対策の呼び名だ。感染者の移動経路などの情報を公開、PCR検査を徹底して行ったため、4月中旬には新規の感染者が10人前後まで減少、5月6日に外出自粛要請を解除した翌7日には、K防疫、Kバイオなどを目玉に、「ポスト・コロナ」時代の新産業戦略を提示。新型コロナの被害が大きかった主力事業を、新産業として再編するとした。
 総選挙にも圧勝し、男を上げた格好の文在寅大統領は同10日、「我々は防疫において世界をリードする国になった。K防疫は世界の標準となった」と内外に誇らしげにアピールした。
 しかし実は、ソウル市内の繁華街、梨泰院で集団感染が8日に確認されており、同9日にすべての遊興施設に営業停止命令が下され、再び規制を強化していたのだった。同11日までに79人の感染者が確認された。人々が一斉に街に出てあふれかえり、「密」への警戒感もまったく薄れてしまったという。防疫当局は従来の新型コロナとの違いを、「伝播する速度が極めて早い」と警戒しているという。
 連鎖は続く。同26日には京畿道富川市のECサイト、クーパン物流センターで60人が感染、臨時閉鎖に追いやられ、さらにソウル松坡区のマーケット・カーリー物流センターでも感染者が発生した。ここでの感染者の中には、1600人あまりが勤務するコールセンター職員も含まれていた。このため、各所に勤務する4千人以上の人々が自宅隔離に追いやられたという。韓国政府は28日、ソウル市など首都圏を中心に6月14日をリミットとする外出・イベントの自粛を呼び掛けた。
 このうえウイルスの遺伝子が大きく変異していれば、これまで行っていた対策を無にしかねない。防疫当局は遺伝子じたいの変化は確認されていないものの、「伝搬の速度がきわめて速い」という警鐘を鳴らしている。
 そもそも韓国内での本格的な感染拡大の発端は、今年2月16日、大邸市でキリスト教系の新興宗教団体「新天地イエス証しの幕屋聖殿」の大規模な礼拝で2千人超の感染爆発が起きたことだったが、文大統領はその3日前の13日にも、韓国産業の6大グループの経営トップと経済界のコロナ対応を協議する場で、「防疫管理はある程度安定的な段階に入ったようだ」「コロナ19は遠からず終息するだろう」と言い切ってしまっていた。
 大見得を切ると、実態が逆に動く。一国のリーダーとしては、かなりみっともない姿を晒したことになる。しかし、ワイドショーを始めとする日本の国内メディアの“韓国を見習って、PCR検査を増やせ”と主張する「韓国推し」は壮観ですらあった。たとえば、4月23日付ニューズウィーク日本版では、「なぜ必死で韓国を見習わないのか」「百%真似すべき」と主張。紙と鉛筆と電話で感染者の経路を追う日本の保健所のやり方を「戦車に竹やりで向かう以上の戦い」「ロケットに弓で対抗」とこき下ろした。
 しかしこの第2波発生を受けて、韓国主要紙は「日本が韓国を羨ましがる時間はそんなに長くなかった」「日本の各メディアの記事の論調から読者の反応までもが一瞬にして変わった」と、日本国内での受け止め方の変化を表現している(5月23日付朝鮮日報、イ・テドン東京特派員)。
 “感染再発”の経緯を少し詳しく見てみよう。この第2波の中核となってしまったソウル市内のゲイクラブでは、270人のクラスターが発生。入店の際に義務付けられていた名前と連絡先など個人情報の記入も、約5千人分のうち2千人は虚偽。感染防止には初動が大きくものをいうが、追跡ができないために初動が遅れてしまい、7次感染まで拡大させてしまった。
 富川市の物流センター内の飲食店では、「百人余りの勤労者が肩が触れ合う距離で座って食事を取り、仕切りも最初の患者が発.した後で設置された」(聯合ニュース)。休憩室や喫煙室などにはマスク未着用者も多数。「アルバイトなど日雇い労働者が多く、『体調不良の場合は3~4日休む』という規則が事実上無きに等しかったという指摘がなされている。
 韓国の国内メディアが一転、叩きの標的としているK防疫だが、第2波が来る寸前までは、「全世界から国内新型コロナ対応経験を伝授してほしいという要請が殺到した」ため、その伝授のために何と約2時間のウェブセミナーまで開いていた(中央日報)。毛嫌いせずに、少し詳しく見ておくべきだろう。
 K防疫とは、いかなる手法なのか。日本が取った手法とは異質であることがすでに報じられているが、感染経路をたどる際、個々人の携帯電話の位置情報、防犯カメラの映像、クラスターが起きた現場付近のクレジットカードの決済記録などを当局が把握、警察官を多数動員して追跡する。日本から見ると、法制度上の問題に加えて、プライバシーを度外視したにわかには受け入れ難い手法に見える。
 感染拡大初期には、ショッピングモールを訪れた感染者が時間帯別にどの売り場を訪れたのかなどの動線が地方自治体のSNSに掲載されていたという。その後、予防に必要な情報に限る等々の様々な制約がついた。2015年に、日本では感染者ゼロだった中東呼吸症候群(MERS)の感染拡大を経験した韓国国民だからこそ、プライバシー論争を経て仕方なく受け入れた手法といえよう。
 MERS感染の際は、中東を歴訪し感染した最初の韓国人患者が発症から隔離までに10日かかり、その間に4カ所の医療機関で受診。多数の医療従事者や患者らに接触することになり、2次感染、3次感染を含めて計186例、1万6693名が隔離対象となっている(国立感染症研究所HPより)。
 もっとも、第2波を受けて、プライバシー論争が再燃。身元がバレる被害も出ており、富川市のフェイスブックには感染者の動線の公開範囲を糾弾する書き込みが多くみられる(中央日報)。基本的な手法は不変と思われるが、この先どう手を加えるのかにも興味は尽きない。
 我が国に目を転じると、緊急事態宣言が解除され、手のひらを返した海外メディアの賞賛が相次いでいる新型コロナ対応だが、そうそう喜んでも言っていられない。
 人口百万人あたりの死者数は、理由はわからないが日韓始め東アジア諸国は欧米と比べて格段に低い水準にある。欧米メディアが不思議がるポイントである。ただ、5月12日を境に日本は韓国を上回り、その後はほぼ横ばいの韓国と比べてわずかに上向きなのは少々気になる。
 福岡・北九州市の病院・介護施設や小学校で集団感染が相次いでいる件は、政府担当者だけでなく日本中の個々人が注視しておく必要がある。北九州市立八幡病院の伊藤重彦院長は、「北九州での第1波と第2波では感染者の症状に違いがあり、第2波の特徴として突然の意識障害に陥るなど重症となる患者が増え、医療従事者が感染する率が高かった」という(NHK)。
 第2波を不用意に拡大させて、経済活動を再度ストップさせるわけにはいかない。政府にはバランスの取れた差配を、企業や個々人は引き続き慎重な行動が求められる。
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